ネットワーク型医療の評価と推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001122A
報告書区分
総括
研究課題名
ネットワーク型医療の評価と推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小野 昭雄(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場園明(九州大学健康科学センタ-)
  • 高本和彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 西村秋生(国立医療・病院管理研究所)
  • 岩本晋(山口県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,771,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国においては、地域ごとに適切な医療を受けることが可能な医療供給体制の確立が急務である。予防、診断・治療、リハビリテーションという医療の全過程が同一施設等で完結することは困難となっており、医療機関の機能分化と円滑な連携に関しては、計画化のみならず実現に向けた社会環境の整備等が課題となっている。また、地域差の認められる医療機器や医療専門職種等の医療資源の地域社会全体での効率的な活用、医療機関受診における患者負担の軽減とより高質な医療サービスの提供等に寄与できる医療システムをどのように構築していくかが医療政策検討上の焦点となっている。
このような観点から、複数の医療機関が、同一の医療情報環境を効果的かつ効率的に共有する基盤を構築しながら、時間や距離の制約を軽減化して、適時適切に患者にサービスの提供を行うネットワーク型医療システムについて、包括的な評価と今後の推進方策等に関する研究を実施した。特に、理想的条件下における情報通信機器の適用実験等の技術的視点にとどまらず、実際の医療提供環境下でのサービスの有効性と効率性の実証的評価を行なう研究、さらには、法的・倫理的な課題整理、システムの信頼性確保、運営組織の構築と経営方法、財務的問題等の医療・病院管理上の現実的な実務的課題にも焦点をあてて検討する研究を行いたいと考えた。
研究方法
最初に、ネットワーク型医療システムの評価枠組みの設定と評価結果の現状等を把握するため、分担研究者の馬場園を中心とし、系統的な評価作業を行った。検討方法は、ネットワーク型医療の展開事例に関する国際的な学術文献情報の収集(1990~1999年) とその批判的吟味である。評価はシステムの有効性と効率性に焦点をあてて評価手法等を整理するとともに、前者は、科学的根拠のレベルに関する分類、後者は、経済的評価文献の評価指針を基準として吟味検討を行った。評価結果の総括には、医療専門領域別、連携医療機関別(病病連携、病診連携等)および救急医療と一般医療の区分を使用した。
臨床応用例を対象とした研究は、国内のネットワーク型医療の先進的な展開事例について、視察調査を実施しシステムの概要と運用の実態の把握を行なった後、一事例に対しては、分担研究者の高本が関係機関の協力を得て、システムの有効性等に関する評価を疫学的手法等を用い実施した。評価の対象は、中核病院である脳神経科専門病院と25連携病院(一次病院)から構成された脳神経科診療ネットワークであり、コンサルテーションを依頼する一次病院と24時間対応を行う中核病院間で運用されている「オンラインCT画像伝送システム」が、医療サービスの過程(process)と結果(outocome)に及ぼす影響等についての評価を行った。研究方法としては、平成10~11年の2年間における遠隔画像コンサルテーション例を対象とした病院間の患者管理に関する観察研究、1986年10月~1991年4月の期間で画像伝送システムが導入された前後15ヵ月間における頭部外傷搬送患者を対象とした患者予後に関する後ろ向きコホート研究等を採用した。
地方自治体レベルで保健・医療・福祉連携ネットワークを構築するための基盤となる、医療機関相互の連携状況およびその推進方策に関する認識等に関する調査研究は、分担研究者の岩本、西村により、質問紙法等により実施した。
結果と考察
国際的な学術文献のメタ分析結果は、ネットワーク型医療システムの評価手法の枠組み・方法論と根拠レベル等について、医療機能と連携医療機関種類別の区分に留意してレビューを行い要約を行った。有効性の評価は、主として、診療過程の変化、患者の健康結果(平均在院日数・生存率)、専門家の満足度、患者満足度等に着目して実施されていたが、何らかの有効性が示唆された画像伝送、脳神経科診療、遠隔精神診療、心臓超音波画像伝送、皮膚科診療に関する研究を除き、評価時点ではその他の適用は有効性に関する根拠に乏しいと判断された。特に、患者の健康結果に関する研究報告は非常に限定的であった。効率性の評価は、画像伝送例等における費用抑制を示唆する研究結果が認められるものの、費用効果分析等の包括的な経済的評価は限定的で、経済的分析のほとんどが費用分析に止まるものであり、その大半が直接費用のみの計測により行われていた。
また、臨床応用事例である脳神経科領域におけるオンラインCT画像伝送システムの評価結果からは、患者負担の軽減、患者搬送マネジメントを中心とした病院間の患者管理の質の向上、中核病院における診療過程の効率化、システムによる患者健康結果の改善等が示唆された。 
さらに、地方自治体レベルの保健・医療・福祉ネットワークシステムの本格的導入が検討されている地域等における調査研究から、医療機関相互の連携の進展ないしは定着度、連携を促進する手段としての情報システムの重要性の認識度等についての実状に関する詳細な調査結果が得られた。
ネットワーク型医療は、その動向に大きな関心が寄せられており、今後、当該システムによる患者へのサービス提供の適時性、適切性等の評価の需要がさらに高まることが予想される。国際的な学術文献のメタ分析による先進的事例等の系統的な検討においては、評価枠組みや方法論の設定を試みるとともに、システムの有効性及び効率性のレビューを行い、科学的根拠のレベルにも着目して要約を行っており、当該システムの体系的な医療技術評価のモデルとして活用することが可能と考えられる。また、臨床応用例の評価研究では、CT画像伝送による脳神経科診療ネットワークについて、実際の救急医療等が実施される環境の下での患者負担の軽減、ネッワーク施設間の患者管理の質の向上や患者の健康結果への影響に関する実証的評価を試み、一部でその有効性を示唆する結果を得ており、ネットワーク型医療の導入への根拠となる情報基盤として提供され参酌される研究成果と考えられる。
今後は、さらに、包括的な経済的評価、法的・倫理的な課題等の整理、システムの信頼性確保、運営組織の構築と経営方法、財務的問題等の医療・病院管理上の現実的な実務的課題にも焦点をあてて検討する研究を引き続き行うことで、ネットワーク型医療の推進上の隘路が明確化されること等により、情報化社会における新しい医療の供給システムのあり方の検討に資する他、医療機器や医療専門職種等の医療資源の地域社会全体での効果的かつ効率的な利用、医療機関の機能分化と円滑な連携を実現する社会環境整備等、地域医療政策の検討のための課題の抽出にも寄与することが期待できる。
結論
ネットワーク型医療システムに関する包括的な評価を試み、システムの評価方法論と有効性・効率性の根拠に関する系統的な研究結果、実際の医療応用先進事例における患者負担の軽減、病院間の患者管理の質の向上、システムによる患者健康結果の改善を示唆する結果を得るとともに、地域医療機関相互の連携状況や関係者の推進方策への認識等について明らかにすることができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-