新医薬品の保険収載における医療経済評価の反映方法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100029A
報告書区分
総括
研究課題名
新医薬品の保険収載における医療経済評価の反映方法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
坂巻 弘之(医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室)
  • 望月真弓(北里大学薬学部臨床薬学研究センター医薬品情報部門)
  • 久保田健(医療経済研究機構)
  • 広森伸康(医療経済研究機構)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国でも、中医協薬価専門部会において薬価算定における薬剤経済学の反映方法の研究に着手することが提言され、これまで、諸外国における当該領域の導入状況、日本における研究・取組み状況、薬価算定における反映方法についての研究が行われてきた。その結果、薬剤経済学は、公定価格設定、保険収載の意思決定に加え、医療現場での標準的な医療の実践、医薬品採用など幅広い機会において利用され得ることが明らかとなった。
しかしながらこれまで、わが国における議論は薬価算定における利用が中心で、保険収載の意思決定、あるいは医療機関や医療現場での活用についてはあまり注目されてこなかった。そうした背景をもとに、本研究の一年目研究においては、医薬品政策の決定過程に薬剤経済学を世界最初に取り入れたオーストラリアおよびニュージーランドの医療保険制度と薬剤経済学利用を中心に調査・研究を実施した。
研究方法
①オーストラリア、ニュージーランドの医療保険制度と薬剤経済学利用状況調査、②国内外の公表された研究論文についての批判的吟味、③肺炎に対する抗菌剤使用についての遡及的カルテ・レセプト調査、④オーストラリアガイドラインの翻訳を実施した。
具体的には、①については、については、公表資料、インターネット等により医療保障制度、薬価制度を整理した上で、関連団体(政府、保険者、製薬業界、学界等)への訪問調査を実施した。
②については、The Health Economic Evaluations Database(HEED)を用い「pneumonia」で検索し、ヒットした377件の論文に中から抗菌剤の評価を主として実施している論文39件を批判的吟味の対象とした。
③については、北里研究所病院呼吸器内科において2000年4月1日以降に入院し、2001年3月31日までに退院した肺炎治療を目的に入院した症例について日本呼吸器学会ガイドライン「市中肺炎診療の基本的考え方」、米国感染症学会ガイドライン「成人市中肺炎管理ガイドライン1998、2000」、「A Controlled Trial of a Critical Pathway for Treatment of Community-Acquired Pneumonia」に基づき、それぞれの症例の医療費の分析を行った。なお、事前に当該医療機関の倫理委員会に諮り、本研究の倫理性に関する評価を受けた。
④については、現在オーストラリアにおいて医薬品の保険収載申請時に用いられているガイドライン第2版の翻訳を実施した。
結果と考察
①オーストラリア、ニュージーランドの医療保険制度と薬剤経済学利用状況調査
【オーストラリア】
医薬品政策の決定過程に薬剤経済学を取り入れた世界最初の国である。オーストラリアの外来における薬剤給付は、PBSリスト(給付医薬品リスト)に収載されている医薬品が対象となるが、PBSリストへの収載可否は医薬品給付諮問委員会(PBAC)によって判断される。企業にはPBACへ薬剤経済学データの提出を義務付けており、提出されたデータはPBAC及びその下部組織である経済小委員会(ESC)によって分析される。この分析結果に基づいた勧告は、給付医薬品価格設定委員会(PBPA)において決定される収載価格にも反映される。現在使用されている薬剤経済学ガイドラインは1995年に公表された第2改訂版であるが、そこでは分析手法として費用‐効果分析(CEA)もしくは費用‐効用分析(CUA)を推奨している。現在第3改訂版を作成中である。
【ニュージーランド】
ニュージーランドでは医薬品政策の決定過程において、薬剤経済学データの提出を企業に義務付けてはいないが、1993年に設立された医薬品管理局(PHARMAC)に対し企業は薬剤経済学データを任意で提出できる。PHARMACは、外来における給付医薬品リストへの収載可否の判断及び企業との価格交渉を行う役割を担っており、そのプロセスの中で薬剤経済学分析は重要な考慮事項の一つとなる。1999年にPHARMACは薬剤経済学ガイドラインを公表しており、そこでは分析手法として費用‐効用分析(CUA)を推奨している。
②国内外の公表された研究論文についての批判的吟味
分析手法では、費用-効果分析7件、費用最小化分析5件、費用成果記述11件などであり、研究タイプとしては、遡及的分析11件、RCTによるもの9件などであった。
③肺炎に対する抗菌剤使用についての遡及的カルテ・レセプト調査
対象となった症例は、29例で男20名、女9名、年齢の平均は63.1歳、平均入院期間16.4日であった。米国感染症学会ガイドラインによる重症度分類ではⅠが8名、Ⅱが5名、Ⅲが8名、Ⅳが6名、Ⅴが2名で、日本呼吸器学会ガイドラインによる身体所見重症度は軽症10例、中等症(-)15名、中等症(+)0名、重症4名で、両ガイドラインでの判定の乖離があった。また、それぞれのガイドラインに基づく臨床所見の記載率をみると入院時での記載のある項目は多いものの、退院時や抗菌剤中断時での記載は少なく、遡及的調査での限界が明らかとなった。一方、ガイドラインに基づく薬剤師の介入により医薬品使用の効率化に繋がる可能性が示唆され、医療現場における薬剤経済学的評価の重要性が示唆された。
④オーストラリアガイドラインの翻訳
「Guidelines for the Pharmaceutical Industry on Preparation of Submissions to the Pharmaceutical Benefits Advisory Committee」を翻訳した。
結論
本研究は、諸外国における新医薬品の保険収載決定過程ならびに医療機関における医薬品採用、使用の意思決定における薬剤経済学の利用に関する調査を行い、今後の新医薬品・新医療技術の保険収載や医療現場での使用の合理化に資する提言を行うことを目的として実施した。本研究から得られた成果と今後の活用については、以下のとおりである。
①オーストラリア、ニュージーランドでの政策における薬剤経済学の利用の基本的考え方は、新薬が価格に見合うだけの価値があるかを判断し、もって保険収載、価格設定の参考とすることで、政策プロセスの説明責任ならびに一層の透明化につなげることが目標とされている。今後わが国において、こうした考え方をどのように導入するかについての議論のベースとなることが期待できる。また、両国では製薬産業は比較的未熟であり、薬剤経済学は費用抑制の方向で利用されることが多いが、製薬産業が今後の基幹産業と位置付けられることが期待されるわが国においては、価値のある新薬に対して適切な価格設定を行うことにより、産業育成策の議論にもつながると期待される。
②上記両国ならびに先進国では医療機関における医薬品採用にも薬剤経済学の利用がなされている。今回、政策面、医療機関での薬剤経済学の利用など多面的な視点から国内外の薬剤経済学論文の批判的吟味を行った。調査の結果から、研究目的により公表論文のデザインが多様であることが明らかとなり、今後、わが国において薬剤経済学論文の批判的吟味のための標準となりうるものと期待される。
③肺炎と化学療法について、薬剤経済学的視点から遡及的カルテ・レセプト調査を行い、患者データに基づくパイロット調査を行った。この結果から、わが国におけるカルテ・レセプト調査の限界を示し、また前向き研究プロトコル作成と実施につなげることが期待される。
④これまでわが国に紹介されていなかった諸外国の薬剤経済学研究ガイドラインを翻訳したことで、わが国における薬剤経済学研究の実施と同時に、わが国における研究ガイドライン策定につなげられるものと期待される。

公開日・更新日

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