一般急性期病棟における適切な医療提供システムの構築に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200001135A
報告書区分
総括
研究課題名
一般急性期病棟における適切な医療提供システムの構築に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 正子
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,389,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般急性期病床内における入院患者に対して、一般急性期病棟における適切な医療サービスを供給する体制を構築するために必要な評価指標の開発とそれらの指標を用いることができる評価者の養成を行ない、「適正な看護」を行なうための医療提供システムについてのプロトタイプを提示することである。これを行なうことは、すなわち、これまで何度となく課題となりながら、達成が困難であった看護業務の標準化を進めることになると考えられる。
さて、これまで入院患者に対する業務標準化の研究としては、現在注目を集めているPERT(Program Evaluation and Review Technique)法やQC(Quality Control)、新QC、QR、IE等の手法等がある。しかし、わが国の臨床現場の実状に即し、それぞれの医療機関に適した指標としては、いまだ十分な成果をあげていない。この理由は、いずれの方法もすべての病院で用いることができるような普遍的な指標として開発されておらず、また評価者の養成についての一定の基準がなかったためと考えられる。
したがって、本研究によって、これらの指標やその指標を評価する評価者の研修技法が確立されれば、看護だけでなく医療サービス全体において、適切な医療を効率的に提供するという医療システムの構築のためには大きな貢献をできることになると考えられる。
今日、医療システム改革を行っていく上では、医療資源の適切な配分等を含めた多様な観点からの医療システムの評価研究が必要であるという認識も高まりつつある。このために様々な品質管理手法が医療分野にも導入されるべきであるとの認識もある。
このため本研究においては、米国ミネソタ州とポール市にあるAllina Health Systemに所属するUnited病院の例を紹介し、おもにアメリカ合衆国における医療サービスの「成果」に関する考え方を検討し、我が国の医療現場における妥当性と信頼性について検討を行なうために、現場の看護関係者などをはじめとする研究委員会を新たに設置した。
また、この委員会には、わが国において、すでに「成果」に関する指標を用いた看護体制があるといわれる病院の事例について、委員会での検討を加えることによって、わが国における今後の医療そして看護サービスにおける成果の考え方について整理を行なうものである。
研究方法
わが国では、これまで、提供される医療サービスについては、標準化以前にその評価方法すら十分には検討されてはいないのが現状である。そこで、本研究は、「一般急性期病棟における適切な医療提供システムに関する基礎的研究」を行なうための3年間の継続研究を実施し、適切な医療提供システムを実施するために不可欠な医療サービスの「成果」に関しての評価指標について検討を行なうことを目的とする。
本年度は、すでに医療サービスに関する「成果」についての指標が成立しているアメリカ合衆国で実際に使用されている「成果」に関する指標について、現地でのヒアリング調査を行ない、この指標に関しての使用方法、その内容について、検討を行なう。さらに、これらの指標において、わが国で適用できる可能性が高い内容について翻訳を行なった。
さらにこの翻訳された「成果」指標については、我が国の医療現場における妥当性と信頼性について検討を行なうために、現場の看護関係者などをはじめとする研究委員会を新たに設置した。
<倫理面での配慮>
研究対象者となる入院患者やその家族については、本人等の同意を得ると共に人権擁護上の配慮を行い、氏名や個別データ等プライバシーについては厳重に注意を行った。調査集計について、個人名については一切関係なく行ない、調査票の作成は、個人名が明らかにならないように複数の人間がチェックをすることとした。調査票並びにその結果は、秘密保持のための厳密な管理運営を行なった。調査の実施にあたっては、対象に十分な説明と同意を得た。なお、本研究は、国立医療・病院管理研究所の「人間を対象とする生物医学的研究に関する倫理委員会規定」第1条の「生物医学的研究」に該当しないものであった。
結果と考察
本研究においては、国内外の看護サービスの成果や質に関連する取り組みと研究について、文献的な検討およびわが国において先駆的に看護業務の標準化を行なってきた病院の例などを報告してきた。この結果、わが国では、医療や看護の「成果」を評価する指標の考え方は、各病院、各診療科、各病棟によって異なっており、普遍的な成果指標を創るには、解決しなければならない課題がかなり多いことが明らかになった。
すなわち、このように適切な医療提供システムを構築するための、「適切さ」の評価という課題を検討しようとした場合、医療の現場では、まず提供される医療サービスが、量、質ともに、提供されるさまざまな環境条件によって、かなり異なる。したがって、「どのような医療サービス提供のあり方を適切というか」という考え方は、その時、場所、条件設定によって異なっており、統一した見解を出すことが難しいといわざるをえない。
しかし、医療サービスを総合的に評価できるような指標の導入は、臨床現場からは、強く望まれており、とりわけ看護サービスにおける、「質」の評価を行なって欲しいという要望は強い。看護関係者は、看護業務提供時間や看護婦の人数だけでなく、看護業務における処置の難しさや専門性の高さを評価するような指標の開発をしてほしいという要望を強く持っているといえよう。
このため、こういった質を評価しようという取り組みや看護の標準化を目指した研究は、現在も多く続けられており、これらは、すべて適切な医療提供システムを構築し、適切な質の高い看護を行ないたい、行なっていることを評価して欲しいという願いに起因するものと考えられる。
欧米の状況をみると、ヘルスケアにおける質への関心が文献的に顕著に認められるようになったのは比較的最近のことである。また、その内容は、医療活動における自由競争原理の導入等に際して、費用効果を考えねばならなくなったといった経済的な要因が大きかったことがわかった。
結論
本研究は、3年間を予定しており、初年度の研究成果としては、とくにアメリカ合衆国における一般急性期医療体制における「成果」の評価に関わる指標とこれらの評価方法について、網羅的な文献研究ができたことは有益であったといえよう。
また、わが国における「成果」指標の利用実態やその考え方について、臨床現場の看護管理者らの具体的な活動についての資料が収集できたことは、今後の研究のあり方を検討する上で重要であった。
「成果」に関する概念が医療体制にとって重要な意味を持ってきた理由は、医療政策における経済的要因の影響が大きい。しかも医療の標準化は、国際的な動向であることから、わが国にとって、医療の「成果」をいかに定義するかについては、改めて検討すべき内容であると示されたといえる。

公開日・更新日

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