レセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100035A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小林 廉毅(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 林邦彦(群馬大学)
  • 岡本悦司(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
6,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成12年9月の高度情報通信社会推進本部による「個人情報保護基本法制に関する大綱案」を受けて、政府は平成13年春、同法案を国会に提出した。同法案は、高度情報化社会における個人の権利保護と個人情報の公益利用を目指すものだが、大綱案の公表前後より、各方面から様々な意見がだされている。例えば日本疫学会(平成12年3月)や日本公衆衛生学会(平成12年5月)は声明書あるいは意見書の形で、疫学、公衆衛生に係わる研究について、大綱案で規定した原則の適用除外を要望している。医療・介護に係わる診療報酬明細書(レセプト)などの情報に関しても、同法案策定の理念に立ち返れば、個人の権利保護と情報の公益利用を両立させるようなデータ提供の具体的方策を検討する必要があると考えられる。本研究の目的は、わが国の実状に即した医療・介護に係わるレセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方と方策を提言することである。
研究方法
(1)レセプトを用いた研究の分析として、わが国において1987年~2001年までに公表された医療・介護に係わる診療報酬明細書(レセプト)を用いた調査研究の広範なレビューを行って、レセプトを活用した調査研究のデータベースを作成した。さらに、各々の調査研究におけるレセプトの情報ソース、情報利用のためのプロセス・手続き、分析結果と医療・社会保障行政へのインプリケーション、個人情報保護への配慮などについて、研究者本人を対象にしたアンケート調査を行った。(2)個人情報を扱う医学研究に関する研究倫理指針制定の動向について資料収集および聞き取り調査を行い、法的検討を加えた。(3)米国および韓国の医療保険の審査・支払情報を用いたデータベースにおける個人情報保護と研究利用の態勢について、資料収集ならびに担当者らからの聞き取り調査を行った。両国における医療保険の審査・支払情報を用いたデータベースについて、個人情報保護規定、データベースの公益・研究利用の実態とその過程、IT技術の導入状況について検討した。
結果と考察
(1)医学中央雑誌およびMedlineを用い、1987年~2001年までに国内で発表された医療費に関する文献の検索を行い、合計425件の文献を取り上げて内容のレビューを行った。その結果、医療費に関する原著論文および学会発表の約半数の201件が、レセプト情報を使用した研究であった。これらの研究は患者に対する治療法の選択から、国全体の医療政策に資する研究まで、幅広い目的で行われていた。このうち、もっとも多かった研究目的は、特定の治療法や疾患に要する医療費を検討するものであった。しかし、小規模な研究が6割を占め、統計学的に妥当性の高い研究は少なかった。また、文献中のレセプト情報の入手方法とプライバシー保護に関する記述が少なく、レセプト情報の管理やプライバシー保護の実態を文献から推測することは困難であった。そこでレセプト情報を実際に取り扱った研究者から直接、情報収集を行うためのアンケート調査を行った。レセプト情報を活用した文献201件の筆頭著者のうち、2002年1月時点の所属機関を確認できた125名にアンケートを郵送した。78名から回答を得た(回収率62%)。分析の結果、レセプトの入手先は病院・診療所が大半で、研究者側の依頼により保険者・医療機関から閲覧する形態をとった研究が6割であった。レセプト用紙のコピーまたは原本を使用した27名(35%)のうち、半数強は個人名の削除または番号への置き換えをしていたが、残りの半数弱は個人名の削除は行わなかったと回答した。使用後のレセプト情報の処理は、そのまま保管してある者や、保険者・病院に返却した者、廃棄した者など様々であった。一方、被保険者
に対しては、レセプト情報を調査研究に用いることを「個別に説明する必要はないが、広報等で周知した方がよい」という回答が4割を超えた。(2)個人情報保護法案の審議に関連して疫学研究倫理指針が制定されるなど、国内の研究倫理指針の整備が進められている。これらについて検討を加えた結果、研究倫理指針の整備はレセプト個人情報の利活用を阻害するものではなく、むしろ明確なルールを定めることによってレセプト情報の適正な利活用を促進する可能性が高いと考えられた。逆にレセプト請求をめぐる患者のインフォームドコンセントやレセプト点検委託の守秘義務など、これまで軽視されてきた健康保険法における個人情報保護規定の全面的な見直しが必要と考えられた。(3)米国では公的医療保険であるメディケアに基づくデータベースの整備が進んでおり、患者の属性、疾患名、主要な医療行為、医療費などを含むデータベースが一定のルールにしたがって、研究利用されていた。韓国は2000年に公的医療保険の統合一本化を実現したが、それに伴ってレセプトの電子化が進んでいる。2002年2月末時点で全医療機関の65%が電子的な方法でレセプトを審査機関(Health Insurance Review Agency)に提出していた。これは審査と支払の迅速化に大きく貢献している。これらのデータについて、行政目的の利用が進んでいる一方、研究利用の態勢はまだ十分ではなかった。
結論
国内のレセプト研究に関する調査・分析から、レセプト情報の研究利用に関して、保険者のみならず、病院から入手した場合を想定したガイドラインの必要性が示唆された。また健康保険法における個人情報保護規定の全面的な見直しの必要性も示唆された。さらにレセプト情報を用いた研究・分析の質の向上のため、大規模データベースの必要性と有用性が諸外国の事例から示唆された。

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