EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究

文献情報

文献番号
200001105A
報告書区分
総括
研究課題名
EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 宏(国際医療福祉大学 国際医療福祉総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷喜一郎(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 岩崎理香(国際医療福祉大学 国際医療福祉総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
12,440,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ここ数年わが国の医療現場において、EBMの普及に対する要求が高まってきた。この定義の通り、実際に診断方法を選択・決定するのは医師の役割であるが、わが国においては、今日の膨大な量の医学論文から「利用可能な最善の科学的な根拠」を得るための情報基盤整備は遅れている現状がある。そのため、情報基盤を整備し活用を促すものとして、「リサーチライブラリアン」を緊急に養成する必要がある。そこで、本研究は、先行研究である平成10年度厚生科学特別研究「リサーチライブラリアン養成についての調査研究」(以下、平成10年度研究)を引き継ぐものとして、その目的は広くEBMに関わる情報関係者のための教育プログラムの開発と実際の人材養成である。3年計画の第1年度は、平成10年度研究において開発された教育プログラムの改良と実際の使用に重点をおいて実施された。第2年度である本年度研究においては、平成10年度研究の成果物として出版されたテキスト「EBMのための情報戦略」(監修:中嶋宏、編集:津谷喜一郎、山崎茂明、坂巻弘之、出版:中外医学社)を利用し、その効果を確認するとともに、新たな取り組みとして、エビデンスを「つたえる」立場にある医学雑誌の編集者を対象としたワークショップが開発・実施を試みた。また、今年度研究は、より広範な地域のリサーチライブラリアンを養成することを目的として、大阪および名古屋でのワークショップも実施した。
研究方法
主任研究者は、EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究(総括)を、分担研究者は、研究デザイン教育とハンドサーチの方法論に関する研究、リサーチライブラリアン養成プログラム・教材の効果測定に関する研究をそれぞれ担当した。
本年度研究は、次に挙げる3つのワークショップを実施し、その参加者に対するアンケート調査をもとにそれぞれのワークショップおよび教材の有効性を評価した。
1)第6回CASPワークショップ
平成12年7月22日(土)、23日(日)名古屋大学医学部で開催。トレイニーとして大学・病院図書館関係者を中心とする24人、トレイナーとして7人、準備のための研究協力者・スタッフ6人、合計37人が参加した。本ワークショップは、イギリスで1993年に開発された、新しい参加型の教育方法を取り入れたもので、短時間に研究デザインを理解し論文の内容を把握する手法である。
2)第3回EBMリサーチライブラリアンワークショップ
平成12年9月12日(火)、13日(水)に大阪YMCA会館で開催。トレイニーとして大学・病院の図書館関係者を中心とする31人、トレイナーとして12人、準備のための研究協力者・スタッフ6人、合計49人が参加した。昨年度の教育プログラムを改良し、教材は前述の「EBMのための情報戦略」を主とし、それを補足するものとして当日のPower Point投影物の印刷ファイル1冊、他参考書として「わかりやすいEBM講座」を用い、時間配分もそれぞれの理解がより進むように調整した。なお、東海地区を中心とする集中豪雨の影響で予定通りに会場へ来ることができない講師が多数いたため、プログラムが大幅に変更された。
3)第1回EBM時代の医学メディアのあり方ワークショップ
平成12年11月16日(木)、17日(金)に国際医療福祉大学東京事務所で開催。トレイニーとして医学雑誌編集者を中心とする18人、トレイナーとして9人、準備のための研究協力者・スタッフが6人、合計33人が参加した。
本プログラムは、医学雑誌の編集者を対象としたワークショップとして、通常のリサーチライブラリアンワークショップの教育プログラムに修正を加えるかたちで今回新たに開発された。教材は同様に前述の「EBMのための情報戦略」を主とし、それを補足するものとして当日のPower Point投影物の印刷ファイル1冊、他参考書として「わかりやすいEBM講座」を用い、時間配分もそれぞれの理解がより進むように調整した。
結果と考察
各ワークショップ参加者を対象に、EBMに関する基礎知識やワークショップに対する評価を問うアンケート調査、ワークショップの教育効果を確認するための小テストを実施した。
1)第6回CASPワークショップ
アンケート調査は、参加37人中事前アンケート23人、事後アンケート25人が回答した。
2)第3回EBMリサーチライブラリアンワークショップ
アンケート調査は、参加49人中25人が回答した。小テストは、トレイニー31人中28人が回答し、平均点は62.9点であった。
3)第1回EBM時代の医学メディアのあり方ワークショップ
アンケート調査は、参加33人中12人が回答した。小テストは、トレイニー18人中9人が回答し、平均点は75.6点であった。
各ワークショップの考察を以下に示す。
1)第6回CASPワークショップ
図書館司書を主な対象にしたCASPワークショップは本研究での開催は2回目であるが、前回と比較すると概ね次のようであった。①教材で取り上げた論文 日本語でかかれた論文を採用したため、より深い理解が得られた。ワークショップ参加後の基礎知識(資料1、図1-8)においても、その傾向がうかがえる。②統計学の基礎について 前回のワークショップにて、「統計学の基礎を学びたい」という意見が多かったため、今回のワークショップでは統計学の基礎を扱った講義も取り入れた。しかしながら、今回のワークショップ後のアンケート調査においても、「統計の基礎がないと難しい」、「講義にじっくり時間をかけた方が良い」という意見が見られ(資料1、表1-5)、更なる改善が求められた。③会場について 今回は、セッションごとに会場の移動が必要だったため、前回のワークショップでは見られなかった「会場の移動は無い方が良い」という意見が見られた(資料1、表1-4)。
2)第3回EBMリサーチライブラリアンワークショップ
アンケート調査の結果を前年度ワークショップと比較すると、概ね良好な結果が得られており、より成熟度が増したものとなったと思われる。その他特に注目される点を挙げると、
①テキストについて 今回のようなテキストの形態(出版物1冊と投影物印刷ファイル)は、前回のワークショップで指摘された、「投影内容の印刷物がほしい」という意見を取り入れた改善であったが、これについては理解が得られたものと思われる。しかしながら、「投影物の文字が小さすぎる」といった意見が見られ(資料2、表2-17)、今後更なる改善が必要であることが示唆された。
3)第1回EBM時代の医学メディアのあり方ワークショップ
アンケート調査の結果を他のワークショップと比較すると、概ね良好な結果が得られており、医学雑誌編集者を対象としたものとして適切な内容であったと思われる。しかしながら、開催時間について、「日中の方が望ましい」という意見や、案内の方法について、「各社のしかるべき担当者に届いていたか疑問である」という意見が見られ、今後の改善が望まれる。その他特に注目される点を挙げると、①フリーディスカッションについて 最後のセッションにおいてフリーディスカッションの時間が設けられたが、概ね好評であった(資料3、表3-12)。②構造化抄録について印象に残った点として、構造化抄録を扱ったセッションを挙げるものが多く、第1時情報の提供者としてその必要性を感じていることがうかがえた(資料3、表3-6、表3-12)。
結論
本研究の各ワークショップにて教育を受けたリサーチライブラリアンは、大学・病院等図書館員として、データベース作成者として、構造化抄録の推進者として、EBMの実践のための情報基盤作成に対する貢献が期待される。本年度の教材とワークショップに対する意見により、より質の高い教育プログラムと教材開発が期待される。

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