急性心筋梗塞及びその他の虚血性心疾患の診療情報の整理に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001110A
報告書区分
総括
研究課題名
急性心筋梗塞及びその他の虚血性心疾患の診療情報の整理に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
上松瀬 勝男(日本大学医学部内科学講座内科2:駿河台日大病院循環器科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川欽司(近畿大学第一内科)
  • 児玉和久(大阪警察病院)
  • 小柳 仁(東京女子医大循環器外科)
  • 住吉徹哉(榊原記念病院)
  • 竹下 彰(九州大学循環器内科)
  • 延吉正清(小倉記念病院)
  • 平盛勝彦(岩手医科大学第二内科)
  • 藤原久義(岐阜大学第二内科)
  • 古瀬 彰(JR東京総合病院)
  • 山口 徹(東邦大学第三内科)
  • 山口 洋(順天堂大学循環器内科)
  • 山崎 力(東京大学大学院医学系研究科薬剤疫学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心筋梗塞急性期治療の最大の目的は死亡率の改善とQOLの維持にある。その為には可能な限り責任冠動脈の血行を再建し血流を再開することで残存心筋を救済し、心機能を保持することでその後突然死も含めた心事故の抑制を考えていかなければならない。
本研究の最終目的は、年々増加する虚血性心疾患、特に心筋梗塞の診断・治療の質の向上と万人に公平な医療の提供を考える上で、必要不可欠なガイドラインの作成にある。ガイドラインの利用者としては開業医を含めたクリニックおよび一般診療所の医師であるが、心筋梗塞と云う疾患の特殊性(血行再建のため必須となる治療設備など)を考えると多少なりともある程度の規模の病院が対象となってくる。しかし最近では、初診医が入院前の適応症例に対しては静脈内投与による血栓溶解療法を開始してから、患者をCCUへ搬送する方式をルーチン化している地域もあることから、今後さらにガイドラインの必要性が増すものと思われる。今回は欧米の既存するガイドラインを参考に我が国の地域性や医療システムを加味し、評価されたEBMを基に我が国独自の診断・治療の指針を作成した。
研究方法
日本人のための日本人による文献に注目したが、EBMの評価の段階で日本人のエビデンスが非常に少ないことが再度確認された。そこで、例えばAHCPRの基準では評価が低くとも日本人にとって必要であると判断した文献は積極的に取り入れ作成した。文献検索の手段としては、急性心筋梗塞症の診断・治療に関する過去10年間の欧米の無作為比較試験を中心にJMEDICINE,MEDLINE,日本医学中央雑誌の各医学文献検索ガイドにより検索した。検索された全3742件のうち,以下の文献評価により今回の目的に役立つと考えられた386件を採用した。文献評価法としては AHCPR:Agency for Health Care Policy and Researchの基準を用いて評価した(日本人の文献は対象外)なお、本研究班は日本循環器学会、日本冠疾患学会、日本心臓病学会、日本冠インターベンション学会、日本心臓血管外科学会、日本胸部外科学会の各学会代表者により構成された。
結果と考察
結果=エビデンス集を作成。以下にその目次と定義を示す。
証拠の水準と科学的証拠の種類
Ⅰa:無作為化比較試験のメタアナリシスによる
Ⅰb:少なくとも一つの無作為化試験による
Ⅱa:少なくとも一つの良くデザインされた非無作為化試験による
Ⅱb:少なくとも一つの他のタイプの準実験的研究による
Ⅲ :比較研究、相関研究、症例比較研究など良くデザインされた非実験的記述的研 究 による
Ⅳ :専門家委員会の報告や意見、あるいは権威者の臨床経験
上記の評価法を参考に3‐4項目ごとに分けたsmall groupにおいてdouble checkを行い各々の指針を作成した。
また、現在循環器領域においてはいくつかのガイドライン作成が試みられ、進行中でもあることより、混乱を避ける意味で他の研究班との統一性を考えあわせて指針のクラス分けの定義を作成した。
急性心筋梗塞の診療エビデンス集 ?EBMより作成したガイドライン?
急性心筋梗塞の診断・治療の指針
目次
1. 発症早期の心筋梗塞診断  p 5 - p 9
2. 入院までの初期治療 p 9 - p 14
3. 冠動脈造影 p 14 - p 18
4. 血栓溶解療法 p 18 - p 20
5. Primary PTCA/STENT p 21 - p 22
6. 緊急の外科的処置(CABG)  p 22 - p 24
7. 抗不整脈、不整脈対策 p 24 - p 29
8. 急性期の薬物療法 p 30 - p 46
9. IABP,PCPS   p 46 - p 50
本研究班での診断・治療指針のクラス分けの定義
クラスⅠ :手技・治療が有益・有効・有用であることに関して複数の施設無作為 介入臨床試験で証明されている。
クラスⅡ :手技・治療が有益・有効・有用であることに関して一部にデーター・見解が一致していない場合があるものが多い。
クラスⅡa :多施設無作為介入臨床試験の結果が有益・有効・有用を示すもの。
クラスⅡa' :無作為介入臨床試験の結果はないが、複数の研究の結果、手技・治療が有益・有効・有用であることが十分に想定できたるもの。
クラスⅡb :多施設無作為介入臨床試験の結果が必ずしも有益・有効・有用を示すと確証できないもの。
クラスⅢ :手技・治療が有益・有効・有用でなく、ときに有害となる可能性が証明されているか、あるいは有害との見解が広く一致している。
結論
以上の手順で作成された指針を今回直接作成研究に携わらなかった外部の循環器専門医に査読を依頼し、日本の指針としての適正評価をうけさらに修正を加え本年度の最終報告とした。しかし、急性心筋梗塞の診断・治療は日々急速な進歩を遂げていることから、今後も一定期間の観察期を設定し、常に修正・改訂していくことが重要である。また、本邦独自の日本人を対象としたevidenceが極めて少ないことから、今後は我が国においても多施設大規模介入試験が必要であることが改めて示された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)