保険診療点数算定基準の電子的表現のための標準言語の開発および標準的算定ソフトウエアの自動生成システムの研究開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001144A
報告書区分
総括
研究課題名
保険診療点数算定基準の電子的表現のための標準言語の開発および標準的算定ソフトウエアの自動生成システムの研究開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山下芳範(福井医科大学医学情報処理センター助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,920,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、保険診療点数算定基準は各医療行為の点数と算定条件、例外条件、加算条件、包括条件など、およびそれらの解釈方法を説明した文章で記述されており、人が理解することを前提に作成されている。そのため、この基準をすべて満たすプログラムを作成することは極めて困難なソフトウエア開発作業であり、定期的な医療費改訂のたびに、膨大かつ極めて複雑なソフトウエア開発が必要となっている。 さらに現在稼動している多くの保険診療点数算定ソフトウエアが、文章で書かれた保険診療点数算定基準を完全に満たしているのかどうかも検証する理論的な方法がない。 そこで、保険診療点数算定基準と算定ロジックを、コンピュータが自動処理可能な、人工的な言語の文法と、表現(記述)方法を新しく開発することにより、複雑なロジックを、計算機処理可能な矛盾のないルールで記述する方法を確立することを第1の目的とする。 これにより、医療改訂のロジックを論理的な曖昧性のない言語で表現し、正確に基準を伝えることが可能となる。 次に、このように定式化されコンピュータ処理可能な記述による保険診療点数算定基準を使って、自動的に算定ソフトウエアを生成する方法論とそのためのソフトウエアを試験開発する。 このソフトウエアが出力するソフトウエアは標準的な保険点数算定ソフトウエアとして利用することが可能であり、既存の保険点数算定ソフトウエアを検証するソフトウエアとしても利用可能となる。 これらの成果により、①保険医療費算定ロジックを組み込んだ電子カルテシステムの開発が標準的な方法で実現可能となり、②システムによって微妙に算定ロジックが異なってしまうことを防ぐことが可能となることに加えて、③電子カルテシステムに容易に保険医療費算定ロジックを組み込むことができるようになる結果、④診療の場で電子カルテ入力時に即時に医療費を計算し、医療提供者と患者の両方に提示することができ、医療費抑制のための警告システムなどに発展させることも可能となる。
研究方法
1)現在の、文章で記述された、保険診療点数算定基準を、各医療行為の点数と算定条件、例外条件、加算条件、包括条件、解釈方法など適用にあたっての影響の与え方を論理的に分析し、これらが表現できる新しい記述言語を、オブジェクトモデリングという情報工学技術を使用して分析することにより新規に開発する。2)開発した言語を用いて、現在の保険診療点数算定基準が完全に記述できることを、実際に記述作業を行うことにより、シミュレーションを繰り返し、実証する。問題点があれば言語の仕様の変更に反映させる。3)上記の記述言語にもとづいて、算定ソフトウエアを生成するソフトウエアのプロトタイプの仕様を作成する。すなわち今年度は下図における網掛けの部分を実施した。
具体的方法としては、
a)ML形式診療報酬点数表の開発医学通信社により発行されている診療報酬点数早見表[医科、老人医科]平成12年4月版を分析し、医科診療報酬点数表における検査の一部を、算定ルールを含めXML形式で表記する方法を開発した。XML表記における一連の規則を記述するために、DTD(Document Type Definition)を利用した。
b) ソースプログラム自動生成ソフトウェアの開発ソースプログラム自動生成ソフトウェアは、作成したXML形式の診療報酬点数表を元に診療報酬の算定に必要なソースプログラムを生成するために開発するものである。このソフトウェアの開発環境として、Sun Microsystems, Inc.により提供されているJDK1.2.2(Java 2 SDK ver 1.2.2 for Windows 95/2000/NT)を利用し、Java言語を用いて開発した。また、XMLファイルの操作、妥当性検証には、Sun Microsystems, Inc.により開発されたXMLパーサー、Java API for XML Parsing (JAXP)を使用した。
c) ソースプログラム自動生成ソフトウェアの出力プログラムの妥当性評価作成したXMLドキュメントを対象にソースプログラム自動生成ソフトウェアを実行した。このソフトウェアにより出力されるソースプログラムは、診療報酬算定ソフトウェアの一部として利用される。テストデータとして、平成12年12月の診療行為が記載された実在する4患者のレセプトデータを利用し、生成されたソースプログラムを取り込んだ診療報酬算定ソフトウェアを実行した。この診療報酬算定ソフトウェアにより出力された診療報酬算定結果とレセプトの摘要欄に記載された検査項目の点数の一致度を比較した。
結果と考察
1)保険診療点数算定基準と算定ロジックを、コンピュータが自動処理可能な、定式化された人工的な言語で表現する表現言語の文法としてXML-DTDを用いて記述した。具体的には、診療報酬点数表の区分番号D005血液形態・機能検査、D007血液化学検査の一部、D008内分泌学的検査の一部、D009腫瘍マーカー、D400血液採取の記述内容を、項目リストファイル、小区分リストファイル、グループリストファイル、詳細項目リストファイルという4つのXMLドキュメントで記述できた。この過程で、算定ルールのパターンは8種類に絞ることができた。2)更に、ソースプログラム自動生成ソフトウェアを作成し、これらXMLドキュメントの内容を反映した診療報酬算定ソフトウェアのソースプログラムを出力させることができた。出力されたソースプログラムを含んだ診療報酬算定ソフトウェアを実際のレセプトデータを用いて実行した結果、レセプトに記載された検査項目の点数と88%(全34項目中30項目)一致した。
本研究で作成したソースプログラムの算定結果とレセプト上に記載された点数の不一致の原因は、診療報酬算定ソフトウェアの評価で利用した入力情報が不完全であること、ある検査項目の算定に、本研究の段階ではXMLドキュメント作成の対象としていない項目の算定が関連していることの2点に絞られる。しかし、これらの問題は、システムの完成によって解消される問題であると考えられる。また、診療報酬点数表のXML化の過程で、現在の診療報酬点数表の持ついくつかの曖昧性の存在を指摘することができた。本研究によって、XML表記診療報酬点数表の開発が診療報酬点数表の持つ曖昧性の排除につながり、より明確な診療報酬点数表の作成に貢献できることが示唆された。また、ソースプログラム自動生成ソフトウェアについては、今後いくつかの改良が必要ではあるが、その実現可能性を示唆することができた。この2点において、XML形式診療報酬点数表の持つ有効性を提示することができた。このソフトウェアの利用が実現すれば、診療報酬点数表改定の際に改定内容をXML形式に変更するのみで、その内容を反映した新たな診療報酬算定ソフトウェアが生成され、診療報酬算定ソフトウェアの容易な修正が可能になる。今後、診療報酬点数表がXML形式で電子配布され、各医療機関でこのソフトウェアが利用されれば、XMLドキュメントを入手した時点で即座に改定内容を反映した新しい診療報酬算定ソフトウェアの利用が可能になる。また、算定ルールの解釈が一致した診療報酬算定ソフトウェアを利用することが可能になり、適正な算定と保険請求が保証される。更に、XMLドキュメントの修正の容易さから、個々の医療機関で使用するローカルールが存在する場合であっても、その内容を簡単に反映、修正することが可能になる。プラットホーム非依存のXML、Java言語を用いることにより、各医療機関での利用に際しコストがかからないという利点もこのソフトウェアの普及に有用である。
結論
診療報酬算定ルールのXML表記法の開発によって、診療報酬点数表の持つ曖昧性を排除し、より明確な診療報酬点数表の作成に貢献できることが示唆された。また、診療報酬算定ソフトウェアのソースプログラムを自動的に生成するソフトウェアについては、今後いくつかの改良が必要ではあるがその可能性を示すことができた。これにより、XML形式の診療報酬点数表の持つ有効性の一部を提示することができた。しかし、本研究で開発したXML表記法を全範囲の診療報酬点数表に適用可能であるか今後更なる分析と記述を行う必要がある。

公開日・更新日

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