準市場原理及びITを使った保育サービス配分マッチングに関する実証的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100033A
報告書区分
総括
研究課題名
準市場原理及びITを使った保育サービス配分マッチングに関する実証的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
駒村 康平(東洋大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 和泉徹彦(千葉商科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保育サービスは準公共財であり、児童に対する良好な育成環境の保障と関係する規制は政府の責任であると考えている。この一方、保育サービスの生産・提供まで公が直接行う必要はなく、多様な事業者に競争的に供給させた方が望ましい。このような準市場原理・メカニズムの保育サービスへの導入は、バウチャーの発行と、情報の不完全性を解消するITの利用、多様な事業者の参入、サービスの質の評価などの改革を要素とする。社会福祉・対人社会サービスへの準市場メカニズムの導入の試みは英国、ドイツ、北欧、オセアニア、米国といった先進各国で進められている。こうした試みの中には、かならずしもうまくいかなかった例もある。とりわけ英国での保育バウチャーの導入とその失敗、北欧における成功については参考になる。いずれにしても社会福祉サービス、対人社会サービスの性質のばらつきは大きく、一概に準市場原理が機能するのか、バウチャーが機能するのかという結論は導きだすことはできない。社会福祉サービス、対人社会サービスに準市場原理、バウチャーを導入する場合には、個別にかなり慎重な制度設計が求められる。
本研究は、保育サービス市場への準市場原理導入、とりわけバウチャーについて理論的、実証的研究、さらに、情報コストを引き下げ、保育所と親の協力を可能にさせるITの導入が準市場メカニズムに与えるインパクトについて研究することを目的とする。
研究方法
本研究は、①「保育サービスにおける準市場メカニズム、特に保育バウチャーに関する理論的実証的研究」と②「保育サービスにおけるIT利用の可能性およびその実験」という二つの研究項目を有機的に結びつけた点に特徴がある。
①準市場メカニズム、特にバウチャーについての理論的、実証分析については、イギリス、北欧などのバウチャーを導入した国についてその効果と問題点に関するヒアリング、文献調査する。
②ITが保育サービス市場に与えるインパクトについても実験的サイトを立ち上げて、事業者アンケート、情報の不完全性や保育所と親の双方向の情報システムの可能性を検討する。
結果と考察
①「保育サービスにおける準市場メカニズム、特に保育バウチャーに関する理論的・実証的研究」バウチャーに関する理論的研究、実証的研究についての文献調査、ヒアリングに基づいて研究を進めた結果、バウチャー制度は、 ①定額で給付するか定率で給付するかという給付水準について、②利用者に追加支出を認めるか否かという点、③供給者が価格を自由に設定できるか否か、④所得の多寡によって給付額を変えるという点から、まったく制限ないバウチャー(フリードマン型)から制限の強いバウチャー(ジェンクス型)まで多様なスタイルがあることが明らかになった。また、所得と給付額の関係については、①定額型、②定率型、③累進型、④非線形型などがあり、理論的には逆S字型非線形型給付が望ましいことがわかった。さらに英国で導入された保育バウチャー制度について、成立過程、効果、問題点など調査した。この結果、英国で導入された保育バウチャー制度は、就学前教育と保育の二元状態のものと導入され、バウチャーの利用が就学前教育施設に集中したこと、資本コストを回収するに十分な額ではなかったこと、償還が遅れたことなど、多くの点で重大な欠陥があったことが明らかになった。また、バウチャーは需要サイドの議論であるが、供給サイドの改革がきわめて重要である。この点について、民間保育事業者にヒアリングし、初期投資負担が重要な参入障壁になっていることを確認できた。また、英国OSTEDの保育サービス評価システムも保育サービスの質の管理といった点から参考になる。
・「保育サービスにおけるIT利用の可能性およびその実験」
保育サービスにおけるIT利用の可能性についての事業者アンケート及びヒアリング調査を行った。また、保育所と親が双方向で保育状況に関する情報を交換するため実験サイトの立ち上げた。この実験サイトによる効果測定については次年度の課題にしたい。なお、事業者アンケートによって、事業者の多くは、保育サービスへの安定的な財源確保として、社会保険方式を望んでいることもわかった。
結論
①バウチャーは慎重に設計すれば、保育サービスにおいて十分機能する。②多様な供給者参入、保育所と親の双方向の情報交換、保育所の質の評価が重要な要素になる。    
バウチャーは多くのバリエーションがあり、政策目標によって柔軟な選択ができる。英国での保育バウチャーの失敗はバウチャー本質の問題ではなく、設計ミスである。また、準市場メカニズムを対人社会サービス、特に保育のような分野で機能させるためには、情報の不完全性や、保育所と親の協同作業として、あるいは保育サービスの質を改善する方法として、ITは有益と考えられる。 

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