Evidenceに基づく脳梗塞治療ガイドライン策定に関する研究

文献情報

文献番号
200001149A
報告書区分
総括
研究課題名
Evidenceに基づく脳梗塞治療ガイドライン策定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
福内 靖男(慶應義塾大学神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 小川彰(岩手医科大学脳神経外科)
  • 小林祥泰(島根医科大学第3内科)
  • 篠原幸人(東海大学神経内科)
  • 東儀英夫(岩手医科大学神経内科)
  • 橋本信夫(京都大学脳神経外科)
  • 眞野行生(北海道大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)
  • 山口武典(国立循環器病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、現時点で我々が収集しうる限りの脳梗塞治療に関する科学的情報(Evidence)に基づいて、脳梗塞の治療ガイドラインを策定し、患者数が多く、社会的にも極めて関心度の高い脳梗塞の診療に従事するすべての人々を支援することである。
研究方法
本年度は、脳梗塞の治療に関するあらゆるデータを収集し、その根拠のレベルの分類を試みた。Evidenceのレベルは、Cookの分類に基づきLevel I-Level Vに分類した。
脳梗塞に関する治療は、急性期の治療、慢性期の治療、リハビリテーションに分けた。さらに急性期の治療は、一般的治療として、呼吸管理、循環管理、対症療法、安静と早期離床、輸液・栄養補給、合併症対策、特殊治療として抗浮腫療法、血栓溶解療法(経静脈的投与)、局所線溶療法、抗凝固療法、抗血小板療法、血液希釈療法、フィブリノーゲン低下薬、ステロイド療法、脳保護薬、低体温療法、高圧酸素療法、開頭外減圧術、緊急頸動脈内膜剥離術(CEA)、angioplastyとstenting、慢性期の治療は、危険因子の発見と予防、抗血小板療法、抗凝固療法、脳代謝賦活薬、脳循環改善薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、筋弛緩薬、向精神薬、睡眠導入薬、抗パーキンソン薬、CEA、angioplastyとstenting、外頸動脈-内頸動脈バイパス術(EC-IC bypass)などに細分化した。分担研究者に各項目を割り当て、アブストラクトテーブルを作成した。国内文献は、1994年~2000年(8月号)までに医学中央雑誌基本データベースに収録された文献データを対象に、原著論文に絞った2,896件を対象とした。海外文献は、The Cochrane Library 2000, Issue 2により検索して得られたThe Cochrane Controlled Trials Register(CCTR)のReferences6908件。さらにAHAより発表された急性期虚血性脳卒中の管理ガイドライン(1994)の参考文献179件。さらにThe Cochrane Library 2000, Issue 3のThe Cochrane Data Base of Systematic Reviews(CDSR)の中から70件を参照した。アブストラクトテーブルに採用した論文は、エビデンスレベルの高いRCTの論文を原則としたが、RCTの論文の少ない項目に関しては、Level III以下の報告も採用した。
結果と考察
アブストラクトテーブルに採用した論文は、全部で596件であった。本年度は、各項目別にこれらのアブストラクトテーブルを完成させ、さらにこのまとめを作成し、次年度に完成される予定のガイドラインのrecommendationの参考資料とした。まとめの概要は、以下の如くである。1)急性期の治療.呼吸管理:脳卒中急性期で意識障害が進んでいる患者に対しては、気道確保や人工呼吸管理の必要性を考慮する。循環管理:脳卒中急性期の降圧療法は、解離性大動脈瘤、急性心筋梗塞、高血圧性脳症などを合併していない限り原則的に不要であり、降圧療法による血圧の低下と脳血流は相関する。抗脳浮腫療法:グリセリンは頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞での救命に有効である。血栓溶解療法(静脈内投与):血栓溶解療法は、致死的頭蓋内出血および死亡を増加させる。その一方で、生存者では障害の程度を軽減させるため、全体としてみると死亡および要介助者の比率を減少させる。現時点で最も多くのエビデンスが得られている、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA、保険適用外)の静脈内投与では、危険性が比較的低く、有効性が比較的高いことが示唆されている。局所線溶療法:中大脳動脈灌流域の新たな神経脱落症状を有し、来院時軽症から中等症で、CT上梗塞巣がなく、発症6時間以内に治療開始可能な中大脳動脈塞栓性閉塞においては、経動脈的な選択的局所線溶療法が有効とする報告が見られる。抗凝固療法:ヘパリンは、虚血性脳卒中の再発は抑制するが同程度に脳出血も増加するため、急性期での使用は推奨できない。選択的トロンビン阻害薬のアルガトロバンは、発症48時間以内のアテローム血栓性脳梗塞に有用である。抗血小板療法:アスピリンを、発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者に対して160~300mg/日、経口投与することにより、長期予後が改善することが示されている。オザグレルを、発症5日以内の脳血栓症患者に対して160mg/日、14日間点滴投与することにより、臨床症候が改善することが示されている。血液希釈療法・ステロイド・脳保護薬・低体温療法・高圧酸素療法・急性期頸動脈内膜剥離術・transluminal angioplasty / stentingが、脳梗塞急性期に有用であるとする十分な根拠はない。2)慢性期の治療.危険因子の発見と予防:高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、心房細動、卵円孔開存、高ヘマトクリット血症、高フィブリノーゲン血症、抗リン脂質抗体症候群、高ホモシス
テイン血症、無症候性脳梗塞、動脈解離は脳梗塞の重要な危険因子であり、その発見、治療が重要である。抗血小板療法:アテローム血栓性脳梗塞では抗血小板薬の投与は脳梗塞の再発を有意に低減する。脳梗塞・心筋梗塞やその危険因子を有する症例の虚血性血管障害の再発は、アスピリンやチクロピジンにより有意に低減される。アスピリンの至適用量は75~325 mg/日と考えられる。心原性脳塞栓症の再発は、ワルファリン(INR 2.5-4.0)により有意に低減される。アスピリン(300 mg/日)も心原性脳塞栓症の再発を15%低減するが、この効果は有意ではない。ラクナ梗塞;抗血小板薬の再発予防効果には議論がある。抗凝固療法: NVAFのある脳梗塞またはTIAでは、年間脳梗塞発症率は対照群12%に比べてワルファリン群(INR 2.5-4.0) 4%と有意に低下し、ワルファリンの再発予防効果が示されている。脳代謝賦活薬、脳循環改善薬:本邦で発売中ないし発売が予定されていた諸種の脳循環代謝薬に関する14のランダム化比較試験に対するメタアナリシスの結果、実薬群はプラセボ群に比し有意に脳梗塞後の全般改善度を改善した。また実薬群はプラセボ群に比し有意に脳梗塞・脳出血後の自覚症状・精神症候を改善したが、神経症候とADLに対する有効性は相対的に低かった。angioplastyとstenting: transluminal angioplasty / stentingについては、十分な資料がない。CEA:50%以上(とりわけ70%以上)の症候性頸動脈狭窄では、内科的治療+CEAと内科的治療単独とを比較すると前者の方が脳卒中再発予防効果が優れている。60%以上の無症候性頸動脈狭窄では、内科的治療+CEAと内科的治療単独とを比較すると前者の方が脳卒中再発予防効果が優れている。EC-IC bypass:症候性内頸動脈あるいは中大脳動脈閉塞あるいは狭窄症を全般にわたってみると、脳虚血症状再発に関し、バイパス術は薬物療法単独と比べ有効であるというエビデンスはない。3)リハビリテーション.急性期リハビリテーション:脳卒中急性期に対して早期からの集中的な訓練は、歩行・上肢機能・ADLを改善し早期離床を促進する。慢性期リハビリテーション:脳卒中慢性期の上肢の訓練では、通常の訓練に加えて道具を用いた訓練、指スプリントを用いた訓練やリーチング訓練などを行うことは運動能力や平衡能力をより回復させる。脳卒中リハビリテーション病棟での入院治療は死亡率・全身性合併症を減少させる。また訓練の開始時期が早くなり、入院期間を短縮させ早期在宅につながる。
結論
脳梗塞の治療に関する報告を、各項目別に広く検索し、エビデンスレベルの高い論文を中心にアブストラクトテーブルを作成した。項目によっては、エビデンスレベルの高い論文が少ないことも判明した。今後、このアブストラクトテーブルを参考にガイドライン作りを目指したい。

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