歯周疾患の予防、治療技術の評価に関する研究

文献情報

文献番号
200001116A
報告書区分
総括
研究課題名
歯周疾患の予防、治療技術の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鴨井 久一(日本歯科大学歯学部歯周病学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 桐村和子(日本歯科大学歯学部)
  • 米満正美(岩手医科大学歯学部)
  • 鴨井久一(日本歯科大学歯学部)
  • 石井拓男(東京歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歯科保健医療のなかで、歯周組織の保全・維持は8020運動と連動として歯の長期維持管理を目標に設定したものである。その目的達成のためには、歯肉炎、歯周炎の予防・治療技術の開発が重要である。本研究は、歯および歯周組織の長期維持管理を達成するために、口腔内唾液に注目し、唾液および血液中の酵素活性、臨床パラメーター、歯周病原性細菌の検査、さらにアンケート調査などを行い、有用な検査項目を評価する事にある。本研究の目的をつぎの4項目に設定し、各領域での評価と総合的評価から有用性を決定する。①歯科各領域での臨床検査値の基準値の設定の研究では、全身疾患および歯周疾患に罹患していない健常群、軽度歯周疾患群(軽度群)および重度歯周疾患群(重度群)の唾液について生化学検査を実施し、各項目ごとの基準値の設定を試みている。さらに、5歳児、中学生および高校生の唾液についても同様の検査を実施し、年齢間での検討を行っている。②軽度歯周疾患の予防・治療技術の研究では、歯肉炎を有する青年を対象として、その治療を行い、治療前後における唾液成分、血液成分の変動を分析する。また同時に生活習慣に関するアンケート調査を行い、歯肉炎との関連因子を分析し、歯肉炎と関連する体液成分などと生活習慣上における歯肉炎のリスク因子などを究明している。③歯周疾患の予防、治療技術の評価に関する研究では、歯周疾患の早期発見、早期治療、さらに歯周疾患の継続管理を効率的に行う必要性から、口腔内動態の推移を観察する手段として唾液検査を歯周疾患の各ステップで応用し、評価する事にある。④歯周疾患の経済的評価に関する研究では、国民健康保険・歯科医療費データを用いた分析を行っている。社会保険の医療診療における行為別調査によると、1980年以降の15年間で歯周治療関係の診療回数・点数が大幅に増加しているが、歯周治療以外の診療行為では回数・点数ともに減少している。これは、歯周治療と公衆衛生による国民の意識と行動の変化が影響し、歯周疾患対策が歯科医療費に影響していると考えられている。このような背景のもとに市町村における年齢階級別の国民健康保険の歯科医療費資料より、市町村における歯周疾患予防事業の実施状態と歯科医療費との関連を解析し分析している。
研究方法
①歯科各領域での臨床検査値の基準値設定研究では、全身疾患および歯周疾患を有していない健常群(126名)、軽度群(88名)、重度群(36名)および中・高校生(101名、106名)、5歳児(154名)らを対象に唾液を採取し、唾液中の総タンパク(TP)、GOT、GPT、LDH、LDHアイソザイム、ALP、UA、UN、クレアチニン、遊離ヘモグロビン、そしてNAGを測定し、数値間の変動を検討したものである。更に口腔内検査を行い、プラーク付着程度(PlI)、歯肉炎症程度(GI)、歯周ポケットの深さ(PD)および出血(BOP)を調査し、分析している。②歯肉炎を有する学生24名(平均23.4±3.2歳)を対象に、①と同様に唾液と血液を採取し、治療前後の成分変動を臨床パラメーターと共に調査している。生活習慣上のリスク因子、さらに歯周病原性細菌(A.a,B.f,P.i,P.g)をPCR法で評価し、究明している。③成人性歯周炎を有する外来患者37名を被験者とし、十分なインフォームド・コンセントを得た後、②と同様に唾液・血液を採取し、初診時、歯周基本治療後、歯周外科処置後の各ステップでの成分の変動を各臨床パラメーターと共に調査している。さらに生活習慣アンケート調査を行い、歯周病原性細菌(P.g, P.i, A.a, B.f, T.d)をPCR法で評価し、歯周炎の病態像と関連づけ
ている。また炎症性サイトカインであるIL-1α、IL-1β、ILRA の遺伝子多型(一塩基多型)を検査し、血液および唾液中のものと関連づけて調査している。④市町村における歯周疾患予防事業の実施状況と歯科医療費との関連を年齢階級別の歯科医療費と三要素から分析し、調査している。三要素とは、受診率、1件あたりの日数、1日あたり歯科医療費を指す。
結果と考察
①歯科各領域での臨床検査値の結果 a. 成人について 定期企業健診を受診した244名について、成人唾液の生化学的検査ではLDH(乳酸脱水素酵素)活性が健常群に比べ、歯周疾患群すなわち、歯周ポケット4mm以上の部位が全測定部位の10%未満の者、軽度群、10%以上のすなわち、重度群でともに有意に高値を示し、歯周疾患マーカーとしての有用性を示した。b. 5歳児、中学生および高校生の年齢層においては、成人健常群の唾液における生化学データの数値とほぼ同等か低値を示した。
②歯肉炎を有する学生群では、臨床パラメーター、PlI、GIは治療前・後で有意に減少がみられた。唾液の生化学的検査では、クレアチニン、尿酸、NAGに治療前後で有意な差が認められた。唾液からの歯周病原性細菌の検出率は、A.aとB.fが治療前後で同じレベルであった。P.iとP.gの検出率は治療前後で明らかな差は認められなかった。③成人性歯周炎の患者37名において、初診時に歯周ポケットが4mm以上の部位が多い患者では、LDH、ALP(アルカリホスファターゼ)の活性が高い傾向にあり、とくにLDHにおいては、その傾向が顕著にみられた。またPCR法による歯周病原性細菌は、被験者全員に検出された。遺伝子多型はホモ型が多く、ヘテロ型が数例みられた。④歯科医療費と三要素の年齢階級別にみた全体値は、加齢と共に高くなり、65~69歳(老人)をピークに年齢と共に減少する。この傾向は、三要素中では受診率のパターンと最も類似しており、1件あたり日数と1日あたり歯科医療費は、若年層が低い以外、顕著な傾向は認められなかった。1人あたり歯科医療費では、都道府県の格差が1.7であり、三要素(受診率、1件あたり日数、1日あたり歯科医療費)では、各々1.8、1.4、1.4であった。個々の指標について都道府県の順位をみると、1人あたり歯科医療費の高い都道府県は、受診率が比較的高い傾向がみられたが、1件あたり日数と1日あたりの歯科医療費については、その傾向が顕著でなかった。
結論
従来、等閑視されていた唾液の生化学的検査は、検体の採取法が容易であり、無痛下で採取可能であり、生体への侵襲は皆無などの利点を有している。本研究は、唾液の生化学的検査を中心に、健常者群、幼児・子供群、学生群、成人群などから、歯肉炎、歯周炎罹患群の病態像を解析した。その結果、歯周炎罹患群ではLDHおよびALPにおいて、顕著な上昇がみられた事、PCR法により歯周病原性細菌の定性的測定が可能になった事、遺伝子多型では一部ヘテロ型を示した事など、歯周疾患患者の長期維持管理の指標として有効な方法が検討されている。さらに医療経済的にも、全国市町村の年齢階級別に国民健康保険の歯科医療費データを用いて、歯科医療費の分析をしている。これらは口腔保健、とくに歯周疾患の予防、治療技術の評価に重要な示唆を与えるものと思われる。

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