地理情報システムを用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100019A
報告書区分
総括
研究課題名
地理情報システムを用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小口 高(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 江崎雄治(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
2,975,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は地理情報システム(Geographic Information Systems: GIS)を用いて、わが国における人口動態とその変動の規定要因を解明することにある。平成13年度には、以下の3点の個別課題を設定した。(1)研究事業初年度において開発された、緯度経度系による人口データをメートル単位によるものに変換するための手法を改良する。(2)上記によって変換された1km×1kmの修正メッシュデータを用いて、土地高度、傾斜などの自然的土地条件と人口分布との関連性を検討する。研究事業初年度には、南東北・関東・中部地方の範囲について分析を行ったが、平成13年度には、分析対象地域を全国に拡大する。(3)都市圏程度の地域的範囲において、少子化の地域差とそれをもたらす諸要因を考察する。研究事業初年度には、東京および大阪大都市圏について分析を行ったが、平成13年度には、分析対象地域を各都道府県の県庁所在都市が形成する47の都市圏に拡大する。
研究方法
年度前半には、研究事業初年度における分析結果の吟味と分析手法の再検討等を行った。また、必要に応じて既存文献の読み合わせを行い、今年度以降における研究の展開のための議論を行った。年度後半には、メッシュデータをGISソフトウェア上で利用する際に必要となる集計項目と分析対象範囲に即してデータを整理、再編成するとともに、上記した(1)~(3)の目的を達成するための具体的な分析作業を行った。上記(2)を達成するためには、(1)において補正された1km×1kmのメッシュデータが必要なため、おおむね(1)→(2)という流れで分析作業を行った。一方、補正されたメッシュデータでは海岸部等のデータが一部欠落するが、いくつかの都市圏では海岸部にかなりの人口が居住するので、(3)については緯度経度座標系に基づく原データを利用した分析を行った。
結果と考察
(1)内水面などを含む人口メッシュに関しては、メッシュの全面積に基づいて算出される人口密度値が現実の値よりも過少になる。そこで、湖沼、湿原(それぞれおよそ4km2以上のもの)、大河川の河口部(河川幅おおむね500m以上のもの)を含むメッシュを除外してから座標変換のための補間作業を行った。Triangulation with Linear Interpolation(TL)法、Nearest Neighbor(NN)法、Inverse Distance to a Power(IDP)法など種々の補間法による結果を比較検討した結果、TL法における補間が、一定エリア内の人口再現率などの点から、最も優れた補間法であることが確認された。
(2)(1)の修正メッシュデータを日本全国について整備し、土地の高度・傾斜と人口分布との関連性を検討したところ、以下の知見が得られた。1)人口密度は基本的には標高と傾斜の増加にともなって単調に減少するが、両者の関係に顕著な極大値がみられる場合もある。2)標高と人口密度との関係には指数関数が比較的よく適合するが、低標高では予測値が実測値よりも小さくなる傾向が高い。べき関数の適合により、この問題を解消できる場合もあるが、全体としては指数関数の方が適合度が高い。3)傾斜と人口密度との関係には指数関数がかなりよく適合する。4)標高や傾斜が小さい領域における人口密度の予測値と実測値との差に基づいて、都道府県を類型化した。その結果、ある地域に特定のタイプがまとまって存在する傾向が見いだされた。5)標高と人口密度との関係を回帰した際の式の係数は、人口密度の絶対値、最低標高の値、標高のレンジに強く依存している。傾斜と人口密度との関係を表す回帰式の係数にも同様の要素が影響しているが、他の要素の関与も強いと推定される。
(3)47の都道府県庁所在都市の都市圏における少子化の波及プロセスを調べるために、各都市圏を3つの距離帯(0~5km、5~10km、10~15km)に分け、それぞれについて子ども・婦人比を算出した。それらの経年変化を観察することにより、以下のような知見を得た。1)47の都市圏すべてにおいて、少子化の進行が共通に観察される。2)各都市圏では3つの距離帯ともに子ども・婦人比の値はおおむね減少傾向にあり、少子化が距離帯を問わず進行している。3)1980年には距離帯間の値の差(中心部で低く、周辺部で高い)が明瞭な都市圏がみられたが、年次とともに距離帯間の差は縮小する傾向にある。4)3)で述べたような距離帯間の差は、人口規模が大きい都市圏においてより明瞭であり、人口規模の小さい都市圏では、1980~1995年の期間を通じて距離帯間の差が小さい。
結論
GISを用いた人口分析、とりわけメッシュデータを用いて地域人口動態の規定要因を探る研究は、今後大いに発展が期待される分野であり、平成13年度における分析作業においても多くの知見を得ることができた。緯度経度系のメッシュデータを1km×1kmのものに補正する手法がさらに改良され、内水面を含む全国の人口メッシュデータに対して、この手法が応用可能なことが示された。また、このようなデータを用いて全国の高度、傾斜などの自然的土地条件と人口分布との関連性を検証したところ、居住に際しての自然的制約が縮小したと思われる現在においてもなお、自然的土地条件が一定の影響を与えていることが確かめられた。さらにそれらの関連性については近隣の県で類似の傾向がみられ、この傾向によって全国がいくつかの地域ブロックに分類可能という新知見が得られた。また、県庁所在47都市圏の子ども・婦人比の分析からは、今後の少子化の進行を予測する際に有用な知見が得られた。すなわち、1980~1995年の15年間では、都市圏の周辺部において急速な子ども・婦人比の低下がみられ、中心部の値と同程度まで落ち込むことになった。とはいえ、この勢いが継続して周辺部の子ども・婦人比が中心部を下回ることはないと考えられることから、今後は中心部と同様に、周辺部における子ども・婦人比の低下が緩やかになると予測される。したがって、都市圏全体の少子化進展のペースが、今後やや遅くなると考えられる。

公開日・更新日

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