少子化時代における小児救急医療のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001101A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化時代における小児救急医療のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 西田勝(枚方療育園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年度までの本研究事業の結果より小児救急医療における問題点として、小児科医不足、小児医療の不採算性、病院小児科の疲弊化、勤務医の過労働状況、一方、受療者側の要望・理想像は専門医医療、完結医療や一箇所集中型救急医療施設の設置などが明らかになっていたが、新たにこれらの問題解決策のための現状把握を目的として、種々な角度から小児救急医療の現状課題の背景的問題点を検討した。
研究方法
各課題に対して最も適切な方法にて行った。
結果と考察
①小児救急医療支援事業の評価と小児救急医療マップ:全国都道府県および政令指令都市12市へアンケート調査を行い、57の自治体から回答(回答率96.6%)が得られた。平成12年度の実施自治体は東京都、埼玉県、岩手県、北海道、愛知県、大阪府、奈良県、兵庫県、鳥取県、岡山県、広島県、愛媛県、香川県、高知県、山口県、長崎県の45自治体で全国二次医療圏のわずか13.3%であった。②小児科学会研修指定病院小児科医長の小児救急医療への考え方:小児医療の基幹病院の責任者は将来の小児救急医療体制をどのように考えているかについて調査、検討を行った。国立成育医療センターの救急機能については初期救急27%、二次救急40%、三次救急・集中医療80%が行うべきと回答していた。小児科医による初期救急医療実施のための条件として、小児科医数の増加、入院先の確保、開業医の初期救急医療への積極的な参加や急患センターの基幹病院併設などをあげる者が多かった。また、小児救急施設の集約化に対して賛成の考えを持つ者が多く見られた。③日本小児科医会A会員(開業医)の小児救急医療への考え方:自院で時間外に救急医療を行わない医師が31.0%にみられた。小児初期救急医療の理想的な担い手は開業小児科医が38.5%と最も多かったが、勤務小児科医、大学医、研修医など勤務医に60.0%が行ってほしいと望んでいた。小児救急医療施設の集中化は多くが賛成であったが、患者の集中や病院志向の増大を危惧する意見も多くみられた。④救急外来診療における診療報酬点数の比較-小児科と内科で-:救急外来における小児科と内科における救急外来診療報酬点数の比較を行った。内科は小児科医より平均236.6点高く、小児科:内科=0.79:1.0の比率であった。内訳では基本診察料は小児科が内科より1.16倍高いものの、処置料とX線検査料は変わりがなく、投薬料(内科が1.88倍)、検査料(25.7倍)、注射料(小児科なし)の3項目で内科が大きく小児科を上回っていた。⑤医学生の小児科・小児医療に対する考え方:医学部6年生に対して小児科に対する考え方について調査を行った。医学生の多くは既に小児科医不足と小児医療の不採算性の現状について知っており、卒業6ヶ月前の時点で将来小児科を選択しているのは9.5%であった。将来の選択に小児科が含まれていない学生の考えとして、小児科は勤務が厳しく待遇も良くない、こどもが苦手、こどもの死や苦しみを見たくないとしていた。⑥母親の医学的育児能力の調査:病気について学校で授業を受け理解できた者は11.8%のみであった。また、発熱への考えやけいれん時の処置など基本的な看護能力についても充分ではないことが明らかになった。今後、保護者の医学的知識および看護能力を高める必要があると考えられた。⑦わが国と北米小児病院の救急医療との比較:日本と大きく異なった点は小児救急医療が成人救急医療と全く独立して別枠で行われていること、ボランティアを含め、社会全体で小児救急医療をサポートしていること、病院全体が子ども達に優しい環境作りに徹していること、必要十分な人員を配置し余裕を持って医療が行え医療事故防止にも務めていることなどであった。⑧リア
ルタイムな遠隔医療の試み:二次救急医療支援事業さえも成り立たない状況の地域があると考えられることより、このような医療過疎地において非専門医と遠方の小児救急医療基幹病院との間で遠隔医療が行えて、それにより、治療方針の決定や治療方法の討論や指導などが可能かどうかを検討した結果、有用と考えられた。⑨小児救急医療の充実度についての患者家族および小児救急医療担当病院へのアンケート調査-平成9年度調査結果との比較-:病院・診療所に限らず、かかりつけ医が夜間・休日も診療してくれるのは34.3%に過ぎなかった。この中で平成9年は77.3%であった病院の占める割合は86.8%と増加していた。小児救急医療に不安を感じる保護者は74%と平成9年度調査を上回っていた。⑩大阪府小児時間外救急患者の動態について:平成12年9月18日~同年10月18日までの1ヶ月間に発生した、大阪府内在住の小児の時間外救急患者数は25,380人で子ども人口1,000人あたり19.7人/月の発生率であった。各地の初期救急医療機関(急病診療所)の受診率はどの医療圏でも50%を下回っており、その分、二次医療を行うべき基幹病院で初期救急医療が行われていた。加えて、小児時間外救急患者の70%以上が4歳未満の乳幼児であり、内科医での診療が難しく小児科専門医のマンパワー確保の必要性が再確認された。⑪大阪市における小児救急医療の現状と問題点:1ヶ月間に大阪市内で発生した小児救急患者数は5,757人であり、子ども人口1,000人あたり16.4人/月であった。⑫二次救急医療支援事業における全国自治体に対するアンケート調査と問題点:本事業の実施が進まない理由としては小児科医不足や不採算性(69.6%)や補助金交付基準の厳しさ(58.9%)、さらには初期、三次とも対象にして欲しいとの回答が多かった。今後の本事業を推進するにあたって、必要なことは補助金の増額(75%)、補助金対象の拡大(42.9%)、診療所医師(開業医)の救急医療への参画(42.9%)などの意見が多かった。
結論
小児救急医療の拡充に対しては小児医療の不採算性の是正、あるいは小児科医の増員が必須であることは判っていたが、その方法としては中央行政の強い指導の下、地方行政を含めて、保護者、小児科医、医療関係者などを代表とする地域の小児救急医療協議会を発足させ、地域に密着した小児救急医療体制の確立が必要である。このために遠隔医療方法の開発や基幹病院への小児救急医療の集約化など今現在可能な対応と近未来的に対応していかねばならない問題点を国民的コンセンサスの得て検討していくべきである。

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