社会福祉に係るコスト及びサービスに対する,市町村合併の効果に関する実証的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100043A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉に係るコスト及びサービスに対する,市町村合併の効果に関する実証的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 弘(山口大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,996,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,医療・介護等社会福祉に係るコスト及びサービスが市町村合併によってどのような影響を受けるかを日本のデータによって数量的に推計することを目的とする。このため,①全国3000余の全市町村のデータにもとづいて,社会福祉関連項目と市町村の人口規模との間の一般的傾向性を導出し,②これにもとづいて,市町村合併の,社会福祉に係るコスト及びサービスへの効果を数量的に推計する。
研究方法
(研究計画:第1年目)まず最初に,福祉関連指標を選択する。おそらく,コストとサービスに関して,各々10個~20個の指標を選択することになろう。このさい重要なことは,福祉のコストとサービスを表す指標のうち,3000余の全国全市町村の比較可能なデータが入手し得るような指標を見いだすことである。これには,今までの経験では,相当な苦労,日数,経費を伴う。
全国のなかで、大都市と地方では異なる傾向性をもつことが予想されるので、大都市圏と地方圏に分けた分析も加えたい。また、福祉関係では、市町村だけでなく広域連合も重要であるので、これも調査研究単位に加えたい。
つぎに,選択した福祉指標について,試論的に,市町村の人口規模との関係を図示し,統計的に有意な関係を見いだし得るかどうか検証する。統計的に有意な関係が見いだせないときは,指標を入れ替えて種々試みる。
なお,都市規模は,単に人口数だけではなく,人口構成(年齢,性別,要介護者など属性別),面積,所得,産業諸指標を含む。
(研究計画:第2年目)第1年目で選択された指標について,全市町村について,全データをインプットして,一般的傾向性を求め,その関係式を確定する。それによって,福祉関連指標からみた最適都市規模を求める。もし,1年目において,既存データでは不十分ということが判明したら,上記2年目の計画を縮小して,別に,アンケート調査を行う必要が生じる。
(研究計画:第3年目)第2年目で確定した関係式に基づいて,市町村合併の,福祉関連諸指標への効果を推計する。市町村合併としては,人口規模に応じて,10種類程度のモデル都市を設定し,合併の効果をシミュレーションする。また,全国の341の広域市町村圏について,市町村合併の福祉面からみた効果を推計する。
結果と考察
福祉指標のうち個々の具体的な指標について都市規模との関係を求めることを進めているが、試行錯誤の段階であり、今年夏頃には完成予定である。しかしながら、一般的な福祉指標である福祉・医療サービス水準について、全国市区のデータに基づいて、都市規模との関係を導出することによって、以下のような成果を得た。
(1)都市の人口規模を説明変数として福祉・医療サービス水準説明するとき、両変数の対数をとると、右上がりの直線がよくフィットし、回帰式もその定数項及び係数もともに有意水準0.01で有意である。すなわち、福祉・医療サービス水準の人口規模に対する弾力性は0.0058%であり、都市の人口規模が1%増大すれば、福祉・医療サービス水準は0.0058%向上する傾向がある。そのことは、通常の正方軸で表すとき、「上に凸の右上がり」の関係を意味するので、都市規模の増大につれてはじめは福祉・医療サービス水準は急激に上昇し、さらに都市規模が増大すると、福祉・医療サービス水準は向上するが、その向上の程度は次第に弱くなる、ことが分かる。
(2)福祉・医療サービス水準を人口と面積で説明しよとするとき、人口の影響が面積よりも遙かに大きく、面積は人口の影響を修正する要因として考慮するべきである。
(3)都市の福祉・医療サービス水準は、その現実値だけでなく、「標準値」(都市規模に見合う福祉・医療サービス水準)によって評価することが出来る。一般に、中国地方の市は、福祉・医療サービス水準は全国の中で現実値が低く、しかも、都市規模を考慮する標準値でみると、さらに低くなる。
(4)市町村合併の福祉・医療サービス水準への効果を中国地方の広域市町村圏についてみると、広域市町村圏によって効果は異なるが、多くのケースで市町村合併の福祉・医療サービス水準への効果はプラスである。この点は、人口ベースでも、人口・面積ベースでも殆ど同じであり、前者では83.3%、後者では79.2%が改善を示し、残り約20%が悪化となっている。したがって、効果の程度は種々ありえるが、市町村合併の福祉・医療サービス水準への効果はあると判断するのが妥当である。
(5)市町村合併の福祉・医療サービス水準への効果を、人口規模30万、20万、10万、5万、3万、1万人の都市(又は町村)という典型的なモデルについて推計すると、市町村合併の効果は確実に現れる。
以上の分析の他に、市町村よりも広域に及ぶ地域について、その地域規模と種々の福祉指標との関係を考察している。また、都市規模として人口以外にも面積や、福祉対象者(高齢者など)を考察しており、大都市と地方との違いも考察している。
本年度の研究を通じて、個々の具体的な福祉指標と都市規模との関係に一定の傾向性を見出す可能性が出てきたので、これを次年度につなげたい。
結論
医療・介護等社会福祉に係る指標に基づいて、都市規模と社会福祉指標との間に一般的関係を見出すことは可能であること、また、その関係を通じて、市町村合併の社会福祉に与える効果を数量的に推計することは可能であるということが分かった。しかも、本年試論的に求めた社会福祉の一般的指標(福祉・医療サービス水準)についてみると、市町村合併の社会福祉への効果は確実に存在するという結果を得た。社会福祉の点から市町村合併を推進する1つの根拠を提供するものであると同時に、個別的な社会福祉指標に関する次年度以降の研究において成果を得る見通しをもつことが出来た。

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