科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究

文献情報

文献番号
200001150A
報告書区分
総括
研究課題名
科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小原 喜隆(獨協医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 赤木好男(福井医科大学)
  • 茨木信博(日本医科大学北総病院)
  • 北原健二(慈恵医科大学)
  • 佐々木洋(金沢医科大学)
  • 増田寛次郎(関東労災病院)
  • 松島博之(獨協医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
白内障患者の視力障害を正しく管理するために効率的に対応し、質の良い医療サービスの提供には科学的根拠に基づいた医療(Evidence Based Medicine)を実践することが必要である。白内障発生原因が未だ明らかでないことから発生予防を含めた非観血療法と観血療法の適応をしっかりと決めることが重要である。このガイドラインでは、白内障発生の危険因子を明らかにして視機能の障害程度から白内障の予防について、そして、薬物療法と手術療法を解折する。また、最近増加している糖尿病の白内障の医療についても検討を加えた。本ガイドラインは、専門医はもちろんのこと、他科医、医療従事者そして、患者・家族にも役立つことを一応の目的としている。
本年度、本研究班は以下の手順でガイドライン策定の作成に向けて作業を行った。
研究方法
Evidence検索の基本的事項:下記のテーマ毎にデータベース:(収載範囲1966年-2001年)で検索。採用する文献は1985年以降を主体として、特に質の高い文献は1985年以前でも採用する。
1)白内障手術に関する文献:1966年~2000年では14,204件あるが、比較研究や出版状態(RCT)で絞ると742件になった。2)薬物療法に関する文献検索:1966年~2000年に272件。研究デザイン(比較研究等)で39件など178件を選んだ。3)診断に関する文献検索:診断をテーマに書いた論文を重複しないように検索すると86件の論文がリストアップされ、資料の対象となった。4)病因に関する文献検索:病因に関してより質の良い文献に絞り込んで検索するために疫学の研究デザイン、リスクの指標を詳しく挙げて検討すると1,189件があった。白内障の病因を中心に書かれた質の高い論文のうち「ケース・コントロール研究」と「コホート研究」「リスク」に焦点を合わせて文献を選んだ。5)白内障の予後に関する文献検索:このテーマを中心に書かれた文献は941件。予後に関する質の良い論文を検索するために生存、発症などMeSH用語を全て挙げて診断と掛け合わせると138件となった。
検索されたevidence水準の決定:白内障の専門家で特に造詣の深い人がその専門分野を担当し、各テーマについて国内外の論文の検索を行う。収集した論文のアブストラクトフォームを作成し、各文献のevidenceを抄録して評価基準に従って評価する。
結果と考察
結果=白内障は、我国の治療方針を確立するためには、病因を明らかにしてその予防方法を工夫し、効果のある薬物療法を目指して研究を重ね、そして、質の良い視機能を獲得出来る手術療法を行うことが重要である。信頼のおける文献として手術療法に関して578件、薬物療法272件、診断について126件、病因に関して192件、予後に関して142件が最終的にリストアップされた。各担当者が個々の関係論文の科学的根拠について吟味しながら登録の作業を行っている課程である。
白内障に関する基礎的ならびに臨床的問題は解決しない課題が多く存在する。すなわち、なぜ白内障になるのか、白内障になるとどのように見にくいのか、混濁した水晶体は薬物で治るのか、手術の適応と最も安全な手術は何か、手術を受けた眼はどうなるのか、など解決すべき問題が挙げられる。いずれも難題であって、いかに質の高い文献を参考にしても普遍的な診療方針を策定することは困難な感を受ける。
白内障には共通性のある分類方法が確立されていないために診断すら確かでない。また、水晶体の混濁形態も地域的特徴があるために研究対象(集団)が異なってくる。したがって、疫学的に見た白内障発生因子も地域的には影響力が異なってくる。いったん白内障になると最終的に白内障手術の適応となる場合と生涯にわたって薬物療法で手術の適応を免れる場合とがあることから、薬物効果も無視できないものと思われる。最近、増加している糖尿病は白内障の併発が多いことからその管理は網膜症と同様に重要な問題となっている。白内障者の視機能を解析することは患者に高齢者が多いことからも必要性があり、手術適応の条件としても解明しておくべき問題である。白内障の治療で最も進歩したのは手術療法である。現在最も多く行われている超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を評価して偽水晶体眼の視機能の実態など明らかにしなければならない。
結論
危険因子:加齢を基にして喫煙、薬物、紫外線、糖尿病、抗酸化物の摂取不足などが挙げられる。しかし、それらが白内障発生の予防手段となり得るのか、現在の作業状況では明らかでない。白内障手術療法と適応:超音波乳化吸引術(PEA)が計画的嚢外摘出術(PECCE)に比較して手術成績が勝れているか、眼内レンズの利点、後発白内障発生防止に対する科学的根拠のある対策が求められている。手術適応については視力のみを指標とせずに患者のquality of visionを考慮して適応を決める必要があるが、その条件の設定も今後の課題である。薬物療法の適応:抗白内障薬の開発は世界各国で行われ、現在までに40種類以上の薬物が製造されている。水晶体混濁阻止への効果を判定することは抗炎症薬の薬効判定のようにはっきりとした視認性のある効果が期待できないことから難しい判断である。したがって、抗白内障の薬効判定は水晶体混濁の減少あるいは増加という観点から判定するのではなく、水晶体混濁程度の修復への効果という視点から特異的な判定をすることとなると思われる。視機能からみた白内障診療方針:白内障の進行過程によって視力のみならず視機能に影響が生じることが考えられる。影響を受ける視機能を多角的に分析して手術の適応の基準とする。現在は科学的根拠に基づく質の高い論文は7編しか検索されていないので、白内障診療方針の作成は不可能な状態である。今後、他のデータベースから適切な文献を探索してよりよい診療方針の作成に努める。白内障分類別診療方針:診断基準となる白内障分類法は我国の疫学研究班分類をはじめ、LOCS分類、Wisconsin分類、Wilmer分類、Oxford分類などの分類法が提唱されているが、いずれも共通性に欠けている。各分類法の問題点を解析することにより、白内障の有所見率と進行の自然経過を明らかにして白内障治療効果判定の基準の設定に利用する。疫学調査によっては地域によって白内障混濁型に差のあることが明らかとなった。白内障の自然経過を知ることが治療判定の基本であることから、白内障有所見率および発生率についてevidenceを明確にする必要がある。糖尿病白内障の性状と手術方法:糖尿病は白内障発生の危険因子の1つである。基礎研究の結果、アルドース還元酵素活性の上昇が白内障発生の重要な因子としてevidenceされているのでその阻害剤の開発ならびに臨床応用が注目される。文献的evidenceを基に診療方針を組み立てるところである。糖尿病者の白内障手術の適応条件は、全身状態との関連から一概に決められないが、術式の改良で積極的に手術が行われているようである。現在、その手術治療の特徴について文献的に分析中である。加えて糖尿病に伴う白内障について①原因・成因を明らかにする、②年齢との発生の関連性について、③糖尿病に伴う白内障の混濁型、進行度合、④非観血療法の可能性を中心に文献的に明らかにする作業を進めている。

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