病院前救護体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
200001128A
報告書区分
総括
研究課題名
病院前救護体制の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山村 秀夫((財)日本救急医療財団)
研究分担者(所属機関)
  • 小濱啓次(川崎医科大学)
  • 山中郁男(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
  • 杉山貢(横浜市立医学部附属浦舟病院)
  • 丸川征四郎(兵庫医科大学)
  • 美濃部嶢((財)日本救急医療財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院前救護体制を有効かつ有用に構築することを目的とし、各分担研究課題における個々の目的を以下の通りとした。1)病院前救護体制におけるMedical Directorの位置付けと適切なMedical Directorを養成し病院前救護体制を充実させることを目的とする。2)病院前救護体制において、救急現場での救護・トリアージ及び搬送途上での救急救命士を含めた救急隊員に対する指導・指示は必要不可欠の要素であり、Medical Control体制の構築・整備は急務である。さらに、地域の特性を加味し、より救急現場に即したMedical Control体制を構築することを目指した。3)医師により作成された「緊急通報トリアージ(Emergency Call Triage:ECT)のためのフローチャート」の精度、問題点について検討することを目的とした。4)年々増加する救急要請に対する医療資源の有効利用を可能とするMedical RegulationとTelemedicineを構築することを最終目標とし、本年度はその基礎資料の収集と分析を目的とした。5)救急医療の最前線を担う救急救命士の資質の向上を図る目的、並びに「病院前救護体制のあり方に関する検討会」の報告及び医療関係資格制度に係る規制緩和とを受けて、救急救命士の養成教科内容を検討した。さらに救急救命士を対象として救急現場における傷病者への対応の向上を図るため、所謂BTLS,外傷研修カリキュラムの検討を行った。
研究方法
1)病院前救護体制に詳しい有識者で委員会を組織し、Medical Directorのあるべき研修プログラムを検討する。2)各地域の特性を含めたMedical Control体制の実態を把握するため、福島市、鴨川市、出雲市の現地調査を行ない、さらに以前に調査した札幌市、広島市を再度現地調査し、体制構築状況の変化を調査した。併せて神奈川県及び横浜市の現状を分析した。3)地域・時期・時間を限定し、指令センターに出向した医師が指令管制員と通信医療班を構成した。心血管救急疾患を対象とし、119番通報者の「第一通報表現」が予め設定した表現にあてはまった場合に、フローチャートに従って交信し重症度と緊急度を判定した。同時に緊急医療班を現場派遣し、院外救急診療の後に全例当センターへ搬送し、通信医療班と緊急医療班の判断の相違からフローチャートの精度を評価した。4)Medical RegulationとTelemedicineの実態調査分析を下記の方法を通して行った。
①Medical RegulationとTelemedicineに関わる内外の資料収集と分析,②識者を招いた勉強会、講演会、意見交換,③研究協力者の海外視察(フランス、イギリス、スイス、ベルギー),④分担研究者と研究協力者による勉強会.5)救急救命士養成所カリキュラムの検討については、救急救命士国家試験委員会の島崎修次委員長を座長として委員9名によるカリキュラム検討委員会が組織され、「病院前救護体制のあり方に関する検討会」の報告書における救急救命士の業務内容及び位置づけを基盤とし、さらに医療関係資格制度の規制緩和によるカリキュラムの大綱化を受けて検討された。
救急救命士に対する救急現場での傷病者に対する外傷の処置を向上させる為に現在既に実施されているプレホスピタル外傷研究会の研修カリキュラムと米国のEMT-ParamedicのカリキュラムでのBTLSとについて検討し、我が国での病院前救護体制に配慮した前者を中心として検討し、カリキュラムの骨子の作成を図った。
結果と考察
1)Medical Directorは救急隊員の行う救急業務について医学的な指導、評価、検証、提言を行うと共に病院前救護体制に関係する行政、消防、医師会等の連携調査を行う。また医師の指導、教育も行う。このことを前提とした研修プログラムを作成した。わが国の病院前救護体制はまだ未熟な状態であり、Medical Controlを行うMedical Directorに適切な研修を行うことにより病院前救護体制の充実が行われるものと思われる。2)救急救命士に対する「特定行為の具体的指示」体制はOn Lineにおいては整備されていたが、他の要素である指令体制や搬送途上における助言等に関しての医師の係わり合いは満足できるものとは言い難かった。一方、Off Lineにおいては各医療施設毎の熱意により施行されているのが現状であり、地域全体の体制としてはあまりにも不備な状況であった。また、その体制を考えるべき組織の存在やその活動内容が明確でない地域も多かった。現在のMedical Controlの認識は、救急救命士に対する「特定行為の具体的指示」に大きく偏ったものであり、まずはこの考え方を改めることが重要である。さらに、その早期構築のためには基本的かつ具体的な指針を示すことが重要であると考えられる。以下にその指針を示す。①On LineにおけるEMD(Emergency Medical Dispatch)システム。②Off LineにおけるMedical Directorシステム。これらを基本とし社会的なバックアップ体制を整えることが急務であると考えられる。3)設定した第一通報表現を使用した通報者は期間中5人で、フローチャートに従った通信医療班の過大判断率は25%(1/4)、過小判断率は0%(0/3)であった。また交信に要した時間は平均4分であった。現時点では症例数が少ないため確固たる評価はできないが、フローチャートの使用により比較的短時間で質の高いECTが可能になることが示唆された。4)Medical Regulationは、便宜上、直接型(フランス型)と間接型(イギリス型)に分けることが出来る。直接型では高い臨床医学的レベルを維持できるが人的、経済的負担が大きい。これに比べて間接型は高い医療レベルは望めないが、一定のレベルを経済的に維持できる。Telemedicineは、直接型ではマニュアル化すると却って複雑になり利用困難と思われる。これに比べて間接型では最終目標を明確にする限り有用なマニュアルが作成可能と考えられる。ただし、IT革命はその豊富な情報伝達能力によって、従来のTelemedicineを根底から変革する可能性がある。我が国の将来像を描くと、基本骨格として医療施設充足地域では間接型を、医療施設過疎地域では直接型を骨格とすることが、人的、経済的負担を軽減し、救急医療の質の維持と言う目的に適した方策と思われる。次年度はこの結果をもとに具体的なシステム開発を試みる。しかしIT革命が始まったばかりの現時点では、その到達度が読めないが、音声にのみ依存したTelemedicineは根底から変革すべきと思われる。5)救急救命士養成所のカリキュラムについては、各分野ごとに教育分野と教育目標が設定された。外傷研修カリキュラムは、外傷現場学総論、現場における観察・処置、実際の手技、外傷各論などについて実際の救急現場ですぐに対応できるカリキュラムが作成された。現在実施されている救急救命士学校養成所教科内容と比較して、今回本研究班で検討、報告され、平成13年3月30日に文部科学省、厚生労働省の大臣名で一部を改正された救急救命士学校養成所指定規則の省令による教育内容は、規制緩和推進3か年計画における医療関係資格制度の規制緩和に則したものであり、教育内容の弾力化や他の医療関係の教育課程との単位が一部互換性が得られることとなろう。また大綱化されたカリキュラムにより、それぞれの学校・養成所での教育課程での独自性、独創
性が生ずる結果が期待される。外傷研修カリキュラムについては、従来より不可欠なカリキュラムであったにもかかわらず、対応がなされていなかったと考えられる。この外傷研修カリキュラムを有効に実施できる手段を早急に構築して行く必要があろう。
結論
1)Medical Directorは単に医学知識だけでなくMedical Controlの意味、消防組織、病院前救護体制に関連する法規をも理解して病院前救護体制の充実を図るべきである。このことから、研修プログラムもこれに準じたプログラムにすべきである。2)地域の特性を加味したMedical Control体制構築には救急医療に携わる医師の大きな意識改革と情熱が必要不可欠である。3)病院前救護において救急医療資源を有効に提供するためには、今回試行したシステムのもと今後さらに症例を重ねて、ECTの精度を高めていく必要がある。4)救急医療資源の有効利用には、全国一律のMedical Regulationの態勢を取り入れるのではなく、医療施設密度によって最適な体制を構築することが必要である。5)「病院前救護体制のあり方に関する検討会」の報告並びに医療関係資格制度に係る規制緩和を受けて、救急救命士養成所カリキュラム検討委員会により救急救命士養成の大綱化カリキュラム及びその教育目標がまとめられた。また救急救命士の現場での傷病者への対応を強化するため外傷研修カリキュラムの検討を行いその骨子を作成した。

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