看護情報の電子的交換規約の研究開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001147A
報告書区分
総括
研究課題名
看護情報の電子的交換規約の研究開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
美代 賢吾(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 石垣恭子(佐賀医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終的な目的は、1)看護に関わる情報、特に患者のケアに必要とされる情報を、病院と訪問看護ステーションなどの間で、電子的に交換するための通信規約の開発、2)その規約を病院および訪問看護ステーション上のシステムに実装し、運用試験を行うことによる評価、の2点である。
現在日本の医療構造は、公的介護保険制度によって、従来の医療施設や中間施設に収容してケアをおこなう方向から在宅においてケアを行う方向へと、大きく転換つつある。在宅における患者ケアの特徴としては、入院期間の短縮化による早期退院や症状の悪化による再入院など、患者が施設間で頻繁に移動することが挙げられる。このような患者移動時には各施設で患者情報を再収集する必要があり、このことは、それぞれの施設にとって大きな負担となっており、ケアの継続性および患者の生活の早期安定化の妨げとなる要因の一つになっている。
一方、国立病院、大学病院をはじめとして、現在多くの病院で電子化が進み患者情報が電子的に蓄積される環境が整いつつある。また、訪問看護ステーションなどの在宅看護関連施設での患者情報の電子化も、限られた人的・物質的資源を有効に効率よく活用するために今後ますます進んでいくと考えられる。このような、病院側と訪問看護ステーション側の個々の情報インフラが整備されていくなかで、次に必要となってくるのは、施設を越えたネットワーク化であり、そのためには、患者のケアに必要とされる情報の電子的情報交換規約の開発および試験的実装による評価が不可欠である。
現在、医療情報の施設間での電子的情報交換規約に関しては、平成7年度厚生科学研究の成果物であるMML(Medical Mark-up Language)や医師の紹介状を電子的に交換するMERIT-IX(MEdical Record, Image, Text - Information eXchange)によるMERIT-9紹介状DTD(Document Type Definition)が既に提案されている。MML規約は診療録2号様式、MERIT-9紹介状DTDは医師の紹介状に基づいて開発されており、医師が扱う患者情報の交換を念頭においた規約である。
看護が扱う患者情報のうち、施設間で交換すべき情報については、主任研究者らによって既に明らかにされている(水流聡子,美代賢吾,柏木公一,石垣恭子,他5名.施設-在宅間の継続に必要な看護サマリーの構成要素.医療情報学,1998,Vol.18,No.3,P.299-308.)が、ここで明らかになった看護固有の情報はこれらの規約にどの程度含まれているか検討する必要がある。また、国際的な電子的患者情報交換規約の一つであるHL7は、一部看護に固有な情報も含まれているが、訪問看護ステーションと病院間で交換される看護サマリーなどの患者の包括的情報交換にそのまま用いることは難しく、今後これらを加味した看護に関わる情報の新たな交換規約が求められている。
以上のような観点から、本年度我々は、看護情報の電子的交換規約の開発の第一段階として、日本医療情報学会課題研究会「在宅-施設間の看護の継続を実現する看護サマリーネットワーク研究会」の研究成果である、「病院から訪問看護ステーションに送る看護サマリーに必要な情報項目αバージョン」(389項目)(以下「看護サマリαバージョン」)をたたき台として、看護情報の標準交換規約の基礎となる看護サマリ標準項目セットβバージョンの研究開発を行った。
研究方法
病院から訪問看護ステーションに送る患者情報の電子的交換規約暫定版を作成するために、分担研究者および研究協力者とともに、以下の方法により研究を行った。
1.既存の看護サマリー標準項目セットαバージョンの各項目について情報学的分析を行った。
2.看護サマリー標準項目セットαバージョン用いて、実際の紙の看護サマリに記述されているかどうか、および、在宅側が必要としている項目の検討を行った。
3.医療情報学会課題研究会「電子カルテ研究会」によるMML version2.21、および、同学会課題研究会「MERIT-9研究会」によるMERIT-9紹介状DTDで代替できる要素および代替出来ない要素の検討をおこなった。
4.厚生省が財団法人医療情報システムセンターに委託して開発した「電子保存された診療録情報の交換のためのデータ項目セット(J-MIX)」に含まれる項目と看護サマリ標準項目セットαバージョンとの比較を行い、J-MIXで代替出来る要素の検討をおこなった。
以上から、看護サマリ標準項目セットβバージョンの開発を行った。
結果と考察
本年度は、以下の研究結果を得た。
1.「看護サマリαバージョン」には、項目による粒度の不統一、また項目の重複、あるいは一つの項目に複数の要素が含まれてしまうなどの問題点が存在することが明らかになった。
2.分担研究者の調査により、在宅側の必要度の高い情報として、「利用者属性」「診療情報」のほとんどの項目と「在宅で継続する医療行為」の中の「訪問看護婦にしてほしい医療行為」「最終IVHルート交換日」「酸素吸入の量」「酸素吸入の時間」「人工呼吸器の設定」「疼痛の経過」「鎮痛剤の使用量」の項目が挙げられた。また、これらの項目については、実際のサマリに記載が少ないことも明らかとなった。
3.MML、およびMERIT-9紹介状DTDと看護サマリー標準項目集αバージョンは、患者基本情報を除けば一致する項目がほとんど無く、看護サマリ標準項目セットβ版の参考とするにはふことが明らかになった。
4.厚生省が財団法人医療情報システムセンターに委託して開発した「電子保存された診療録情報の交換のためのデータ項目セット(J-MIX)」には、患者基本情報、アレルギー情報等一致する項目がとの整合性を取るための比較検討を行った。その結果、患者基本情報、診療情報の一部等に一致する項目があった。他の様々な交換規約との互換性を維持するために、一致する項目に関しては、同じ要素名とすることとした。
以上結果から、既存の「看護サマリαバージョン」は、それを構成する要素に、粒度の不統一、項目の重複、要素の多重化が見られ、実用的な看護情報の交換規約とするためには、特定の基準に則った項目の整理が必要であることが明らかになった。
そこで、既存の医療情報交換規約である、MMLおよびMERIT-9紹介状DTDを項目整理の基準として検討を行ったが、「看護サマリαバージョン」と一致する項目がほとんど無く、また看護サマリの電子的交換で求められると想定している粒度よりも荒かった。このことより、これらの規約は、看護サマリに必要な標準項目セット作成の基準としては、不適当と考えられる。
一方、J-MIXは、医療情報の交換に必要な項目を網羅的に収録することを目的としており、粒度も細かく、患者基本情報やアレルギー等の情報、および在宅側の必要度が高かった「医療行為」に関する項目も看護サマリ標準項目セットβ版として利用可能である。以上より、J-MIXを看護サマリ標準項目セットβ版作成のための基準セットとして用い、β晩の研究開発を行った。
なお、現時点では、本研究で開発中の「看護サマリ標準項目セット」はβ版(暫定版)であり、今後早急にその成果を公開し、多くの批評を得て来年度以降正式版として公開する予定である。また、来年度は、病院情報システム側に上記の交換規約暫定版を実装し、訪問看護ステーション側にも上記の交換規約暫定版を実装した看護サマリ受信システムを構築し、実際の情報交換による規約の評価も予定している。
本研究により開発した交換規約が、今後正式版として、実際の臨床現場で実用化されることになれば、施設・在宅を越えたケアの継続性の保証、また短時間での高品質・等質的なケアプランの作成が間接的な効果として期待される。これによって、患者のケアに関わる情報の共有化が促進されると共に、短時間で高品質、合理的、等質的なケアプランの作成が可能となる。このことは、患者の生活の早期安定化に大きく寄与すると考えられ、厚生行政に与える影響は大きいと考えられる。
結論
本年度、分担研究者、研究協力者とともに、看護サマリーネットワーク研究会による「看護サマリαバージョン」をたたき台として、施設間での看護情報の交換に必要な項目を再検討し、「看護サマリ標準項目セットβバージョン」の開発を行った。また、この過程において「看護サマリ標準項目集βバージョン」の各項目の検討に、「電子保存された診療録情報の交換のためのデータ項目セット(J-MIX)」を基準として用いることにより、J-MIXとの整合性を図った。

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