医療費データと接合された検診データ等による検診の効果分析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100037A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費データと接合された検診データ等による検診の効果分析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小椋 正立(法政大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所研究員)
  • 角田保(大東文化大学経済学部講師)
  • 河村真(法政大学経済学部教授)
  • 鈴木玲子(日本経済研究センター主任研究員)
  • 山田武(千葉商科大学商経学部助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康診断を受診することにより、生活習慣病の発症を早期に察知し、治療を受ければ、重症化を避けることが可能になり、医療費の適正化に資することが期待できる。また、健康と判断された個人は自らの生活の中から、健康リスクとなる要因を十分に除去していることについて、不安なく生活できる。これも健康診断事業の効用と言えよう。
これらの点を明らかにするためには、個人にとって、健康診断の内容に関する情報と医療費の情報が、分析者にもリンケージされている必要がある。本研究班では健康診断のデータと医療受給データを接続し、パネルデータを作成し、分析することによって、健康診断の効果の分析を行うことを目的とする。
本年度は2年計画の初年度として健康診断データ、医療受給データの基礎的な性質を把握しさらに発展的に、喫煙や飲酒などの危険行動が、一般的な健康指標にどのような影響を及ぼしているか、及び健康診断や危険行動と医療費の関係についての関係についても検討した。
研究方法
健診の効果と健診受診行動についてと国民栄養調査を用いた先行研究のサーベイについては上山美香研究協力者がこれを実施した。
健康診断受診の経済学的分析については山田武分担研究者が医療需要の古典的なモデルであるGrossman(1972)のモデルに健康診断の要素を新たに付与することによってシュミレーションモデルを構築した。
第3の方法については、3つの健康保険組合の健康診断情報及びそれにマッチング可能な医療費の情報について、泉田信行分担研究者および佐藤雅代研究協力者は、それぞれ(1)医療データの分析のために「エピソード」法による構造化をおこなったほか、結合データ相互間のエラー頻度を分析した。河村真分担研究者は(2)健康診断の問診票を用いて自覚症状の有無と喫煙や飲酒などの危険行動との関連を分析した。角田保分担研究者及び鈴木玲子分担研究者は、共同で(3)一つの企業を選んで、定期健康診断と人間ドックの受診が、医療費に及ぼす効果について、予備的な計量分析を行った。小椋正立主任研究者も同様に一企業を選び(4)健保データ、健診判定結果データ、医療費データから、企業が提供している健康診断の受診率に系統的な影響をもたらす要因があるかどうか、一次健診の判定結果と二次検査の受診行動を分析し、さらに健診の受診行動が医療費にどのような影響を及ぼしているかを分析した。
第4の方法については、本年度は、橋本英樹講師(帝京大学医学部講師)、清野富久江氏(厚生労働省健康局生活習慣病対策室)及び吉池信男研究企画・評価主幹(国立健康・栄養研究所)を招聘し講義を受けた。先行研究サーベイについても広範に行ったため、申請作業は次年度に繰り越すこととした。
結果と考察
「健診の効果および受診行動に関する既存研究」論文においては、上山は先行研究において、健診受診の決定要因が身体的な状況ではなく、職業(特に職場健診の有無)や生活環境、性別、年齢などによって特徴付けられること、各保健予防的行動には相互に関連があり、健診受診者と未受診者では医療受療行動にも違いが見られることをまとめた。「既存研究における国民栄養調査使用の動向」論文で上山は国民栄養調査を用いた本格的な研究は予想以上に少なく、また、研究テーマには時代背景の流れに沿った傾向があることが明らかにした。
山田武分担研究者は、消費者が健康診断を受診したときの期待効用と、はじめから医療機関で受診するときの期待効用、さらに健康診断も医療機関でも受診しない場合の期待効用を比較して、最も高い期待効用を与える選択肢を選択すると考えることにより経済モデルを構築した。その結果、次の結論をえた。 (1)所得が少ない場合や医療サービスの価格が高い場合、健康状態が低下している確率がゼロまたは1に近い場合には健康診断を受診しない。(2)健康診断料と初診料の価格比に応じて、健康診断と医療機関での受診の間には代替的な関係が存在する。
データの特性に関して、佐藤雅代研究協力者は健康診断データと医療受給データについて、泉田信行分担研究者は医療費データをいわゆる「エピソードデータ」に集約し、医療受診の基礎的な分析を行った。その結果、先行研究において得られてきた結果と整合的な結果である、(1)男性に比して女性の方がエピソードの発生頻度が高く、(2)40歳を超えるとエピソード数が減少すること、(3)家族の方が本人よりもエピソード数が多いこと、(4)同一世帯の家族構成員数が多いほど個人のエピソード数が増加すること、(5)世帯所得が高いほど個人のエピソード数が多いこと、を示唆する結果を得た。
河村論文は、自覚症状の有無と喫煙や飲酒などの危険行動との関連について次の結果を得た。非喫煙者に比べ喫煙者は(1)飲酒の可能性が高く、 (2)濃いお茶やコーヒーの飲用の頻度が高い。 (3)喫煙と飲酒ほど明確な相関ではないが、飲酒の頻度が特に高い者は、コーヒー・お茶の飲用の頻度が飲酒をほとんどしない者に比べ高い。(4)喫煙の頻度が高いことは、自覚症状を訴える可能性を高める。(5)コーヒーやお茶の高頻度の飲用もこれら4つの自覚症状を訴える可能性を高める。 (6)年齢、睡眠および食欲の状況の悪化は自覚症状を訴える可能性を高める。
健康診断の医療費節約効果について検討した角田保・鈴木玲子両分担研究者の論文は、60ヶ月分のアンバランスドなパネルデータを作成した後に、ランダムエフェクトモデルを用いて分析した。その結果、定期健康診断を受診し、かつその月に入院外診療を受診した人の医療費を集計すると、その当該月の医療費は、その前後の月よりも高くなっていた。しかし、他の項目でコントロールして分析した結果、定期健康診断を受診することは、医療費を引き下げる効果が見られた。一方、人間ドックについては、逆に引き上げる効果があることがみられた。
小椋論文では健診データと医療費データから、企業が提供している健康診断の受診率に系統的な影響をもたらす要因を検討している。推定結果によれば、いわゆる働き盛りについては、小さな差異が見られたに過ぎない。性別や給与による差についても、企業内では、これまでの研究から知られているものよりも、はるかに小さい差しか観察されない。過去半年間に、入院や投薬を受けた場合には、健康診断の受診率は低下する。同じ期間の外来医療と受診行動の間に明確な関係は見られなかった。企業は二次検査を設定しているが、年ごとのバラつきが大きい。また従業員は、一次健診の判定結果から重大な健康リスクの可能性があるものについて、すべてきちんと二次検査を受診しているとは認められない。5年間、連続して在籍した従業員2万人の医療費と健診の受診回数の関係を分析下結果によると、受診した半期の医療費は受診しない半期に比べて、3600円ほど安くなる結果が得られた。
費用便益分析では社会的な観点から健康診断を評価する。しかし、個人の選択という観点からの評価は十分ではない。個人が健康診断を受診するのは、健康であることを確認するだけでなく、日常生活の中からそれを脅かす要因を除去するためでもある。われわれの研究はこのような個人の選択の効果を念頭においた研究であることが、これまでの研究とは異なる。
健診が生み出してきた健康リスク情報を、個人がどのように利用し、反応してきたか、その差によってどの程度の健康や医療費に影響が生じてきたのかを明らかにするために、最新の理論モデルと、計量経済学の手法を適用していく必要があることは明らかである。
国民生活基礎調査にかかる研究については、とくに幅広い分野で国民栄養調査の持つ豊富な情報を活用していく必要があると考えられる。来年度は本年度得られた研究成果をもとに、理論的・実証的な分析を進める予定である。
結論
先行研究サーベイ、データ分析結果に関する考察結果を踏まえると、次年度は(1)健康保険組合データを用いて、飲酒・喫煙などの危険行動、健康診断受診、医療機関受診に関する総合的な理論的・実証的に分析することが可能であり、有効であること、(2)国民栄養調査等の公式統計を用いた分析を行って健康保険組合データの比較・補完を行う分析を行うべきことが明らかである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-