医療供給体制に関する研究

文献情報

文献番号
200001130A
報告書区分
総括
研究課題名
医療供給体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
佐々 英達((社)全日本病院協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度の研究目的は以下の通りである。
① 医療供給体制についての検討
② 診療情報整備の促進
③ アウトカムに基づく診療標準の確立
④ その他:米国における病院費用と医師費用の検討
研究方法
研究方法は以下の通りである。
① 医療供給体制についての検討
既に医療供給体制のあり方については、病院のあり方に関する報告書(2000年版)において基本的な論点を明らかにするとともに、提言を行っている。今年度は、病院のあり方委員会のメンバーを中心とした専門家パネルを設け、更に1/月のパネルによる検討を行った。
② 診療情報整備の促進
診療情報整備の促進は、質の高い医療の提供を行い、またコストが正しく償還される診療報酬支払制度を構築するためにも不可欠な情報をもたらす。しかしながら日本においては国際疾病分類は未だ十分には普及してない。専門家パネルを設け、現状での問題点を明らかにするとともに、コーディングの講座を設け、将来コーダーの教育課程の標準化・統一化の可能性について検討した。
③ アウトカムに基づく診療標準の確立
38病院を対象に27疾患・処置に該当する全退院患者について、年齢、性別、在院日数、退院先、退院後の療養状態、医療費(総計及び細目毎)、合併症の有無、ADL、痴呆の有無を調査した。対象とした27疾患・処置は、予め行った予備調査で、少なくとも5病院で患者の発生が報告され、年間総数が50人以上になることが想定されるものとして選択した。
④ その他:米国における病院費用と医師費用の検討
専門パネルにより、米国における病院・医師の雇用関係、診療報酬上の病院費用と医師技術料の状況について明らかにし、日本への導入可能性について検討した。
結果と考察
① 医療供給体制についての検討
専門家パネルによる現行制度の検討により、患者の要医療度、要看護度、時間経過に応じて医療供給体制は編成される必要があり、急性期医療については比較的明瞭に概念設定が可能であるものの、慢性期医療については患者の要医療度に応じて種々のサービス供給形態が可能であることが示唆された。治療病床における特定疾病の取り扱い、療養型病床群、介護病床の3施設形態(介護療養型医療施設、介護老人保健施設、介護老人福祉施設)の役割分担については今後更に検討を進める必要がある。
② 診療情報整備の促進
日本の病院では診療情報の整備が不十分であり、全国レベルでの信頼できる診療情報を得ることが困難である。現在、診療情報管理士は診療録管理学会、日本病院会が養成を行っており、診療報酬上診療録管理体制加算が認められたためもあり、希望者の増加を認めている。しかしながら、現在の養成システムでは実際に病院で国際疾病分類に基づくコーディングを行うには不十分であること、診療録管理体制加算では国際疾病分類に基づくコーディングを必ずしも要件としていないことが、問題点として指摘される。この問題を解消するために、全日本病院協会病院のあり方委員会、DRG委員会と協同して、病院としての組織理念、診療録記載方法など診療情報整備のためのマニュアルを作成した。また国際疾病分類(ICD)コーディングの普及を図るための講習会を開催した。
③ アウトカムに基づく診療標準の確立
38病院より、1998年10月~1999年9月までの退院患者11248人が得られた。平均年齢は57.2歳、男性が43.1%であった。在院日数(平均)は18.4日であるが、大腿骨骨折観血的手術(59.3日)、結腸半側切除術(43.1日)、胃悪性腫瘍手術(切除)(43.3日)等では長く、内視鏡的ポリープ切除(3.5日)、正常分娩(6.8日)、白内障手術(6.7日)で短い。死亡退院率は3.3%であり、急性心筋梗塞(15.9%)、急性期の脳出血(19.8%)等では高い。医療費は平均703千円であるが、冠動脈・大動脈バイパス術(4805千円)、大腿骨観血的手術(1920千円)、急性心筋梗塞(1547千円)等で高い。担当医師が治療経過に影響を及ぼすと判断した合併症を有するものは21.0%、ADL5項目が全て自立しているものは81.3%、痴呆を有するものは6.7%であった。痴呆、ADL自立、合併症なし群ではあり群に比較して、医療費総額、在院日数とも長くなる傾向にある。
④ その他:米国における病院費用と医師費用の検討
米国、西ヨーロッパにおいては、病院設立の歴史的経緯から、病院外に改行する医師が自分の患者を病院内に持ち込むという形で入院治療が行われている。このため医師と病院は良い意味での緊張関係にあり、また診療報酬上も病院に対する支払と医師に対する支払が当初から区別されていた。米国では1983年から入院医療に対する支払方式としてDRG/PPSが導入されるとともに、医師の診療報酬支払方式の見直しが行われた。米国における医師の診療報酬支払は、「慣習に基づき」(customary)、「広く行われている」(prevailing)、「納得がいく」(reasonable)というCPR方式で行われてきたが、医師間で請求金額が異なること、診療科間での不公平を生じること、医療費用に必ずしも基づいていないことなどが問題点として指摘され、カリホルニア州の知見、ハーバード大学への委託研究の成果を踏まえて、1992年から5年間の移行期間を経て、1996年よりRBRVS(resource Based Relative Value Scale)方式が導入された。これらの診療報酬方式の変更は、医療内容に大きな変革をもたらした。
日本においては、医師は病院に直接に雇用されること、診療所で行われる医療に比較して病院医療では多数のコメディカルや多額の設備費用を要するにもかかわらず、診療報酬は医師の提供する医療サービスをベースに計算されること、が問題として指摘される。また出来高払いを中心とする診療報酬支払方式では、DRG/PPSのような定額支払と比較して医療の標準化、医療機関の機能分化への圧力があまり働かないことが問題である。このような医療の高度化に対応した診療報酬支払方式については今後も検討を進める必要がある。
結論
本年度の研究により以下の事柄が明らかにされた。
① 日本では医療供給体制の機能分化が未だ十分ではない。医療ニーズと介護ニーズの区分、医療における急性期、慢性期の医療内容、人員・施設基準については更に検討を行う必要がある。
② 診療情報の整備は、質の高い医療を確保するためには不可欠であるにもかかわらず、これまで十分に整備が行われてこなかった。適切な教育体制の整備、診療報酬上の手当てが検討されるべきである。
③ 臨床指標を用いたアウトカム評価は、医療の質を最終的に保証し、医療機関へ改善へのインセンティブを与えるすぐれた手法である。患者データベースの構築を今後も継続して進めるとともに、医療の質保証における病院団体の役割について検討を進める必要がある。
④ 日本における、医師の雇用関係、医師と医療機関の診療報酬上の取り扱いは、欧米とは歴史的な経緯もあり、異なったものとなっている。診療報酬方式は医療内容に大きな影響を与えることから今後も継続して検討を進める必要がある。

公開日・更新日

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