E-PASS scoring systemを用いた外科治療水準の評価と外科入院治療費の予測(総括研究報告書) 

文献情報

文献番号
200001113A
報告書区分
総括
研究課題名
E-PASS scoring systemを用いた外科治療水準の評価と外科入院治療費の予測(総括研究報告書) 
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
芳賀 克夫(国立熊本病院)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内仁司(国立岩国病院)
  • 木村 修(国立米子病院)
  • 和田康雄(国立姫路病院)
  • 古谷卓三(国立山口病院)
  • 鮫島浩文(国立都城病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者の生理機能を超える過大手術侵襲が加わると、呼吸器系、循環系、代謝系など生体調節機構の恒常性が維持されず、さまざまな術後合併症が発生してくる。我々は過去の外科手術症例を多変量解析し、手術後のリスクを予測するscoring systemを開発した(E-PASS scoring system)。E-PASSは患者の生理機能を表す術前リスクスコア(PRS)、行った手術の大きさを表す手術侵襲スコア(SSS)および両者から規定される総合リスクスコア(CRS)から成る。その後の検討で、CRSが増加すると術後合併症の発生率および在院死亡率が上昇することが判明した。さらに、CRSは術後合併症の重症度や入院治療費と有意な正の相関を示すことが明らかにされた。また、病院別にCRSで標準化した死亡率MIを求めると、手術症例数が多い病院ほどMIが低いことが判明した。これらの事実は、E-PASSが手術リスクの予測だけでなく、外科治療水準の評価や入院治療費の予測にも有用であることを示唆している。今回我々の研究目的は、E-PASSのもつこれらの有用性をprospectiveに多施設で検証することにある。
研究方法
当研究班に所属している6施設で行った予定消化器外科手術症例929例について、E-PASSの総合リスクスコア(CRS)、術後経過、入院治療費、術後在院日数をprospectiveに調査した。術後合併症の重症度は我々が提唱した分類に基づき、5段階に分類した(0: 合併症なし、1: 生命に危険を与えない軽症の合併症、2: 適切な治療を行わなければ、生命に危険を及ぼす合併症、3: 重篤な臓器不全症、4: 在院死例)。 CRSと術後合併症の重症度、術後在院日数、入院治療費との相関関係を、Spearmanの順位相関係数で求め、有意差を分散分析法で検定した。過去の研究成果から得られた予測治療費(PME)は以下の式で各症例ごとに求めた。PRE = 126 + 167 × (CRS)。病院別に実入院治療費の総額と予測治療費の総額の比(OE ratio)を求めた。また、病院間の治療技術水準を示す指標として、Moratality Index (MI)とComplication Index (CI)をCRS>0.5となった症例で以下の如く求めた。MI = Σ(CRS×M)×100/Σ(CRS) (Mは術後合併症による在院死亡のとき1、そうでないとき0)、CI = Σ(CRS×S)×100/Σ(CRS) (Sは術後合併症の重症度)。
結果と考察
全症例で検討すると、CRSが増加するに従い、術後合併症の発生率はほぼ直線的に増加した。在院死亡率は、CRS<0.3で0.15%、0.3≦CRS<0.5で2.3%、0.5≦CRS<1.0で9.5%、CRS≧1.0で29.2%であった。CRSは術後合併症の重症度と有意な正の相関を示した (Rs=0.537, P<0.0001)。CRSは術後在院日数 (Rs=0.664, P<0.0001) および入院治療費(Rs=0.721, P<0.0001)と有意な正の相関を示した。 また、入院治療費は予測入院治療費と有意な正の相関を示した Rs=0.721, P<0.0001) 。CRS別に実入院治療費の総額と予測入院治療費の総額の比をみると、CRS<0.1で0.977、0.1≦CRS<0.3で0.816、0.3≦CRS<0.5で0.942、0.5≦CRS<1.0で0.934、CRS≧1.0で1.17であった。予測治療費の2倍以上の入院治療費を要した症例は、全体の1.8%に過ぎなかった。病院別に実入院治療費の総額と予測入院治療費の総額の比(OE ratio)を検討したが、0.706から1.12までばらつきがみられた。これらの病院の中で、クリニカルパスを汎用し、急性期特定病院に指定されたF病院では、OE ratioは0.706と最も低値を示した。次に、外科治療水準の指標として、CRSで標準化された死亡率Mortality Index (MI)と、CRSで標準化された術後合併症の重症度Complication Index (CI)を病院間で比較した。各病
院でのMIとCIは連動する傾向を示した。6施設全体のMIを調べると15.5%で、前年度の18.0%より低下していた。E-PASS scoring systemは患者の生理機能と施行する手術の侵襲の大きさから、術後合併症や在院死亡が発生する確率を予測しようとする試みである。今回得られたCRSと術後合併症発生率および在院死亡率との関係は、前年度の結果と全く同等であった。また、近年他の施設からも同様の結果を示す報告が相次いでなされている。従って、CRSが増加すれば術後合併症が多くなるという現象は、普遍的な事実と考えられる。逆にいえば、E-PASSを用いて患者の生理機能に応じた無理のない手術法を選択していけば、術後合併症を減少させることも可能である。E-PASSは特別な検査を要せず、如何なる施設にも適用できることから、E-PASSを普及させ、各施設の術後合併症の発生が減少していけば、我が国全体の医療費が自然と抑制されていくであろう。今回CRSが入院治療費とよく相関することが改めて証明された。CRSが増えれば、術後合併症の発生も多くなリ、その結果として、在院日数および入院治療費が増加するのは当然ともいえる。CRSからの入院治療費の予測式は、CRSの低いlow-riskな症例からCRSが高くなったhigh-riskな症例まで、幅広く信頼性が高いことが示唆された。医療費の抑制策として急性期疾患への診断群別包括支払い方式 (DRG/PPS) の導入が我が国でも検討されているが、E-PASSはこれらの初期対象外となるべきhigh-risk 患者の設定基準として利用できる可能性がある。また、high-risk 患者でCRSに応じた支払い額を設定をすれば、各施設に及ぼす経済的損失も軽減できることが考えられる。また、各病院の実入院治療費の総額と予測入院治療費の総額との比を比較することにより、財務的な技術水準の比較が可能となる。今回の結果からは、クリニカルパスを汎用している急性期特定病院が財務的に優れていることが示唆された。我々は昨年同じ研究班組織のデータで、手術症例数が多い病院ほどCRSで標準化した死亡率MIが低い傾向があることを見出した。今回はその傾向はみられなかった。これは各病院に医療技術評価を行うことを予め通知していたため、小規模病院で特に術後合併症が少なくなるよう努力されたたためと考えられる。手術症例数が最も少なかったA病院では、術前にE-PASSを用いて術後合併症の発生抑制に努めた結果、MIは前年度の44.2%から今年度は0%に減少した。E病院など前年度よりMIが増加した病院もあったが、全体としてみるとMIは15.5%で、前年度の18.0%より低下していた。これらのことは医療技術評価を行うことにより、競争原理が働き、結果として技術水準が向上する可能性を示唆している。
結論
E-PASS scoring systemは外科入院治療費の予測、外科治療水準の評価に有用である。これらを行政の施策に取り入れることにより、DRG/PPSの導入促進、病院機能の分担化に寄与できる。

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