医療施設機能別にみた看護職員の配置と業務(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001102A
報告書区分
総括
研究課題名
医療施設機能別にみた看護職員の配置と業務(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
菅田 勝也(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤鈴子(大分県立看護科学大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療施設機能別の看護職員の配置と業務に関する検討の一環として、有床診療所における看護職員配置状況、業務量、業務内容、および、有床診療所に勤務する看護職員が有床診療所における看護の特徴、魅力や難しさをどのように認識しているかを明らかにすること目的とした。
研究方法
有床診療所の看護職員配置と業務の実態、および意識を把握するため、S県健康福祉部医療室編S県診療所名簿(平成12年5月1日現在)収載の有床診療所443施設を調査対象として、平成12年11月~平成13年1月に質問紙郵送調査を行った。この調査では施設調査票と個人調査票を使用した。看護業務量把握については、S県内3診療所において、看護婦・准看護婦のべ17名(うち6名は約15~24時間勤務の病棟当直者)と看護補助者3名の業務時間の観察調査を質問紙郵送調査に先立って実施した。看護職員の意識把握については、S県内6診療所の看護職員21名を対象に1人あたり平均30分弱の半構造化面接を実施し、グラウンデッドセオリー・アプローチを用いて面接内容を分析した。
結果と考察
質問紙郵送調査の回答率は22.8%(101施設)、有効回答率は19.9%(88施設)であった。設置主体は、個人と医療法人が94%を占め、1施設あたり医師数は平均1.7±1.1人、看護職員は、看護婦・士が平均1.8±2.8人、准看護婦・士が平均3.7±4.0人であった。看護職(看護婦・士と准看護婦・士)に占める准看護婦・士の割合は平均0.7±0.3であり、看護婦・士の割合が高い場合でも看護婦・士と准看護婦・士の比は1対1で、准看護婦・士の割合は非常に高かった。診療所において実施される17項目の業務について職種間での分担状況を尋ねたところ、看護婦(士)・准看護婦(士)は、全ての業務に関与していた。17項目の業務は、主に医師との協働、主に医師および事務職員との協働、主に看護補助者・介護職員との協働、主に事務職員との協働という4つのパターンに分類され、事務職員と協働する業務項目数は最も少なく、その他の職員と協働する業務項目数はほぼ同数であった。診療所における看護職は、そのあらゆる業務に関与し、他職種と協働する必要があると考えられた。看護職員の業務時間を観察調査した結果からは、外来勤務の看護職員のうち人工透析・内視鏡検査介助に従事した者では、「患者の状態観察」「治療の補助・介助」「診察器具の準備・後片付け」の3者の組み合わせで業務時間の半分以上を使い、また、「職員間の情報伝達・カンファレンス」の割合も多かった。看護業務を直接看護業務と間接看護業務に分けてみると、直接看護業務にあてられた時間と間接看護業務にあてられた時間はほぼ半々であった。一方、通常の外来診察の場で勤務した者では、「治療の補助・介助」が4分の1以上を占め、「診察資料の準備・後片付け」「受付業務」が多くの割合を占めていた。「患者の状態観察」は少なく、直接看護業務の時間割合は38%であった。病棟勤務者の日勤帯で多くの割合を占めていた業務は、「環境整備」「職員間の情報伝達・カンファレンス」「物品管理」「治療の補助・介助」であった。「患者の状態観察」や「生活援助」は数%であった。日勤帯に比べ夜勤帯では、「診療器具の準備・後片付け」の時間や「患者の状態観察」の時間が多くなっていた。逆に、「治療の補助・介助」「物品管理」「職員間の情報伝達・カンファレンス」「環境整備」は少なかった。病棟勤務者の直接看護業務時間の割合はさらに少なく25~30%であった。並行して行った看護業務時間の自記式調査の結果を観察調査の結果と比較したところ、直接看護業務については一部を除き両調査法による結果には違いが少なく、間接看護業務についても自記式調査法
で把握できる部分が多いことが明らかとなった。質問紙調査個人票に対しては307名から有効回答があり、うち、性別および資格・職種の回答があった300名を分析対象とした。その結果、有床診療所における看護婦(士)・准看護婦(士)の主な業務は、「治療の補助・介助」または「患者の状態観察」であった。これはどの担当場所においても上位を占めていた。日勤・夜勤(当直)別の分析では日勤では「治療の補助・介助」が、夜勤(当直)では「患者の状態観察」が主であった。同じく個人調査票では、有床診療所に勤務する看護職員らが有床診療所で働くことの利点をどのように認識しているか、また、生活で大切にしていることは何かについても尋ねている。有床診療所に勤務する看護職員は、家族、仕事、健康を大切にしながら生活しており、通勤に便利なところに住み、友好的な雰囲気の職場で、地域の患者・家族の生活を理解し余裕をもって看護サービスを提供できることを診療所の利点であると感じていることがわかった。面接で聴取した内容を分析した結果から、有床診療所に勤務する看護職員が認識している診療所における看護の特徴は、「継続的で個別的なケア提供」「オールラウンドな能力」「自己評価と社会的評価のズレ」「医師を頂点とする小チーム」「私的生活との両立」という5つに整理できた。「継続的で個別的なケア提供」や「私的生活との両立」など、有床診療所は看護職にとって非常に魅力的な職場であり、勤務している看護職員も満足していることが示されたが、「オールラウンドな能力」や「医師を頂点とする小チーム」についてはプラスの側面とマイナスの側面があることが指摘された。診療所看護に必要な能力の学習機会や評価機会を増やすこと、自由な意見交換ができ必要だと思う看護ケアや新しい方法が実施できる職場環境を整えることがなされれば、マイナスの側面を解消することができ、診療所は看護職員にとっていっそう魅力的な職場となるだろう。また、診療所における医療・看護サービスについての「自己評価と社会的評価のズレ」を解消するために、診療所における医療や看護の成果を示し社会的評価や専門職内での評価を高めることが必要であろう。
結論
有床診療所の設置主体は大部分が医療法人と個人であり、看護職は准看護婦・士の割合が高い。看護婦(士)・准看護婦(士)は、診療所内のあらゆる業務に関与しており、他職種との協働が重要である。看護職員の業務実態については、外来勤務の看護職員のうち人工透析・内視鏡検査介助に従事した者では直接看護業務が業務時間の半分以上を占めるが、通常の外来診察の場で勤務した者では10ポイント以上低く、診察のための間接看護業務が多くの割合を占めている。病棟勤務者は管理的業務が多いため直接看護業務時間の割合はさらに低いという実態がある。看護業務時間調査法については、自記式調査法も有用な調査法であることが示された。また、有床診療所に勤務する看護職員は、地域の患者・家族の生活を理解し余裕をもって看護サービスを提供できることを診療所の利点であると感じている。有床診療所は看護職にとって、継続的で個別的なケア提供や私的生活との両立などの点で魅力的な職場であり、勤務している看護職員も満足していることが示された。しかし一方では、オールラウンドな能力や医師を頂点とする小チームが有すマイナス面を解消するために、学習機会や評価機会を増やすことや職場環境を整える必要があり、また、診療所における医療や看護の成果を示していく必要性が高いことが明らかとなった。

公開日・更新日

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