少子化の要因と地域分析に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100018A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化の要因と地域分析に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 秀紀(青森県立保健大学)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木幸雄(北海道医療大学)
  • 佐藤秀一(青森県立保健大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
2,870,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、これからの地域政策を考える新たな手がかりを見いだすことをねらいとして、北海道内に在住し、保育園に通園している子どもの母親を対象にして、少子化現象と地域間格差について検討することを目的とした。
研究方法
調査の対象は、北海道内において、『出生率』の低い地域のS市(『出生率』; 1.18)および『出生率』の高い地域のO市(『出生率』; 1.47)を選定し、その地域の保育園に通園している子どもの母親 974名(S市; 348名、O市; 626名)とした。
調査内容は、1)家庭と住まいの状況、2)母親自身の状況、3)夫の家事・育児の参加状況、4)子育てについての考え方とした。
家庭と住まいの状況に関しては、現在の子ども数、将来の予定する子ども数、理想として育てたい子ども数、育てたい子ども数と実際の子ども数の違いの理由、家族形態、母親の実家との距離、父親の実家との距離、住居のタイプ、居住年数等とした。
母親自身の状況に関しては、母親の年齢、母親の教育歴、母親の結婚時の年齢、母親育児体験、母親の就労の有無、母親の職歴、母親の社会的活動、母親の平日に使用している自由時間、母親の自由時間の活動、母親の交友関係、専業主婦に対する仕事に関する要望、母親の雇用形態、母親の職業、母親の出勤時間、母親の帰宅時間、母親の収入(月平均)、母親の仕事についての悩みや不満、母親の就労観、母親の就労継続の意思等とした。
夫の家事・育児の参加状況に関しては、家事・育児への参加状況、夫に対する評価、父親の年齢、父親の雇用形態、父親の職業、出勤時間、帰宅時間、夫婦での共同行動、家族での共同行動、父親の収入等とした。
子育てについての考え方に関しては、子育てする上での支え、子育てする上での困難、子育てする上での相談相手、本人の問題に対しての相談相手、育児サービスの要望、子育てする上でのサポート状況、自分にとっての子どもの存在、子育てに関する意見に対して等を調査項目とした。
解析に当たり、まずすべての調査項目に対し記述統計で検討した。さらに、少子化現象と地域間格差について検討した。
なお、研究目的を説明の上での同意の取得、不参加の自由を伝えることを遵守の上、回答者の秘密保持のために封筒を用いて回収した。
結果と考察
『出生率』の地域格差の成因として、人口構造的、産業・経済構造的要因などの社会経済的要因の相違、家族構成の相違、住宅事情の相違、母親の晩婚化、地域社会の血縁的・地縁的絆の相違、子育てに関する意識の違いなどが、女性の出産行動に対して影響を及ぼしていた。
少子化現象は、若年層を中心とした都市部への集中、雇用者の増加といった都市化により地域社会の血縁的、地縁的絆が薄れていくとともに進んできていることが明らかにされた。このことは、戦後の急速な産業化は、都市化と大都市周辺の過密化をもたらし、都市化に伴って、親族の紐帯の弱化、社会的連帯の伝統的基盤が崩壊してきていることでもある。都市部の雇用者層は一般的に地域社会への依存が少なく、都市部においては地域社会が「希薄化」し、これに加えて核家族化という家庭の小規模化が進む中で、少子化は同時進行しているものと思われる。今後、急速な都市化のなかで、農村的地域から都市的地域として変貌していることから、非農化、雇用労働力が進み、『出生率』の格差も縮小していくものと考える。このことは、「出生力の均一化」とも呼べようし、低出生力への収斂傾向ともいえよう。
都市化社会は人口の都市への集中という「人口の都市化」を促進するばかりでなく、都市的な生活様式の確立という「生活の都市化」をもたらす。出生児数が少ない傾向は、農村的地域(非人口集中地区)に比較して、都市的地域(人口集中地区)で明らかである。その理由の一つとして、都市規模別に結婚に対する考え方の違いがみられ、おおむね都市部ほど結婚に対する考え方が寛容であり、未婚率が高く晩婚であることが考えられる。
『出生率』は低下してきているにもかかわらず、夫婦の完結出生児数においてはほとんど変化が認められないことから、晩婚化や未婚率の上昇が高いことは、それだけ『出生率』そのものに影響を与えていることを意味している。都市部と農村部で結婚年齢に違いが生じるのは、都市部の方が、親元を離れたり、独身であることをやめて結婚に踏み切ることで失われる機会費用が大きいからであると考えられる。また、住居コストの増大(家賃の上昇、地価高騰による住宅取得費の上昇等)が出生率を低くする要因として働いており、その影響は大都市圏を中心とした都市的地域で強いものと思われる。
結論
少子化が地域格差を伴いながら進行していることから、今後は地域社会における子育て支援に関する地域の実情に応じた取り組みが一層重要なものとなると考える。従って、各自治体にあっては、利用し易い保育サービスを重点的に供給することで、子どもに対する需要を喚起する必要があると考える。

公開日・更新日

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