福祉NPOと厚生行政との共働可能性に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100014A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉NPOと厚生行政との共働可能性に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
安立 清史(九州大学大学院人間環境学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 三村將(昭和大学医学部精神医学教室)
  • 河野正輝(九州大学大学院法学研究院)
  • 今里滋(九州大学大学院法学研究院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険における指定事業者の実態と動態は、厚生行政にとっても重要な課題である。しかしながら、まだ事業者の種別ごとに詳しくデータを収集し、実態を明らかにし、実態と動態について分析を行った調査研究はほとんどない。ましてや民間非営利組織(NPO法人)で、介護保険指定事業者となっている団体の実態についてはほとんど知られていない。
本調査研究は、介護保険指定事業者となったNPO法人(特定非営利活動促進法に基づいて法人格を取得している団体)が、介護保険事業および介護保険の枠外活動(たすけあい活動など)をどのように担っているのかを調査して、NPOが介護保険や地域福祉・在宅介護支援に、どのような役割をはたしているのかを研究することを目的とした。そして、NPOが、介護保険制度の発足によって、どのように変化しつつあるのか、その実態と動態を明らかにし、もって、介護保険事業や厚生行政の質的な向上に資する基礎データとなることも目的とした。
研究方法
2年間の研究は、初年度、NPOのインパクトアナリシス(影響力分析)の方法を研究した。
研究2年目には介護保険事業者となっている全国のNPOの郵送アンケート調査を実施した。調査対象は、特定非営利活動促進法(NPO法)にもとづいて法人格を取得して介護保険の指定事業者となっている団体である。
母集団の確定にあたっては、2001年6月末日現在で、全国の都道府県の介護保険指定事業所一覧のなかから、事業者として登録されているNPO法人を抽出し、全体の調査対象を確定した。2001年6月末日現在で、介護保険指定事業者となっているNPO法人は、全国で565団体で、この全数を調査対象母体とした。2001年11月に調査票を、全国の調査対象団体に送付し、2001年12月一ヶ月間を回収時期とした。同年12月末日までに回収した200票のうち、介護保険事業はNPO法人とは別組織で行っている団体や、2001年11月現在で介護保険事業を停止・中止している団体を除外した195票を有効回答とした。回収率は35.4%、有効回答率は34.5%。実施にあたって、全国の福祉NPO法人のネットワーク団体である、NPO法人・市民互助型団体全国連絡協議会などのNPO団体の全面的な協力をえて、母集団の確定と調査実施、分析を行った。
回収率が低かった理由としては、歴史の浅い、活動を開始してまもない団体の回答率が低かったと推定できる。設立したばかりの団体は介護保険の事務処理で多忙を極めている。また先行研究がほとんどない中で、活動実態についての分類軸を見つけていくため、スタッフ数や、活動時間、利用者数や事業高などについて、実数を記入してもらう方法をとったが、このことも、回答率の低下に影響を与えたと推測する。今回の調査で、分散の度合いがほぼ把握できたので、次回以降に類似の調査を行う場合には改善できる知見を多数得た。
結果と考察
今回の全国調査では、以下の項目を調査した。
(1) 団体の設立時期やNPO法人格取得時期、介護保険事業の指定時期など、団体の歴史に関わる部分
(2) 団体の介護保険部門のスタッフ構造
(3) 団体の介護保険枠外活動(たすけあい活動など)部門のスタッフ構造
(4) 団体のサービス利用者構造
(5) 団体の介護保険で提供しているサービスの種類と提供実態(件数や事業高等)
(6) 団体の介護保険枠外活動(たすけあい活動など)で提供しているサービスの種類と提供実態(件数や事業高など)
(7) 団体の1999年度と2000年度の収入構造とそれぞれの事業高
(8) 介護保険開始後のボランティア的な枠外活動(たすけあい活動など)の動向
(9) リーダーの介護保険と枠外活動(たすけあい活動など)に関する意識
(10) 介護保険で活動を行ううえでのNPO法人の問題や課題
調査結果の概要
今回の調査では、介護保険制度のもとで福祉NPOが拡大・発展していること、多様に分化していること、そして多様な発展段階を示していることを発見した。
福祉NPOによる介護保険事業の類型化
福祉NPOが、介護保険で提供しているサービスに着目し分類・分析した結果、次の6つのタイプを発見した。
① 訪問介護型(介護保険制度の枠内では、訪問介護サービスだけを行っている)
② 訪問介護+ケアプラン型(ケアマネージャーを雇用してケアプランを作成しながら訪問介護サービスを提供している。)
③ 訪問介護+施設型(訪問介護サービスのみならず、デイサービスや宅老所なども運営している)
④ 複合発展型(ケアマネージャーをおいてケアプランを作成しながら、訪問介護サービスや、デイサービス、宅老所やグループホームなどの施設運営へと複合的・総合的に発展しながらサービスを提供している)
⑤ ケアマネ中心型(ケアプラン作成のみを行い、訪問介護サービスなどは提供していない。ケアマネージャー中心にNPOを運営していると考えられる)
⑥ 施設運営特化型(訪問介護サービスは提供せず、デイサービスや宅老所などの施設サービスの運営に特化している)
福祉NPOによる枠外活動(たすけあい活動など)の分類
福祉NPOの特徴として、単に介護保険事業を行うだけでなく、介護保険制度ではカバーされない様々な在宅福祉のニーズに柔軟かつ多様に応えるという特質があげられる。今回の調査では、福祉NPOによる枠外活動(たすけあい活動など)に関して次のような類型が発見された。
① 家事援助型(ホームヘルプサービスのみを枠外(たすけあい活動)として提供している)
② 家事援助+α型(ホームヘルプサービスを中心に、話し相手や安否確認などいくつかのサービスを提供している)
③ 家事援助+移送型(ホームヘルプサービスと移送サービスを行っている)
④ 家事援助+デイサービス型(ホームヘルプサービスとデイサービスを提供している)
⑤ 移送中心型(ホームヘルプサービスは提供せず、移送サービスが中心)
⑥ デイサービス中心型(ホームヘルプサービスは提供せず、デイサービス中心)
⑦ 宅老所中心型(ホームヘルプサービスは提供せず、宅老所の運営中心)
事業高、スタッフ構造などによる福祉NPOの分類
今回の調査から、事業高別に分析し、大規模NPO、中規模NPO、小規模NPOという分類を行い、事業高ごとの特徴や課題などを明らかにできた。また、スタッフ構造ごとに福祉NPOを分類し、スタッフ構造ごとに福祉NPOの特徴や課題などを明らかにした。
結論
今回の調査により、福祉NPOが、介護保険事業者となることを通じて大きく拡大・発展しながら多様に展開しつつあることが明らかになった。福祉NPOも、厚生行政にとってきわめて重要な構成要素となっていることが確認された。
また福祉NPOは介護保険サービスだけでなく、ボランティア活動、ふれあい活動、たすけあい活動などの介護保険枠外活動を、多様に、しかも活発に行っているところに特徴がある。この介護保険枠外活動は、介護保険事業ではカバーされない地域の様々なニーズに対して柔軟かつ多様なサービス提供を行うものであり、介護予防としても、在宅生活支援としても意義の高いものである。福祉NPOは地域の新たな福祉ニーズを発見し、社会実験的にそれに応えている。この点からも、厚生行政にとって福祉NPOとの共働がきわめて重要になってきている。厚生行政は、福祉NPOを単なる介護保険事業者として見るだけでなく、共働して新たな地域福祉ニーズを発見し、効果的・効率的に応える方法を開発することが必要だと結論できる。
また、今回の調査から、福祉NPOが介護保険によって、多様なタイプに分化・発展していることが発見された。サービス構造の点からも、スタッフ構造の点からも、事業高の点からも、福祉NPOも様々に分化している。そしてそれぞれのタイプごとに地域の中で果たす役割が異なってきており、それぞれに重要な役割を地域の中で果たすようになっている。介護保険をさらに質的・量的にも向上させるためにも、こうした地域の細かな新しいニーズに対応している福祉NPOと厚生行政との共働がますます必要になってきている。地方自治体でも福祉NPOとの共働が始まっており、こうした点からも福祉NPOと厚生行政との共働を総合的に行う必要があることが明らかになった。

公開日・更新日

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