相補・代替医療の評価と保健サービスにおける位置づけに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001142A
報告書区分
総括
研究課題名
相補・代替医療の評価と保健サービスにおける位置づけに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
丁 宗鉄(東京大学医学部生体防御機能学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科医薬経済学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
12,325,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、世界的な相補・代替医療(Complementary and Alternative Medicine : CAM)の使用の高まりがある一方で、その不適切な使用も多い。特に、公的医療サービスの中に組みこまれる際には、不合理性があらわれることが多い。日本においてもこの種の問題が近年目立ち、これに対する対処法が早急に求められている。
本プロジェクトは日本で保険医療サービスの中に組み込まれている、鍼灸などを基本的な対象とし、(1)すでに保険適応のある疾患がどのような経緯で決定されたかを調査し、(2)今後、適応疾患を決定するための適切な評価の方法論を作成する。アメリカでは医療経済学的に検討した結果、CAMが導入されるようになった経過も踏まえ医療経済学的評価も試みる。併せて教育システムについても検討を加える。
本研究を通して、日本における鍼灸などの保険適応疾患の現状と問題点が明らかとなり、これに対する合理的な解決法を提示することができる。長期的視野に立ち鍼灸などを国民医療サービスの中で正しく位置づけすることができる。
研究方法
相補・代替医療(Complementary and Alternative Medicine : CAM)は多様な医療と医療類似行為を含む。またその範囲は国や地域によって異なるし、時代によっても異なる。伝統医療や民間医療ばかりでなく一見先端的な医学理論を装っているものもある。
この領域に共通した特徴は、エビデンスのレベルの高いランダム化比較試験(randmised controlled trial:RCT)や、システマティックレビュー(systematic review)が、多くは行なわれていないということである。診療ガイドラインの作成や適応疾患などを決定する際、近年はエビデンスを考慮し、共通の「エビデンスに基づくガイドライン」(evidence-based guideline)などが作られるが、他方、「コンセンサスに基づくガイドライン」(consensus-based guideline)が作られることもある。3年計画のプロジェクトの第1年度は以下の方法がとられた。
① 文献(全日本鍼灸学会99年誌、日本鍼灸師会25年史・30年史・40年史)と関係者(黒須幸男氏、厚生労働省/上田孝之・岡崎也寸志・七五三充各氏)のインタビューにより、現行の日本の鍼灸の適応疾患決定方法を調査する。
② 平成12年11月19日から1週間にわたって、アメリカの医科大学(Minnesota大学、Wisconsin医科大、Mayoクリニック)における教育と診療の現状を現地でフィールド調査(シカゴ/Oisoクリニック・Nipponクリニック)する。
③ 一定の検索条件による医学中央雑誌web版の検索とhand researchにより日本鍼灸のRCTを同定し、論文を入手し重複などを注意深く整理した上で、データベース化する。
④ 英国で発行されているEBMに基づくCAM領域の二次情報誌であるFocus on Alternative and Complementary Therapies(FACT)の鍼灸関係の抄録の日本語訳に関係して、EBM関連用語の日本語訳のレビューを行い、基本用語の作成を行う。抄録の日本語訳は順次『医道の日本』誌に収録する。
⑤ RCTの前向きの登録(register of RCT)、コンファレンス会議の方法論、医療経済学的研究についての予備的文献学的調査を行う。
結果と考察
① 文献と関係者のインタビューにより現行の日本の鍼灸の適応疾患決定経緯を調査し、これまで日本において経験に基づき(experience-based)決定されてきた背景を明らかにした。すなわち、昭和36年に、国民皆保険スタートと同時にまず「神経痛・リウマチ」の2疾患に対して鍼灸の保険適応が認められた。これは、業界の団体代表と行政との交渉で決定された。次いで、頸肩腕症候群と腰痛・五十肩が、最後に頸椎症が認められた。また、保険の点数も1日に10人施術するとして、それによって平均的な公務員と同じ月収を保障する様に計算された。
② 相補・代替医療(Complementary and Alternative Medicine : CAM)は多様な医療、医学を含む。またその範囲は国や地域によって異なるし、時代によっても異なる。本年度は、CAMのアメリカの大学における現状と医療サービスへの取り込みの実際についてのフィールド調査を行った。
アメリカにおいては、CAMはすでに医学教育・大学病院・大病院・開業医に各レベルにおいて無視し得ない存在となっている。むしろCAMを中心に医療が展開していると言える。ミネソタ大学では逼迫した医学教育時間の中で丸1ヶ月をCAMの教育と実習に当てている。しかも医学生だけではなく、薬学部・看護学部の学生すべてに必須となっている。もちろん外来もあり、医師以外に鍼灸師やその他の治療家が共同で診療に当たっていた。開業医も1週間のCAM講習を卒後教育の一環として受けている。世界的に有名なメイヨー・クリニックにおいてもCAMの相談室がスタートしていた。開業医では、実体はもっと複雑であった。それは全米で行われている、いわゆるマネイジトケアー、包括医療と関係する。保険会社に主導された包括医療により、開業医の年収は激減している。多くの医師は学費をローンにより支払い、開業してもその返済の重圧に苦しんでいる。一方、いわゆる健康食品や無資格の医療類似行為を行っている者達が収入を上げている。そこでCAMを医師の指導管理下で行い、包括医療に束縛されない医療を展開しようとする動きが見られる。開業医のこのような動きは、保険医療に満足しない裕福な患者からは、むしろ歓迎されているように見える。このようなアメリカの医療界の変化は、少し遅れて必ずや日本にも波及することが予想される。それに備えて総合的対策が緊急に必要であると考えられる。
③ 日本でなされたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の文献収集を行い、内容の検討により28のRCTが同定された。このデータベース化がなさされ、web上で公開された。各studyについての構造化抄録のβ versionも作成された。
④ FACT誌の鍼灸関連の構造化抄録の日本語訳に、基本用語の作成を行った。
⑤ RCTの前向きの登録(register of RCT)の文献収集を行い、コンファレンス会議の方法論、鍼灸の適応疾患の医療経済学的研究の予備的調査を行った。
結論
本年度の研究によって、鍼灸などについて適応疾患の決定方法の現状と問題点の把握、今後の日本の医療サービスの中で、適応疾患を決定するための評価の方法論研究のための基礎的情報が集まるなどの成果があった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)