医療機関の機能分化政策の形成的評価-政策評価手法の1モデルとして(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100036A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関の機能分化政策の形成的評価-政策評価手法の1モデルとして(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田村 誠(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田敬(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,080,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では現在、医療保障(診療報酬)および医療制度(医療法)の両側面から、医療システムの機能分化政策が強力に推し進められようとしている。本研究の目的は二つある。一つは、この医療機関の機能分化政策の評価を行おうというものである。もう一つは、中央省庁等改革において導入された政策評価制度手法の1モデルとして形成的評価を試みるものである。
研究方法
2001年度は2つの調査を行った。一つは、地域医療連携関係の診療報酬加算取得状況の全国調査である。地域医療連携関係の診療報酬上の主な加算である「紹介外来加算」「紹介外来特別加算」「急性期病院加算」「急性期特定病院加算」「地域医療支援病院入院診療加算」(いずれも医科)の5つを全国のどの病院が加算しているかを調査した。全国の都道府県社会保険事務局に調査依頼状を郵送し、上の5つの加算を各都道府県でどの病院が取得しているかを所定の書式に記入してもらい、FAX、郵便等により返信してもらった。もう一つは、特定の地域医療支援病院(浦添総合病院)に関わる調査である。同院は地域の医療機関との連携を積極的に行い、一方で紹介外来制を採用する等、外来患者の抑制を行っている。同院からの逆紹介患者1000名と登録開業医111名を対象として質問紙による調査を行った。
結果と考察
まずは、地域医療連携関係の診療報酬加算取得状況の全国調査であるが、地域医療連携関係の各加算を取得した病院数で最も多いのは、「紹介外来加算」の360病院であり、続いて「急性期病院加算」の265病院、「紹介外来特別加算」の138病院、「地域医療支援病院入院診療加算(以下、地域医療支援病院加算)」の19病院、「急性期特定病院加算」の8病院の順であった。2000年7月時点での届け出状況と比較すると、「紹介外来加算」と「急性期病院加算」が、それぞれ50%近く増えているのに対し、「紹介外来特別加算」は2割弱の伸びであった。「急性期特定病院加算」は割合としては大幅増であったが、依然として全国で8病院にとどまった。「紹介外来特別加算」取得病院は1年前に比べてあまり増えていなかった。なかでも、民間病院(医療法人立)は23病院(1.8%)しか同加算を取得していない。そこでその23の民間病院に対して、訪問面接または電話調査を行った(調査拒否の1病院を除く22病院の調査完了)。調査では各病院に「外来患者数を少なくする努力をしたか」を尋ねた。その結果、同加算が設置された昨年の4月以後に外来患者を少なくしようとしたのは1病院だけであった(浦添総合病院)。残りの22病院のうち、4病院は隣接地に診療所を有していた。残りの17病院では「特段に努力していない。もともと外来患者数が少ない」とのことであった。外来患者が少ない主な理由は、近隣に診療所が多くある、病院の立地条件が悪い、大学病院等の高次機能病院の後方病院である、以前から紹介型病院を目指して地域との緊密な連携をはかってきた、などであった。17病院のうち、診療内容を専門特化するなど、紹介型病院を目指してきたと回答したのは3病院のみであった。中には、外来患者を抑えるどころか、増やしたいという病院もあった。また、2次医療圏において地域医療連携に関連する紹介外来加算、紹介外来特別加算、地域医療支援病院入院診療加算等の加算を取得している病院数と地域特性との関連を分析した。紹介外来加算取得病院数と二次医療圏別の地域特性指標との関係は、施設数や病床数、入院および外来患者数と有意な正の相関がみられた。特に一般病院数や一般病床数、一般診療所数、1日平均入院・外来患者数と強い相関がみられた。また病床利用率や平均在院日数との相関はみられなかった。病床過剰率との間には弱い
正の相関がみられた。
次に、特定の地域医療支援病院(浦添総合病院)から逆紹介した患者についての調査結果である。まず、浦添総合病院が逆紹介したところに通院しているかと尋ねると、約7割もの人が、同病院が逆紹介した医療機関に通院していることがわかった。浦添総合病院と地域診療所の役割分担についての考え方の説明を受けたかと尋ね、説明を受けたと回答した人にさらに「納得したか」と尋ねると、調査対象者全体のうち、納得したと答えた人は44-46%に留まった。(一般論として)病院と診療所が役割分担をすることについてどう思うかと尋ねたところ、賛成と反対の人が概ね半数ずつであった。これらや自由回答の調査結果をもとに、現実に示唆しうるところは以下のものであった。一つは、いわゆる家庭医の育成である。複数の診療科を擁する病院ではなく、単科の診療所に通院する場合、複数の診療所に通院しなくてはならないので不便である、という意見が何人からみられた。もう一つは、機能分化に対する住民の理解である。紹介患者中心となる地域医療支援病院のような存在は、地域住民の理解なしでは成り立たない。今回の調査では、機能分化(地域連携)の考え方を調査対象者の約半数が納得していたが、残りの半数は納得していない。逆紹介した患者には、病院の医師や地域医療連携室の職員が機能分化の説明をしているはずにも関わらず、この程度の理解度・納得度である。住民に対して広く機能分化の考え方を訴えていくことは、国や自治体の責務であろう。
次に浦添総合病院の登録開業医調査の結果である。同院が地域連携を積極推進していることについてどう思うかを尋ねたところ、「とくに問題はない」と答えた人が75.9%と大半を占めたが、残りの約2割の人は問題があると回答した。問題を感じている内容は、「連携の方法(情報提供)」をあげた人が33.3%いた。その他には同院をやめた人が地域で開業しており、その人たちが同院と特別な密接な関係を持っていることを問題視する声もあった。次に、同院から逆紹介された患者が通院継続しているかと尋ねたところ、「ほとんどの患者が通院している」と答えた人が76.6%、「半分くらいの患者が通院している」と答えた人が19.1%、「ほとんどの患者が通院していない」と答えた人は4.3%だけであった。前述の逆紹介患者の調査結果とあわせ、逆紹介のシステムは概ね順調であると考えられる。
結論
地域医療連携関係の診療報酬加算取得状況の全国調査からは、機能分化、とくに外来機能の分化はあまり進展していないことが明らかになった。特定の地域医療支援病院(浦添総合病院)の調査(逆紹介患者と登録開業医)からは、さまざまな問題はあるものの、全体として地域医療連携は円滑に機能しているものとみられた。ただし、一般住民に対して機能分化の考え方を訴えていくなどの取り組みが求められていくものと思われた。また、政策評価の一つの形態として、形成的評価・多元的評価の方法の実例を示した。

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