基礎自治体(広域型・単独型)における介護保険制度の効率的運用と政策選択基準に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100002A
報告書区分
総括
研究課題名
基礎自治体(広域型・単独型)における介護保険制度の効率的運用と政策選択基準に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
野口 定久(日本福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田和明(日本福祉大学)
  • 平野隆之(日本福祉大学)
  • 木戸利秋(日本福祉大学)
  • 近藤克則(日本福祉大学)
  • 後藤順久(日本福祉大学)
  • 久世淳子(日本福祉大学)
  • 樋口京子(岐阜大学)
  • 加藤悦子(日本福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、施行後2年を経過する介護保険制度の諸課題の解決とその円滑な運用をめざして、基礎自治体(広域対応型と単独対応型)における在宅福祉サービス供給の効率的・効果的運用、介護サービスの臨床的研究と政策的研究の統合による自治体政策・事業評価、サービス評価等の諸システムを開発することにある。
研究方法
本調査研究の対象自治体は、一つに単独自治体の多面的評価を行うために、愛知県高浜市と武豊町をフィールドに設定し、二つには「介護保険事業実績(サービス利用・ケアプラン)分析ソフト」を活用して、適正な介護保険給付バランスのあり方を自己研究するために、全国の保険者を対象とした。また、本研究とイギリスのケアマネジメント政策評価研究との比較研究プロジェクトを関係づけた。全体の研究を遂行するために、研究組織を①政策・計画ワーキンググループ(WG)、②臨床・評価指標WG、③経済的評価WGにわけ、ワーキンググループごとに研究計画を立て、それぞれのワーキンググループ間での研究交流や共同研究を進めた。
結果と考察
研究結果=
Ⅰ.イギリスのケアマネジメント-効果・効率の実証研究と導入後の評価- 
近藤報告は、介護保険の政策評価の重要な要素でもあるケアマネジメントをとりあげ、それを、イギリスとの比較検討を通して介護保険下のケアマネジメントの課題を明らかにすることにある。Personal Social Service Research Unit (PSSRU)によるケアマネジメントの実証研究と1990年にNHS and community care法が成立し、ケアマネジメントは1993年から全英に導入された。また、ケアマネジメント導入後,保健省の社会サービス監査局などにより政策評価が行われた。①施設入所者が減ったこと、②それまで経済力のアセスメントしかされていないためにコントロールされていなかった施設入所費用がコントロール可能になったこと、③公的財源による長期療養ケアの利用時にニーズのアセスメントがなされるようになったこと、④介護者のニーズが理解され、従来に比べ濃厚な在宅ケアが可能になったことなどが散見できる。
Ⅱ.「給付分析ソフト」活用による介護保険事業の実績評価 
平野教授による介護保険事業評価のための独自のソフト開発は、今回の研究の大きな成果である。別名「介護保険事業実績(サービス利用・ケアプラン)分析ソフト」は、24都道府県、1269保険者のデータベースをもとに、諸指標を用いて地域間比較を試み、広域方式における構成市町村間のアンバランス問題などの実態を明らかにすることが可能になった。
Ⅲ.保健・福祉データベースの構築           
後藤報告の目的は、介護保険制度に関わる福祉領域のデータを中心としながら、保健・福祉データベースの構築技法の提案を行うものである。データの再利用と分析により政策評価に関与していくことの可能性が見えてきた。
Ⅳ.介護保険政策の効果を測定するための評価尺度の開発
介護保険政策の効果を測定するための評価尺度の開発研究に向けられている。NFU版介護負担感尺度を用いれば、介護者の負担感を3つの側面から測定することが可能であるとの見解をうることができた。
Ⅴ.放置と身体的・精神的虐待を評価する手法の開発-ハイリスク者スクリーニング調査の意義と限界    
ハイリスク者スクリーニング調査の意義と限界に関する研究結果からは、以前にハイリスクと評価された者に支援を行い、状況が改善したとしても、新規にハイリスク者が多く出現したら援助者の努力は数値の上では表れてこない、ということが判明した。
Ⅵ.野口報告:介護環境調査から在宅ケアへ            
要介護高齢者の介護環境の実態をありのままに図示してみる方法がとられている。今回の介護環境エコマップ調査では、20ケースの在宅介護の状況を得ることができた。①介護保険サービスについては、介護認定の評価と実際の要介護者の在宅での生活環境に、少なからずギャップがみられたことである。とくに痴呆症状を有するケースの介護環境の厳しさがみられた。②地域保健福祉サービスについては、日常の介護の連続性への援助・支援システムが介護負担の軽減につながることがわかった。③インフォーマル・サポートについては、近隣や親族をめぐる小地域で介護ネットワークづくりの実践を作為的に構成していく必要があることなどが指摘されている。
Ⅶ.介護保険政策による要介護高齢者及び介護者へのインパクト-「単独方式」の2自治体を中心に-    
介護保険政策の要介護者および介護者に対するインパクトを明らかにするために、介護保険前後の2時点で、①要介護認定者の療養場所の変化、②介護者の心理・情緒的因子(主観的幸福感,抑うつ,介護負担感)の変化の評価が行われている。要介護認定を受けただけで介護サービスを利用してない群においても介護負担感が軽減していた、という興味ある結果がみられた。
Ⅷ.2自治体におけるハイリスク者の割合とその特徴   
介護保険はハイリスク者に対しポジティブな効果があったこと、放置と身体的・精神的虐待の場合とではリスク改善に効果があるケアプランの内容が異なってくること、ハイリスク状況の改善に向けてはサービス量の増加だけではなく、ケアマネジメントも不可欠であることが提起されている。
Ⅸ.介護保険制度の家計への影響
在宅サービスでは、自己負担がサービス利用を抑制していると確定することはまだできない。利用料の減免がなくなり、完成した介護保険制度のもとでの変化を見るには、もう暫くの時間を要するとの指摘がなされている。
考察=
1.イギリスのケアマネジメント-効果・効率の実証研究と導入後の評価- 
イギリスのケアマネジメント導入経過やその後の評価、そして日英比較をした結果,見えてきた我が国で今後検討すべき課題は、①より集中的ケアマネジメントに移行すべきこと、②事業者所属ケアマネジャーの功罪、③政策評価研究の必要性と可能性などがあげられている。
2.「給付分析ソフト」活用による介護保険事業の実績評価 
実績によるタイプ分けによると、平均値の周辺(B)を中心に、「1人あたり在宅費用額」と「費用在宅率」の両指標の相関関係を踏まえ、標準的・典型的な分布(A・C)を設定するとともに、高い「1人あたり在宅費用額」と低い「費用在宅率」で構成されるD、低い「1人あたり在宅費用額」とにも関わらず高い「費用在宅率」で構成されるEという変則的なタイプ、というように類型化できる。
3.単独自治体の多面的評価
・「主観的満足度」、「心理的安定」、「むなしさ」、「活力」という4つの下位尺度からなるQOL指標を作成することができた。昨年度と同じ3つの下位尺度(「主観的負担感」,「介護の継続意思」,「世間体」)からなっていることが確認された。
・介護環境エコマップを活用して多職種間での地域ケア会議を開催し、継続的にハイリスクケースを観察をすると、ハイリスク対応のインテンシブなケアマネジメントと調整型のケアマネジメントを類型化する必要性が出された。
・介護保険政策のインパクトを明らかにするために、介護保険前後の2時点で評価した。要介護認定者の療養場所の移動がかなりあることが明らかになり、縦断的に評価するためには、モニタリングを工夫することや移動後の状況もふまえる必要性が示された。
結論
1.イギリスのケアマネジメント-効果・効率の実証研究と導入後の評価- 
わが国における介護保険政策、そしてケアマネジメントの政策評価の必要性とその実証性を高めることの必要性が指摘された。
2.「給付分析ソフト」活用による介護保険事業の実績評価 
今 後の介護保険事業計画の見直しにおける将来モデルの設定において、CタイプはさしあたりBタイプを目指す計画になること、Dタイプにおいては、より在宅サービスの充実に努め、上位のAタイプを目指すことが介護保険の在宅重視という理念からも重要であることが指摘された。また、広域連合においては総費用を構成市町村間で配分し合うという独特な側面があること、財政面での安定化が契機となった広域連合であるが,サービス基盤の共有化を通して,利用の平準化にまで達していないことなど、この点での改善方策が説かれた。
3.単独自治体の多面的評価
・市町村にサービス毎の給付必要量の予測と供給量確保の方策を計画することを意味し、各種の意志決定を行う必要がある。評価の前提情報、評価結果はサービス選択の情報とともに順次開示される仕組みが必要となろう。
・心理・情緒的因子を測定するためのQOL指標作成とNFU版介護負担感尺度を作成したが、これらの尺度、とくに介護負担感尺度については、信頼性・妥当性・再現性が確認されており、介護保険政策の効果を測定する評価尺度の1つとして使用することができるとの結論が得られた。
・介入前後の変化に注目して結果を考察し、援助目標を立て、プロセスとアウトカムを見る形成的質的評価等もあわせて行う重要性などの示唆がなされている。
・野口報告研究では、今回の実験とこれまでの地域ケア研究に基づいて、在宅ケアを可能にする条件を10項目抽出している。
・介護負担解消には、現在の介護保険政策では不十分であることが示唆された。一層の介護者支援、集中的支援などを、縦断的に評価するためには、モニタリングの工夫が必要であることなどが指摘された。
・介護保険はハイリスク者に対しポジティブな効果があったこと、放置と身体的・精神的虐待の場合とではリスク改善に効果があるケアプランの内容が異なってくること、ハイリスク状況の改善に向けてはサービス量の増加だけではなく、ケアマネジメントも不可欠であることが指摘されている。
・データ-の集積により、低所得者全体の分析に拡大し、どのような低所得者対策を取るのか、慎重な分析が必要であることなどの指摘がなされた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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