三次救急医療施設における医療情報データベースの基盤整備と二次救急医療体制の確立と評価方法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001129A
報告書区分
総括
研究課題名
三次救急医療施設における医療情報データベースの基盤整備と二次救急医療体制の確立と評価方法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
島崎 修次(杏林大学医学部救急医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 山本修三(済生会神奈川県病院)
  • 小林国男(帝京大学救命救急センター)
  • 相川直樹(慶應義塾大学医学部救急部)
  • 益子邦洋(日本医科大学附属千葉北総病院救命救急部)
  • 石原晋(白鬚橋病院)
  • 信川益明(杏林大学医学部総合医療学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常生活圏である二次医療圏において救急医療体制を完結することを目指し、救急医療の確保のために、初期、二次、三次救急医療機関の機能分担に基づいて、地域における効率的な救急医療体制を構築すること、並びに評価方法を開発することが必要である。救命救急センターがセンター自身の機能のみを充実させるのではなく、二次医療圏の初期、二次救急医療機関との連携を効率的に行い、二次医療圏において文字通りセンターとして機能すれば全体の質も向上すると考えられる。地域協議会が救急医療体制を評価することが重要であり、ガイドライン作りの為の、評価方法の開発が必要である。そこで、将来の我が国における救急医療の良質かつ効率的な提供体制のあり方、特に地域単位での自己完結型救急医療体制の確保のあり方として、まず二次救急医療機関における救急医療の評価方法を開発検討する。
研究方法
平成11年度厚生科学研究において、全国の救命救急センターに対し、その医療評価のための調査を行った。その結果、二次医療圏における救急医療体制の現状と問題点の把握が最重要課題であることが示唆された。それを目標として、本年度は二次医療圏の救急医療実態調査、二次医療圏の質の評価のための標準となるクリニカルパス作成、そのクリニカルパス自体の評価方法の検討を行った。
結果と考察
東京都指定二次救急医療機関を対象として、その医療体制の検討を行った。主な点は、①救急医療体制の仕組み、②東京都の救急需要の変化、③休日・全夜間診療事業実績状況、④東京都が平成11年4月から施行している新体制運用後の救急医療体制の問題点などである。
平成11年度の厚生科学研究で行った二次救急医療施設の自己評価は、「医療の質研究会」による医療機能評価のスコアリングガイドラインを中心に行った。その結果、運営管理に関しては、民間病院が多くを占める二次救急医療施設では、その管理体制の遅れが指摘された。また、各疾患別の評価では、全国的に腹部救急疾患に対する機能は比較的充実していたが、外傷や中毒等に対する救急医療体制機能の充実が必要であることが判明した。しかし、用いたスコアリングガイドラインでは、そのスコアリング全体に満足すべき結果となれば、むしろ三次救急医療施設としてのスコアリングとなり、必ずしもこのスコアリングガイドラインが二次救急医療施設の機能評価の標準とするには問題があると思われる。そのためには、全国レベルでの二次救急医療の標準化・レベルアップの指標とすることが可能である。
東京都北多摩南部二次医療圏内の6市医師会に所属する631医療機関を対象に医療情報についての調査を行った。地域における医療連携を行うに当たり、医療機関情報の把握は、消防を含めた各機関の組織的展開や役割分担の明確化とその実践、また連携に必要な情報の公開と活用など医療連携システム構築のために不可欠と考えられた。
重症熱傷に対するクリニカルパス作成の必要条件としては、①重症熱傷処置のための特別な外来処置室があること、②救急外来にATLSに必要な医療設備のみならず、緊急減張切開などの外科的処置を行える設備を有していること、③救急医及び救急外来担当コメディカルだけでなく、形成外科医・皮膚科医なども緊急対応できること、④重症熱傷患者管理を行うため、救急医・看護婦だけでなく、臨床検査技師、臨床工学士、理学療法士、ソーシャルワーカー(ケースワーカー)などが機能的に人員配備されていることが上げられる。この要素を元に、医療事務とも協力して重症熱傷に対するクリニカルパスを作成することが出来る。本年度は、杏林大学医学部付属病院高度救命救急センターにおける重症熱傷に対するクリニカルアルゴリズムを参考に、重症熱傷に対するクリニカルパスの作成を目指した。
多発外傷に対する救急医療は極めて多岐に渡り、一つのクリニカルパスを構成することは困難であると考えられた。しかし、我が国においても、Trauma Registry Systemのようなデータベースが存在すれば、それを元に、多発外傷初期治療におけるクリニカルパスの作成は可能であると考えられる。そのためには、①多発外傷症例のデータベース作成、②多発外傷患者の総合的重症度評価としての偏りのない指標の存在、③その重症度とoutcomeとの統計学的関連性の検討などが必要であると思われた。
米国ではAmerican Heart Association(AHA)によりCPA及びEmergency Cardiovascular Care (ECC)に関する国際的ガイドラインが発表された。その中で、急性心筋梗塞と脳梗塞に関して、いくつかの点でガイドラインの変更がなされており、この分野での医学的進歩は著しいものがあり、詳細な文献的検索を行うことにより、EBMに基づいたガイドラインを包括的に捉え、脳卒中患者(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)に対する我が国の二次医療施設でも利用可能なクリニカルパスの作成を試みた。同様に、急性心筋梗塞に対しても、文献検索調査により、クリニカルパスの実例の存在を調べると共に、臨床的指標の調査を行った。また、急性心筋梗塞の救急医療の評価としてそのoutcomeではなく、Arrival - in ? Cath lab Intervalを一つの指標とすることで、急性心筋梗塞に対するクリニカルパスの存在が医療の質の改善に結びつくか否かの検討を行った。
重症熱傷・多発外傷・脳卒中・急性心筋梗塞の4つの重篤な救急疾患に対する救急医療の質の向上につながるクリニカルパスの客観的な評価方法の開発が、二次医療施設の救急医療の質の評価を可能とする。すでに、救急医療の質の評価に必要な要素の中、「構造(structure)」と「過程(process)」に関しては平成11年度の厚生科学研究、救急医療評価スタンダード(医療の質に関する研究会)、救急医療における質の評価(厚生科学研究)などの資料があるが、「転帰(outcome)」に関しては、救急疾患を対象としたクリニカルインディケータ関連の文献がわずかに見られるのみであった。
本来クリニカルパスは、期待される結果に直結するものでなければならないが、救急疾患に関しては、重症度や疾患の種類だけでなく、プレホスピタルケアの差によってもその結果が過大な影響を受けるため、一律なクリニカルパスに基づく評価が可能か否かが問題となる。また、各施設に存在するクリニカルガイドラインの多くは、それぞれの救急疾患に対する初期治療に限定されているものが多く、期待される結果を救急外来搬入時から、例えば何か一つの指標となる処置までの時間(Arrival-To-** Interval)をoutcomeとすれば、救急医療におけるクリニカルパスの作成が可能となると思われる。今後は各救急疾患のクリニカルインディケータの開発も必要であることが示唆された。また救急疾患のクリニカルパス作成の前に、EBMに基づいたクリニカルガイドラインやクリニカルアルゴリズムも、米国などのそれを基準として我が国独自のものを作成することも必要である。そのためには、各救急疾患の全国レベルでの登録によりデータベース化は必須であり、また各疾患の重症度を比較検討するためのクリニカルスコアも必要である。
外傷に関しては、特に米国のThe American College of SurgeonやThe American Association of Surgery for Traumaを中心として、クリニカルプラクティスガイドラインの必要性が問われている。その基本的コンセプトは、すべての外傷患者管理に対するオプションを含めた転帰(outcome)だけでなく、リスクやコスト面からの有用性、さらには倫理的、経済的、社会的、法的な考慮も含めたガイドラインの作成を目指している。そのために我が国でも、治療に関してはclass Iの臨床試験、臨床論文などによる外傷患者管理の標準化が望まれる。また心循環器系救急疾患に関しても、米国のガイドラインを中心に我が国独自のものを作成することが必要であり、それを基盤として、二次救急医療施設の質の向上、質の平均化が期待される。
結論
二次医療圏における救急医療体制の強化に必要不可欠なクリニカルパスの存在によって、二次医療施設を対象とした救急医療の質の評価を行うことが出来る。それは、単にその施設の構造や設備を評価するだけでなく、重症救急患者を救命するという患者の利益にも結びつき、二次医療圏単位でその質の向上が達成できれば、文字通り二次医療圏を一つの「救命センター」と捉えることが出来る。今後は、標準化されたクリニカルパス作成、クリニカルパスのpeer reviewのための指標の開発などが求められる。

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