看護制度に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001159A
報告書区分
総括
研究課題名
看護制度に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
平林 勝政(國學院大學法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 秋葉悦子(富山大学経済学部)
  • 叶谷由佳(東京医科歯科大学医学部)
  • 坪倉繁美(厚生労働省看護研修研究センター)
  • 成澤 光(法政大学法学部)
  • 西村万里子(明治学院大学法学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀を迎え、看護職の役割拡大に対する期待は大きい。しかし、看護職がその期待に応えるためには、看護職の資質の向上をより一層はかると同時に、その期待される役割を果たし得るような法制度が整備されなければならない。
しかしながら、法制度を改めるだけでは問題の抜本的な解決にはならない。看護の基本理念をどのように措定し、看護の役割をどのように考えるか、日常的看護実践における倫理問題をいかに発見し・いかに解決しうるか、看護実践のインセンティブを高めるものとしての適正な経済的評価はどうあるべきか等の前提問題が検討されなければならない。また、医療と看護、看護と介護の「業務と責任の分担」をめぐる問題は、看護をめぐる法制度の構築を考える際に、解決すべき喫緊の課題としてわれわれに迫っている。
本研究は、以上のような課題に対し、保健婦助産婦看護婦法の歴史的変遷と今後の改正を視野に入れながら、看護学・倫理学・経済学・法律学の各分野から学際的に研究することを目的とした。
研究方法
上記の諸問題についての先行業績(論文、報告書等)の文献研究を行い、あわせて、必要に応じ「聞き取り調査」を行った。また、保健婦助産婦看護婦法の制定史をめぐる議論においては、文献研究とともに、原資料の確認を可能な限り行った。
結果と考察
1.現状の保助看法のもと、看護職が患者に直接関わるケアは全業務の半数程度である。看護の専門性は、間接的に患者にかかわる技術のなかにあり、それは患者には認識されにくく、看護職自身にも概念的に認識されにくいものである。また、介護職との業務や役割の分担に関し、それぞれが担っている役割の相違や独自性があるにもかかわらず、介護職に比して看護職は専門性に対する意識が低い。
2.看護倫理は、女性性を男性性との排他的な対立の図式においてとらえ、看護倫理の独自性を過度に強調するフェミニズムのケア倫理によるよりも、「人間の尊厳の尊重」、あるいは「人格の尊重」、「生命への奉仕」を指導原理とするヒューマニズムのケア倫理のよるべきと思われる。
3.現場の「普通の看護婦」が直面する「倫理問題」は、a 患者の権利にかかわるケース、b チーム医療にかかわるケース、c 家族や社会と患者との関係にかかわるケース、d 生命倫理関連のケースの4つに分類できる
4.看護の経済的評価(診療報酬)を医療サービスのもつ情報の非対称性の観点からみると、患者の情報把握と判断、経過観察に関して、看護技術が重要な役割を果たしてきたことがわかる。しかし、これまでの日本の診療報酬体系はモノの評価に基づいているため、技術や情報、医学管理・看護管理、経過観察等の専門的技術を評価する視点が弱い。
またその体系は診療所を基本的モデルとしているので、医師以外の看護職等の専門職に対する評価も弱かったが、1980年代から若干の前進がみられる。
5.看護の需要は疾病構造と戦争によって変化した。日本最初の職業的看護婦は戦争による傷病者の看護にあたった「バクレン女」であった。伝染病が猛威をふるっていた時代に必要とされ、速成された看護婦は、「芸者屋」などの看板を掲げる派出看護婦会で働くなど、看護婦本来の仕事をしない素行が不良であるものや伝染性の疾患にかかっている者がいた。現行法に存在する欠格事由としての「素行が著しく不良である者」「伝染性の疾患にかかっている者」はその名残である。
約50年前に制定された保健婦助産婦看護婦法の、制定当時の目的(立法趣旨)は、看護職の教育水準の高揚と社会的身分の向上にあった。今日の看護界の現状をみるとき、その目的は、ほぼ達成されており、したがって、現行法は、その限りにおいてその任務を終えつつあるといえる。
6.法改正の方向性を考える前提として、医療、看護、介護の業務分担について明らかにされる必要がある。
医行為と看護行為の関係についての代表的な考え方は、「絶対的医行為」(A)、「相対的医行為」(B)、「看護行為」(C)とに三分し、AとBが医師の業務、BとCが看護婦の業務と整理するものである。また、看護と介護とをめぐる問題点は、介護福祉士の業務との重複に最も典型的にあらわれる。
結論
保健婦助産婦看護婦法の改正に当たっては、看護が何を目指してケアを提供する者であるのかについての方向性の見えるようにすべきである。
ヒューマニズムのケア倫理によると、これは看護倫理に固有・独占のものではなく、医師、看護婦、その他ヘルスケアに関わる全てのヘルスケアワーカーに共通の倫理原則であり、ヘルスケアワーカーはすべて、患者の人格を尊重し、その生命に奉仕するという唯一の最終目標に方向付けられている限りにおいて、この同じケア倫理に服する道徳的義務を負うことになる。
倫理問題の個別的解決において、「患者の擁護」という看護職の役割を支援する制度が必要であり、法改正に当たっては、これを看護の理念の一つとして規定すべきである。また、看護職がチーム内あるいは患者・家族との間で調整的役割を積極的に果たせるような法制度の確立が必要である。
今日的な看護の活躍に見合う社会的評価を得るには、情報収集およびその伝達、経過観察に対する経済的評価を見直し、報酬体系においてこうした技術を評価し、経済的インセンティブをもたせるような視点が必要である。また、身分の「名称」、看護に期待される「業務」、看護職としての「責任」、専門性を発揮するための「資格」等についての見直しも必要である。
これらのうち、看護業務のあり方に関して、医行為と看護行為の関係をダイナミックにとらえようとするとき、先に挙げた代表的な考え方では不十分である。従来「相対的医行為」として医師の観点から医行為の一種としてのみ捉えられていた行為は、看護婦の観点から看護行為の一種として捉え直される必要がある。
看護と介護とは、ともに生活活動の援助を行うことを業とするとしても、サービスを受ける対象者が医学的管理を必要としている場合には、看護師が最終的な責任を負うべきである。このような役割分担についての法制度の整備は、保健婦助産婦看護婦法のみならず、社会福祉士及び介護福祉士法の改正をも要求することになろう。

公開日・更新日

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