EU諸国とアメリカにおけるSocial Exclusionと参入支援施策についての総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100031A
報告書区分
総括
研究課題名
EU諸国とアメリカにおけるSocial Exclusionと参入支援施策についての総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
福原 宏幸(大阪市立大学大学院経済学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本祥浩(中京大学商学部)
  • 小玉徹(大阪市立大学経済研究所)
  • 嵯峨嘉子(神戸親和女子大学文学部)
  • 庄谷怜子(神戸女子大学文学部)
  • 都留民子(広島女子大学生活科学部)
  • 中村健吾(大阪市立大学大学院経済学研究科)
  • 中山徹(大阪府立大学社会福祉学部)
  • 檜谷美恵子(大阪市立大学大学院生活科学部)
  • 平川茂(四天王寺国際仏教大学人文社会学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
12,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、社会的援護を要する人々(ホームレス生活者、貧困者、アルコール依存者、外国人への排除や摩擦、家庭内暴力・虐待、高齢者の自殺や孤独死など)の問題が広がりつつある。こうした問題の解決に向けて緊急の社会福祉施策が求められている。他方、EU諸国やアメリカでも同様の問題が発生しており、すでに多くの取り組みが進められてている。とくに、EU諸国ではこれらの人々は「社会的に排除された人々」として捉えられ、Social exclusionをキーワードとして理論的整理がなされるとともに、多様な施策の展開がなされている。私達の研究の目的は、まず、これらの理論についての研究を深めるとともに、イギリス、ドイツ、フランスそしてEUレベル(たとえばEU委員会)における具体的政策とその実施状況について、調査することにある。また、これとの比較において、アメリカでの施策とその実施状況についても調査を行う。さらに、これらの国における「排除された人々」の一類型であるホームレス生活者の研究をこれまで行ってきたが、その過程で各国の行政機関、支援NPOとの交流を深めてきた。したがって、このsocial exclusion問題の研究においても、これらの人脈を大いに活用することで、「現場」レベルにまで掘り下げた分析ができるものと確信している。
研究方法
今回の研究にあたって、主任研究員の他9名の分担研究者によって研究組織を構成し、各国別に小グループを編成している。理論研究およびEUレベルの政策:福原(主任)・中村・岡本。フランス担当:福原(主任)・都留・檜谷。イギリス担当:中山・小玉・岡本。ドイツ担当:中村・庄谷、嵯峨。そしてアメリカ担当:平川。さらに、アメリカについてはUCLAの都市貧困研究センターのMatthew Marrの両氏に、資料収集と研究補助を依頼する予定である。一年目は、これらの小グループによって文献収集とその分析を進めるとともに、現地での関係機関への訪問とインタビュー調査を実施した。二年目は、それらの調査データの整理と、補充調査を実施し、報告書をまとめていく。
結果と考察
ドイツ、イギリス、フランス、欧州連合そしてアメリカでの現地調査を実施した。各国のホームレスの実態、そして行政機関、支援NPOの活動について、各国それぞれ10~15団体(および研究者)を訪問し、聞き取り調査を行った。それによって、各国のホームレス実態と政策の特徴を明らかにしてきた。以下では、これらの点を整理しておきたい。第1に、EU諸国ではホームレス概念が日本と比べ広く捉えられ、支援政策も単に路上生活者に限定せず、「社会扶助施設・緊急施設・支援団体に宿泊する者」、「家族、友人宅に寄宿する失業者」、母子施設などの「若年母子世帯」なども含まれる。このことから、支援事業は、一般法の枠内で行われている。これに対し、アメリカは、おおむねEU諸国と同様のホームレス概念であるが、政策は路上のホームレス生活者に対する特別法の枠内で行われている。第2に、EU諸国では、ホームレス生活者を捉える視点また政策理念(「社会的排除」と「社会への参入」)では共通しているが、具体的政策はいくつか異なっている。ドイツでは連邦制国家であることから、地域ごとに政策が多様である。イギリスはブレア政権のもとソシアル・エクスクルージョン・ユニット(社
会的排除問題委員会)が組織され、重点的政策課題として取り扱われている。また、フランスでは反排除法の制定(1998年)にともなって、従来の支援策を継承しつつさらに強力にそれを推し進めようとしている。第3に、EU諸国・アメリカに共通していることだが、民間のNPO組織による支援活動がきわめて活発に行われていることも注目に値する。これは、多くの市民が、ホームレス問題を社会全体の重要課題であると認識していることの現れであろう。これらをいくつかの成果としてすでに発表し、さらに今後も成果発表を予定している。
結論
「結果と考察」で述べたように、一年目の成果としては多くを得ることができたと考えている。しかし、現地でのインタビュー成果を整理する中で、さらに多くの疑問が吹き出している。たとえば、社会的排除に対置する概念として「社会連帯」や「社会的包摂」が語られるが、それらがどの程度市民に深く根付いているのかといった課題、さらには、数々の支援策の実施にあたっては、財政的裏付けを必要とするが、どの程度の財政規模でそれの効果はどのようなものであるのかといった点である。次年度は、こうした残された書課題を明らかにしていきたい。また、本年度の調査が、行政機関を中心としたものであったため、次年度はこれらの成果を踏まえて、民間非営利の支援組織についての調査研究を行っていきたい。 

公開日・更新日

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