緩和医療提供体制の拡充に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001126A
報告書区分
総括
研究課題名
緩和医療提供体制の拡充に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
恒藤 暁(淀川キリスト教病院)
研究分担者(所属機関)
  • 志真泰夫(国立がんセンター東病院)
  • 森田達也(聖隷三方原病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、がんの死亡総数と死亡率は増加の一途をたどっており、緩和医療の拡充が急務となっている。健康保険による「緩和ケア病棟入院料」の定額制度が1990年4月に導入され、ホスピス・緩和ケア病棟(専門施設)の数は次第に増加している。しかし、現在、がんで死亡する患者の数パーセントがホスピス・緩和ケア病棟を利用しているにすぎない。本研究では、1) ホスピス・緩和ケア病棟の推移、2) ホスピス・緩和ケア病棟の設備と体制、3) ホスピス・緩和ケア病棟における遺族満足度について検討し、今後、緩和医療を全国規模でいかに提供したらよいかを提言することを目的とする。
研究方法
ホスピス・緩和ケア病棟の推移に関しては、1990年以降のホスピス・緩和ケア病棟を対象として調査した。なお、これらのデータは、「全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会」の協力のもとに収集し解析した。ホスピス・緩和ケア病棟の設備と体制に関しては、ホスピス・緩和ケア病棟79施設 (2000年7月末) を対象とし、設備と体制に関するアンケートを実施した。アンケートは79施設中78施設 (回収率99%) から返送され、これらを検討した。ホスピス・緩和ケア病棟における遺族満足度に関しては、ホスピス・緩和ケア病棟50施設 (1998年12月末) において、死亡した患者の遺族を対象として遺族満足度のアンケートを実施した。アンケートは全部で51の設問から構成され、各設問に対して6段階の5点満点で評価してもらった。遺族1,344人にアンケート用紙を郵送し、854件が回収された (回収率64.0%)。このうち4件は不適切に回答されており、これらを除外した850件を解析対象とした。遺族満足度調査では、各施設の施設長あるいは倫理審査委員会に諮った。そして、研究者が研究の目的や方法等を十分説明し、理解と同意を得られた場合に限定した。研究の参加が自由意思により決定できるよう、強制したり不当な影響を与えたりしないように配慮した。また、参加後も対象者が自由に参加の撤回ができるようにした。個人的な情報が外部に洩れることのないようにし、プライバシーが侵害されないようにした。
結果と考察
ホスピス・緩和ケア病棟の施設数 (病床数) は、1990年5施設 (117病床)、1991年6施設 (130病床)、1992年8施設 (170病床)、1993年12施設 (250病床)、1994年18施設 (372病床)、1995年23施設 (428病床)、1996年31施設 (547病床)、1997年37施設 (654病床)、1998年53施設 (974病床)、1999年70施設 (1,294病床)、2000年83施設 (1,537病床) と増加していた。ホスピス・緩和ケア病棟の稼働病床数は、81施設中44施設(54%)が20病床以上であった。中央値20床、最小4床、最大36床であった。年間の全施設における平均入院患者数は約100人/施設、平均死亡患者数は約75人/施設であった。平均病床利用率は約74%、平均在院日数は約47日、年間の病床あたりの入院患者数は約6人であった。1999年度の各施設の平均病床利用率は、入院患者数および死亡患者数と正の相関関係が認められた。各施設の平均在院日数は、入院患者数および死亡患者数と負の相関関係が認められた。
ホスピス・緩和ケア病棟の地方区分別の施設数 (病床数) は、北海道地方:3施設 (70床)、東北地方:5施設 (79床)、関東地方:23施設 (468床)、中部地方:12施設 (215床)、近畿地方:11施設 (208床)、中国地方:8施設 (159床)、四国地方:4施設 (53床)、九州地方:13施設 (215床) であった。建築状況は、「新築」が53%、「既存の病棟を増築・改修して使用している」が41%、「既存の病棟をほとんどそのまま使用している」が3%であった。ホスピス・緩和ケア病棟 (78施設) の設置形態は、「院内病棟型」が77%、「院内独立型」が18%、「独立型」が5%であった。設置場所としては、最上階が46%、中間階が31%、接地階が19%であった。病室構成は、全個室の施設が42%であった。家族室の利用について、制限を設けていない施設は85%であった。一方、宿泊日数の上限や、危篤患者を優先する等の条件を定めている施設は15%であった。
1施設あたりの平均常勤医師数は1.5人であり、平均常勤看護婦数は15.6人であった。事務系職員を常勤で配置している施設は31%であった。ソーシャルワーカーの配置状況は、専任が24%、兼任が59%であった。宗教家は、専任が12%、兼任が23%であった。カウンセラーは、専任が6%、兼任が22%であった。ボランティアは49%で配置されていた。看護婦の勤務体制は、「2交代」が49%、「3交代」が47%であった。看護方式は、「プライマリーナーシング方式」が55%、「プライマリーナーシング方式」と「チームナーシング」が13%、「受け持ち制看護」が9%であった。ホスピス・緩和ケア外来は、92%の施設で実施されていた。ホスピス・緩和ケア外来の診療回数は、「週に2回」が最も多く36%であった。1日の外来患者数は、「5人以下」が56%、「6~10人」が17%、「11人以上」が5%であった。在宅ケアとの連携は、「院内に在宅ケアを行う部署があり、そのスタッフが在宅に出向きケアを行っている」と回答した施設は32%であった。全体では78%の施設が、何らかの方法で在宅ケアとの連携をとっていた。
ホスピス・緩和ケア病棟における遺族満足度では、解析対象となった患者は、男性 448 人、女性 400人、不明2人、計850人であった。死亡時の平均年齢は67.3歳であり、ホスピス・緩和ケア病棟への入院期間は、1週間未満12.9%、1週間以上~1カ月未満37.3%、1カ月以上~3カ月未満37.1%、3カ月以上12.7%であった。解析対象となった遺族は、男性 274 人 、女性 574 人 、不明2人、計850人であった。調査時の平均年齢は55.4歳であり、49.1%の遺族が就業していた。患者との関係は、配偶者50.4%、子ども25.6%、親11.5%、兄弟姉妹5.9%、その他6.6%であった。調査時における患者の死亡からの経過期間は平均5.39月であった。「全体をとおしての満足度はいかがでしたか」に対する回答は、「とても満足」45.8%、「満足」41.6%、「やや満足」6.9%、「やや不満足」1.5%、「不満足」1.1%、「とても不満足」0.7%、無回答2.4%であった。50の設問の中で、「わからない」の回答の多かった3設問を除外し、47の設問について因子分析による解析を行った。その結果、7因子が抽出され、それらを「スタッフの対応」、「設備」、「情報提供」、「入院のしやすさ」、「家族ケア」、「費用」、「症状緩和」と命名した。そして、遺族満足度は、これら7因子に対する満足度の総和として解釈できることが判明した。最終的に34の設問から構成される遺族満足度の評価尺度が作成された。これは尺度としての信頼性(内的一貫性)、基準関連妥当性、因子妥当性は良好であった。
ホスピス・緩和ケア病棟 (37施設) の施設調査の結果を基に、遺族満足度に寄与する因子について検討した。「スタッフの対応」の満足度は、看護婦の勤務体制が3交替に比較して2交替の場合、夜勤看護婦数が3人以上の場合、ソーシャルワーカーが存在する場合に高かった。「設備」の満足度は、患者の年齢が70歳以上の場合、遺族が女性の場合、病棟床面積が患者あたり50平方メートル以上の場合に高かった。「入院しやすさ」の満足度は、入院期間が1週未満に比較して1カ月以上の場合、ソーシャルワーカーが存在する場合に高かった。「家族ケア」の満足度は、患者の年齢が70歳以上の場合、遺族が女性の場合、遺族の年齢が70歳以上の場合、遺族が就業していない場合に高かった。「費用」の満足度は、患者の年齢が70歳以上の場合、遺族の年齢が70歳以上の場合、個室料金に7,500円/日以下の場合に高かった。「症状緩和」の満足度は、患者の年齢が70歳以上の場合、医師のホスピス・緩和ケアの経験年数が3年以上の場合、常勤医師が複数いる場合、医師あたりの病床数が10以下の場合に高かった。
結論
本研究結果より、1) ホスピス・緩和ケア病棟の施設数および病床数を増加させること、2) ホスピス・緩和ケア病棟の病室構成や病棟管理等の設備を改善させること、3) 複数の常勤医師の配置、看護婦の人数や勤務体制の改善、ソーシャルワーカーの配置等の体制を充実させること、4) 症状緩和や患者・家族への対応を含めたスタッフの教育・研修の機会を増やすこと、5) ホスピス・緩和ケア外来、在宅ケアやデイケアを含めた包括的な緩和医療体制を充実させることが、緩和医療提供体制の拡充につながると考えられる。

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