年金課税の制度変更が社会経済に与える影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100026A
報告書区分
総括
研究課題名
年金課税の制度変更が社会経済に与える影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
奥村 明雄(財団法人年金総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋徹(財団法人年金総合研究センター)
  • 光行恭彦(財団法人年金総合研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,628,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公的年金等控除を中心とした年金課税のあり方について、世代間・世代内の公平性に関する問題とその社会経済に与える影響の大きさから、政策課題として各方面で議論されているが、その制度を変更した場合の具体的な影響を定量的に分析することにより、判断材料を提供し議論の実効性を高めることが本研究の目的である。
研究方法
世代間・世代内の公平性確保を検討する上では、社会保障制度のみならず税制や家計の消費行動・貯蓄行動への影響等についても総合的に検討する必要があるものと考えられる。しかし、大部分の高齢者の年金給付を事実上非課税のものとしている公的年金等控除においては、社会経済に与える影響が極めて大きなものとなっている。
従って、公的年金等控除の制度変更が社会経済に与える影響について、次のようなアプローチで検討を実施した。
まず、公的年金課税の現状及びここまでの制度変更の経緯を調査することで、現状の公的年金税制の位置付けや、諸外国の課税方式との違い等を把握した。
次に、現状の公的年金課税の問題点に対する提言を幅広くサーベイし、問題点として議論されている点について整理を行った。具体的には、世代間のバランスと世代内のバランス各々に、不均衡が生じている点があげられる。公的年金税制の位置付けを踏まえ、現在の制度が不均衡の状態をもたらしている原因を把握した。
それらを踏まえて、現状の問題点へ対応するために、公的年金等控除を見直すことによる影響を、複数のケースについて試算した。具体的には、所得税や住民税及び国民健康保険の保険料(税)が、公的年金等控除を見直すことで、どの程度の影響となるかを分析したものである。
この影響の試算については以下の方法を採用した。平成10年度の国民生活基礎調査の個票を再集計し、年金受給者の年齢及び有配偶状況により類型化した所得額と公的年金額の分布を作成した。この分布をもとに複数にグルーピングし、公的年金等控除を見直す複数のケースについて、所得税額等の変化を算出して積み上げ、全体としての影響を試算した。さらにそれぞれの結果について、現状の問題点への対応状況もあわせて考察した。
結果と考察
上記方法での試算を、大きく分類すると以下の5つのケースについて実施した。(詳細には11のケースについて実施)
①公的年金等控除を全廃するケース
②公的年金等控除を定額控除の仕組みに改めるケース
③定額+定率の現行の公的年金等控除の仕組みを維持しつつ、全体として控除水準を引き下げるケース
④公的年金等控除の適用要件に所得制限を追加するケース
⑤上記②と④を組み合わせたケ-ス
①のケースは、現役世代の方が高齢者世代よりも税負担が軽くなり、現状とは逆の世代間不均衡を招くこととなった。
②のケースでは、世代間・世代内のバランスにおける不均衡が、一定程度改善する結果となった。
③のケースでは、世代間のバランスにおける不均衡がほぼ解消する形となったが、世代内のバランスについては、不均衡が維持されたままとなった。
④のケースでは、世代間のバランスに対しては不均衡を是正することは困難であったが、世代内のバランスにおける不均衡に対しては、一定の解決策になることが確認できた。
⑤のケースでは、世代間及び世代内のバランスにおける不均衡に対して、一定の解決策になることが確認できた。
「公的年金課税の制度変更が及ぼす具体的な影響を定量的に分析し、判断材料を提供し議論の実効性を高める」という本研究の目的は、試算結果を踏まえると概ね達成することができた。なぜならば、公的年金等控除の見直しによる影響を、複数のケースについて試算した結果、世代間及び世代内のバランスにおける不均衡の問題を解決に導くようなケースが確認されたためである。
結論
以上のような検討を踏まえると、本研究全般は以下のようにまとめられる。
①公的年金課税の現状
拠出時及び運用時非課税・給付時も実質非課税といった状況となっており、租税原則の観点や諸外国の課税方式と比較しても、我が国の課税体系は特殊なものとなっている。
②公的年金給付に係る税制についての経緯
公的年金等控除は、他の所得との間での負担調整措置という観点と、標準的な年金額までは非課税という2つの観点から創設されている。
③公的年金課税の問題点に対する提言
現役世代と高齢者世代におけるバランスと、高齢者世代内におけるバランスともに不均衡な状況となっている。また租税原則の観点からも、特殊な体系となっている。その原因は、他の所得との間での負担調整幅が合理的と考えられる範囲を超えていることと、標準的に非課税としようとしている対象が、総所得額ではなく年金額となっていることが考えられる。
④公的年金等控除の見直しによる影響
世代間バランス、世代内バランス、及びその両方の不均衡を是正すべく、複数のケースに基づきその影響を試算。その結果、それらについて一定の解決策となるようなケースも確認された。

公開日・更新日

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