国民皆保険制度の戦略的運営の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100027A
報告書区分
総括
研究課題名
国民皆保険制度の戦略的運営の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
西田 在賢(川崎医療福祉大学大学院、岡山大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 尾形裕也(九州大学大学院)
  • 橋本英樹(帝京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで国内・国外を通じて、医療保険制度に関する研究は主に各国制度の比較研究であった。しかし、各国制度はそれぞれの歴史を背景として成立しているため、一概に比較しうるものではなく、国民性・歴史性の違いから社会保険制度によって守られるべき公益・価値の内容もおのずから異なっていると考えられる。また一方で、これまでの研究には、計量経済学的なモデルを用いて需要動向や可塑性などを検討したものが見られるが、その前提とする消費者・サービス提供者の行動原理は功利主義的なものであり、制度運営の維持といった組織的目的性(ミッション)やライフステージなどにより異なる受療行動心理を反映したものとはいいがたい。このように一国の医療保険制度の研究が整わない中、現在のわが国医療保険制度改革では医療と保険の論議が個々別々に進められており、両者を統合して評価する議論がない。そこで、本研究では、医療における国民皆保険安定維持運営というミッションを軸として、国民医療費資金のポートフォリオの枠組みを採用したモデルを使って、経営管理学的視点からの分析を行い、政策立案を支援するための基礎資料を提出することを目的としている。
研究方法
研究アプローチの概要は次の通りである。まず申請者らが開発してきた米国マネジドケアシステムをたたき台とする医療の社会保険制度の経営管理的モデルの有用性を患者調査、社会医療診療行為別調査報告の個票データを用いて実証的に検証する。具体的には被保険者をライフステージや疾病リスク・ニーズなどによってセグメントに分け、既存統計値を基に各セグメントにかかる必要医療費を概算することで、現行医療保険制度を安定運営するために必要な全国平均保険料率を算出する。そしてセグメント毎の特徴を踏まえた戦略的ポートフォリオ管理の可能性を検討する。また、各種医療制度管理の改革を行った場合の想定シナリオごとに、同様の計算を繰り返し、改革シナリオが保険制度運営に与える経済的影響を鳥瞰できるようなデータを提示する。さらに、人口動態予測を踏まえ、システムダイナミクス手法を利用した国民健康保険制度の将来的維持可能性をシミュレーションする。このシミュレーションモデルの開発過程では実際に病院経営に携わっている責任者たちと討議して、想定される改革シナリオがどのようなインパクトを病院経営に与えうるか(つまり医療機関の経営行動仮説)をモデルに取り込む。そして、国民・医療関係者・保険者政府機関の合意形成と意思決定の情報的基盤の在り方を検討するといった手順を考えている。また全国の医療機関経営者の協力を得て、幾つの試算を行う必要がある。そこでとりあえずは、医療機関を急性期病院に限り、経営的インパクトやその範囲について聞き取り調査を行う。
結果と考察
1)社会保険方式による医療保険の経営管理モデルの調査研究:添付の文献『米国マネジドケアの試みから医療保険における保険者機能を考える』(海外社会保障研究No.136, 2001年)に取りまとめたとおりである。米国のマネジドケアによる医療保険管理システム自体は、関係者間(加入者、保険者、医療提供者の三者間)の経済リスク分担の原理原則を教えるものであって、社会保険方式に則る米国高齢者医療保険制度メディケアでも、民間マネジドケア保険会社の利用する方策を既に取り入れている。それゆえ、社会保険方式の医療保険財政管理手法として適合する余地が十分にあるものと考えられる。2)医療保険の経済リスクのセグメント分析:米国マネジドケアの考察を経て得た医療保険の経営管理的モデルを検討したところ、投資リスク管理分野で発達したポート
フォリオ管理に相似した財政管理手法の援用が可能であると考えられた。 このコンセプトの適用可能性を具体的に検討するためにも、医療保険者から見た経済リスクによりセグメント分けされた被保険者集団群についての医療費資金管理がどのようになるかを概算する予定である。必要な統計データとして選び出した「患者調査」および「社会医療診療行為別調査」につき平成13年夏から関係部署に使用申請手続きを行なっている。そしてこのほど平成14年2月末において、ようやく使用許可(内諾)を得た。これより急ぎ分析作業に入る次第である。3)医療費資金のポートフォリオ管理の有用性検討:平成13年夏までに3名の研究協力者を得て、「ポートフォーリオ経済リスク算定」の研究班を発足させた。そして、平成13年9月末には研究作業の支援を委託する矢野経済研究所の主催により、有識者を招いた研究討論会を持った。現在はこのときの成果をもとに研究協力者各自から中間報告を得るに至っている。4)保険医療機関における経営行動仮説の検証:40~50歳台の医師自らが経営に当る、病床規模が比較的揃った全国10数個所の急性期病院を選び、研究協力依頼を仰いだところ、まずは8箇所が賛同してくれたので、この方たちを有識者として招く、「病院経営行動仮説」の研究班を発足させ、平成13年12月末に第1回の会合を持った。そして、このときの討論をもとに引き続き検討を進めるとともに、研究協力を仰ぐ病院数を暫時増やしていく予定である。
結論
国民皆保険制度の実質的な保険者である政府厚生労働省は、医療保険制度改革について国民への説明責任を果たさねばならない。今検討する医療保険財政の経営管理モデルの検証が進めば、包括的な制度・政策の説明を支援するのに役立つ可能性が十分にあるものと考えており、引き続き二つの研究班をもって検討に務める所存である。

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