EBM普及支援システムの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001139A
報告書区分
総括
研究課題名
EBM普及支援システムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 俊三(佐賀大学医学部附属病院総合診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部)
  • 葛西龍樹(日鋼記念病院北海道家庭医療学センター)
  • 武澤純(名古屋大学医学部)
  • 名郷直樹(作手村診療所)
  • 吉村学(揖斐郡地域医療センター)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 北井啓勝(埼玉社会保険病院)
  • 多治見公高(帝京大学医学部)
  • 津谷喜一郎(東京医科歯科大学難治疾患センター)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学教室)
  • 鎌江伊三夫(神戸大学医学部安全医学教室)
  • 上野文昭(大船中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
だれでも、どこでも、いつでも(時間や勤務場所、診療科を問わずという意味)、忙しい臨床家があまり余分な負担なく、臨床の判断を根拠に基づいて行える(EBM)ようにする支援システムを研究開発し、普及、評価する。かつ、「一般診療分析」「定型患者判断システム開発」「複雑患者判断システム開発」「例外患者判断システム開発」「学生・研修医講習パッケージ開発」「第一線医講習システム開発」「普及評価」の7つの分担研究班によりそれぞれのサブシステムの開発や全体的分析、さらにEBMの評価を行う。これらの活動により、日本版クリニカル・エビデンスの開発に展望が開けると考えられる。
研究方法
研究1:専門家によるパネル、文献調査、及び事例検討によって研究した。ここで、専門家(臨床家及び臨床疫学者)はいずれもEBMに基づいたガイドライン作成について複数回の経験を有するものを選出した。
研究2:
1. 介入研究の場として、現在整備中の東海大学医学内科総合病棟を想定し、機構、環境(物的、人的)に関する準備状況を調査した。
2. 対象を初期臨床研修医(卒後1、2年次)とし、EBMに対する理解度と実践能力を評価した。
研究3:日本でのEBMのリーダーをこうして骨子としてそろえ、マクマスター大学、オクスフォード大学でEBMの手法の開発に携わり、BMJのクリニカル・エビデンスの編集者も務めたアン・ドナルド博士を招聘した。講習に際し、英国医師会出版部によるクリニカル・エビデンスの翻訳を試みた
結果と考察
研究1:EBMは、(1)疾患の社会的影響を考慮しての優先順位の設定、(2)リサーチ課題の明確化、(3)一定の方法論に基づいた既存の情報の再吟味(critical appraisal)、(4)経済的評価、(5)ガイドライン(Clinical Practice Guideline)の作成、(6)ガイドラインに基づいた患者の治療、(7)治療成績等に基づいたガイドラインの改善、の各過程からなることが明らかとなった。EBMを実現するための主要な成果物はガイドラインであり、ガイドラインの普及を図るためには、優れたガイドラインを見出すためにまずガイドラインの評価方法について明らかにする必要が有る。ガイドラインをいかに評価すべきかについて検討を行なった。また、米国の事例について検討した。米国のAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)では、ガイドラインについてのwebsiteを設けて、ガイドラインの要約を公開している。当初はAHRQが直接ガイドライン作成を行っていたが、政府によるprofessional freedomの制限につながる可能性が危惧され、ガイドライン作成は医師会・学会等が行い、政府はガイドライン作成のための資金援助及び普及のためのwebsite運営等のインフラ整備へと役割分担を行ったという経緯がある。コピーライトについては、ガイドライン自体のコピーライトは製作者に属し、製作者の許可が得られた場合には、リンクにより本文へのアクセスを認め、得られない場合には要約のみを掲載するに留めている。要約についてはコピーライト所有者はAHRQであり、websiteでの掲載は認められるとの立場を取っていることが判明した。
研究2:1. 2000年度に内科総合病棟が試験的に開設され、チーフ(教員)、シニア(臨床助手、大学院生など)、ジュニア(初期研修)からなる診療チームが構成され、約25床の総合内科的入院診療が行われている。2. 2001年度には7~8チームによる約100床の内科総合病棟が開設されることが医学部上層部の総意となっている。3. しかしながら、各内科専門分野の理解度は低く、利害も含めた心理的抵抗が多いため、実施時期や内容に関する変更の可能性もはらんでいる。4. 指導医となる各専門診療科医師のEBMに対する理解度と実践能力は低く、指導体制の問題が生じうる。5. 初期研修医の基本臨床技術は低く、本来のEBM実践の上で障壁となる。6. 臨床意思決定が初期臨床研修医に委ねられていないことが多いため、EBM支援が患者アウトカムの改善に貢献できるか不明の点が多い。
講習は、実際のケースを使って行われ、EBMの基本、5つのステップや手法として批判的吟味、臨床疫学、医学判断学、さらには最近の話題となっているナラティヴ・メディシンの解説が行われた。また、最近英国で出版され始めた大変便利なクリティカル・エビデンスの使い方についての講習もあわせて行われた。
EBM講演用のスライドファイルを高血圧、高脂血症、カゼ、虫垂炎について製作した。また、EBMワークショップ用の教材をアルツハイマー型痴呆、カゼ、帯状疱疹後神経痛、降圧薬の副作用について製作した。上記のうちカゼについての教材を利用してワークショップを開催した。また、「クリニカル・エビデンスの使い方」英国BMJ Publishing Group発行のEBMを支援するツールClinical Evidence(以下CE)の使い方を解説した。まず、CEの性格として、"We supply the evidence, You make the decisions."というCEのキャッチ・フレーズを紹介して、CEがガイドラインやクッキング・ブックではないことを示した。その後、実際にCE第4号をon lineで供覧しながら使い方をデモンストレーションした。
結論
研究1:本研究では、EBMの主要な成果物であるガイドラインは、(1)外的状況における有用性、(2)ガイドライン本体の評価、(3)ガイドライン導入による医療内容の変化の3つの視点から評価する必要があることが明らかにされた。従来のガイドラインの評価の多くは、(1)(2)に属するものであるが、EBMの技術的・構造的限界からは(3)による効果の検証が不可欠である。今後、ガイドラインの普及を図るには、(1)(2)についての評価情報の提供、(3)についてのエビデンスの有無を含めた「有効性の検証されたガイドライン」の推奨を図る仕組み作りが重要である。
研究2:EBM支援研究の場として、東海大学医学部内科総合病棟は対象側、指導側とも問題点が少なくない。しかしEBMに関する理解や実践能力の低い研修現場をわが国の標準と考えれば、あえて介入研究の場として考慮する価値も見出せる。
研究3:いつでもどこでも誰でもEBMの原則に基づく研修を行い、新しい研究カリキュラム手法を開発することができた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)