今後の歯科衛生士に対する養成方策に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001109A
報告書区分
総括
研究課題名
今後の歯科衛生士に対する養成方策に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
可児 徳子(朝日大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 矢尾和彦(大阪歯科大学歯科衛生士専門学校)
  • 松井恭平(千葉県立衛生短期大学)
  • 真木吉信(東京歯科大学)
  • 嶋野浪江(湘南短期大学)
  • 合場千佳子(日本歯科大学附属歯科専門学校)
  • 松田裕子(鶴見大学短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「歯科衛生士の資質の向上に関する検討会」同作業委員会が示した大綱化された新カリキュラムにより、歯科衛生士養成施設においてどのような教授要綱を組むことができるのかを検討することを目的とした。平成11年度は新カリキュラムの内容を分析し、教育項目案を示した。特に、現行の主要三科目では単位数がほぼ2倍になることから、新たに加わる項目を含め、詳細な教育内容を提示した。今年度は臨床・臨地実習の教育内容の見直しとカリキュラム作り、さらに、歯科衛生士養成にかかわる教員の研修の方法について検討することを主目的とした。また、専門基礎分野・専門分野では平成11年度のカリキュラム第1案,第2案に続く第3案の作成と歯科衛生士独自の学問分野の確立を試みることとした。
研究方法
「歯科衛生士養成施設における新たなカリキュラム」は、基礎分野10単位以上、専門基礎分野22単位以上、専門分野54単位以上の3区分に分類され、選択必修分野7単位以上が新たに設けられて、総履修単位数は93単位以上に設定されており、修業年限は3年以上が適切とされている。この新カリキュラムは具体的な科目名を示さず,従来の教育内容を尊重しながら、既存科目の拡充を図る形で新しい教育内容を加えることを原則としている。特に、歯科衛生士業務関連分野の拡充と臨地実習の定着化が重要な視点となっている。新たに加わる選択必修分野を活用することにより、教授要綱の自由度が上がり、個性ある独自の教育を行うことが出来る。本研究では、昨年度の研究を発展させる形で、資料収集と調査を行い、分担研究者が作成したカリキュラム案について全研究者が会議形式で検討を行い、全体像をまとめた。研究項目と分担研究者は以下のとおりである。1.新たな専門基礎分野・専門分野の統合(真木吉信、松井恭平) 2.臨床・臨地実習 1)臨床実習カリキュラムの検討(合場千佳子) 2)臨地実習のカリキュラムの検討(真木吉信、嶋野浪江、松田裕子) 3.歯科衛生士概論・歯科衛生士業務関連科目の検討(松田裕子)4.歯科衛生士教員養成プログラムの策定(松田裕子、松井恭平)5.歯科衛生士教育の中の基礎分野・選択必修分野(矢尾和彦、松井恭平)6.カリキュラムの特色について(矢尾和彦)
結果と考察
1.医学・歯学教育におけるモデルコアカリキュラムを参考に、専門基礎分野、専門分野を統合して第3案を作成した。歯科衛生士は健康増進、疾病予防を中心に活躍する職種である。したがって、歯科衛生士教育は本質的には歯学教育と同一視できないが、第3案は大綱化されたカリキュラムの中でライフステージを考慮しつつ疾患別の講義を進めることの参考として示した。2.臨床・臨地実習 (1)臨床実習 臨床実習の84.2%は歯科診療所で実施されている実態から、既存の資料を参考に標準的な臨床実習カリキュラム案を作成した。その中には歯科衛生士業務関連科目に新しく加わる項目もあげた。到達目標を示すことにより、実施を容易にした。評価基準は日本歯科衛生士会から出された4段評価を採用したい。2‐(2)臨地実習 臨地実習は現行の歯科衛生士学校養成所指定規則(昭和58年)には定められていないが、各養成施設で独自に実施されているのが現状である。臨地実習実施校15校の状況聴取と全国134校へのアンケート調査から、実習場所としては小学校、幼稚園(保育園)が多く、事業所は非常に少ないことと、障害者、高齢者施設の実習はかなり行われていることが示された。これらの調査資料から、臨地実習に望
まれる教育内容を教育水準Ⅰ~Ⅲとしてまとめ、臨地実習のモデルを示した。臨地実習は実施場所の確保が困難であり、この点が今後の課題である。3.歯科衛生士概論・歯科衛生士業務関連科目の検討 新しいカリキュラムでは歯科衛生士概論と歯科衛生士業務関連科目(現行の主要三科目)を合わせると、現行14単位から26単位に増加する。これらをまとめて「口腔保健学」とし、歯科衛生士独自の科目として教育内容を組み立て、歯科衛生士教育の基本となる独自の学問とすることを提案した。4.歯科衛生士教員養成プログラムの策定は、現時点では全国歯科衛生士教育協議会が実施している講習会のみである。この専任教員講習会Ⅰ~Ⅵは150時間を最短4年間で修了するものであり、看護教員養成課程の1年間990時間の15.6%にすぎない。看護教育と歯科衛生士の教員資格を同一視できないが、今後3年制教育に向けて歯科衛生士養成のための教員養成は不可欠の課題であり、早急に対策が求められる。また、教員研修会のほかに歯科衛生士の教員を養成できる四年制大学の設立が望まれる。そのためにも歯科衛生士独自の学問として「口腔保健学」の確立を提言する。5.歯科衛生士教育の中の基礎分野・選択必修分野については教育可能な項目は平成11年度に示した。今回は、基礎分野では高等学校の新学習指導要領への対応策を検討し、特に理科について取り上げた。選択必修分野ではダブルライセンスを意識した教育内容が問題になるが、ホームヘルパーの資格については、歯科衛生士は医療・保健の専門職種であり、看護婦も同じである。歯科衛生士がダブルライセンスとしてホームヘルパー2級の資格を取得するのも有効であろうが、それよりも選択必修分野を活用して組まれた3年制カリキュラムによる教育を受けた歯科衛生士はホームヘルパー2級の資格はあるということが、社会で認知されることの方が重要であろうと考える。6.カリキュラムの特色 今回、日本歯科医師会は歯科衛生養成所の就業年限延長(3年制)の今後の方針として、現行規則のもとで、3年制を希望する養成所に対しては個々に認可することを厚生労働省と確認したとを発表した。この見解は全国の歯科衛生士養成施設にすでに配布された。今後、現行指定規則を拡充して3年制カリキュラムを組む場合、どの分野を拡充するかによって各養成施設で特徴ある教授要綱が出てくると思われる。歯科衛生士の業務が多様化し、社会のニーズも高まってくる21世紀には、歯科衛生士の資質の向上は社会の要請であり、現行指定規則で作られる3年制カリキュラムでは歯科衛生士の専門領域の充実した教授要綱を作成することが最重要課題であると考える。
結論
大綱化された新しいカリキュラムは従来の教育内容に新たな項目を加える形でも実施可能である。さらに、領域ごとに教科名にとらわれず、社会のニーズにあう教育内容を組み立て、独自のカリキュラムを編成することもできる。臨床・臨地実習を充実させるためのカリキュラムは十分活用できるものとした。歯科衛生士独自の学問として「口腔保健学」の確立を提言する。3年制教育を行うためには、教育に従事する専任教員、並びに実習施設で指導者として従事している歯科医師、歯科衛生士に対する教育研修等を行うことが必要である。

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