医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200001099A
報告書区分
総括
研究課題名
医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
川村 治子(杏林大学保健学部)
研究分担者(所属機関)
  • 原田悦子(法政大学社会学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨11年度に全国規模で収集した看護のヒヤリ・ハット一万事例の定性分析を継続し、本年度は内服与薬エラーと転倒転落の発生要因を明らかにし,具体的な対策について検討した。また、昨年度の注射エラー発生要因の分析で明らかになった主たる8要因のうち、①エラーを誘発する「モノ」のデザイン ②不正確な注射作業動態、不明確な作業区分と狭隘な作業空間 ③時間切迫(タイムプレッシャー) ④急性期医療へ対応困難な新人の知識・技術)の4要因でより具体的な対策の方法論やエラー発生構造を検討した。
研究方法
以下の10研究を行った。
1)内服与薬エラー発生要因の分析:約1,200事例を業務プロセスとエラー内容によるマトリックスを用いて、具体的なエラー発生要因をマップ化し(「内服エラー発生要因マップ」)、エラー発生の主たる要因として5要因に集約した。
2)転倒・転落発生要因の分析:約1,500事例を発生状況への看護者の介入の有無から2タイプに分類し、介入のない自力行動におけるそれを行動目的の有無と内容から3群に分け、計4種からなる「転倒・転落発生要因マップ」を作成し発生要因を分析した。
3)事故防止のための医療機器ユーザビリティテストの可能性:輸液ポンプを対象機器として時間圧、認知的不可圧など複数条件下での初心者と熟練者のユーザビリティテストを行い、医療機器のユーザビリティテスト実施上の問題点を明らかにした。
4)作業分析に基づく事故防止対策―看護業務における「縦の糸」「横の糸」分析の試み:混注作業を、縦の糸(1患者1医療行為の発生から終了までの経緯)と横の糸(1看護者1時点の複数のタスクを同時実施をプラニングと実行、看護者間の相互作用という視点)という2つの次元から分析を行い、事故防止について検討した。
5)看護婦・士の作業動作に関する一考察:作業中の身体動作や目の動きを分析する動作研究という手法で混注作業動作の分析を行い、混注時のエラー防止を検討した。
6)早朝看護業務における時間切迫の状況と構造―業務スケジュールと行動観察、看護業務の同時進行と中断、看護職の心理的側面からの分析―時間切迫を招きやすい夜勤者の早朝看護業務の現状を時間軸の中で観察し、時間切迫の状況や構造を3側面から分析した。
7)看護業務における医療事故防止への一案―チーム医療による医療事故防止に向けた病院薬剤師の試み:看護業務における医療過誤防止に向け、病院薬剤師が何を為すべきかについて検討した。
8)新卒看護婦・士における医療事故防止関連の知識・技術の習得状況:重大事故防止上習得しておくべき与薬、輸血、医療機器操作関連の知識・技術100項目を選定し、300床以上の133施設約2,200名の新卒者を対象に、就職後11ヶ月時の習得状況を調査した。
9)新卒看護婦(士)の院内事故防止教育の現状と困難:上記8)で調査した施設の卒後の事故防止集合教育の現状について調査した。
10)新たな事故防止教育ツールの開発を目指して「看護事故防止のための教育ソフトCD‐ROM」制作の試み―試作の目的と今後の可能性:事例をもとに輸液ポンプ操作に関する「教育ソフト」のプロトモデルを試作し、事故防止教育ソフトの今後の可能性について検討した。
結果と考察
1)与薬エラー発生にかかわる内服薬特有の要因として、①複数の処方者、②与薬管理上質的に異なる複数の薬剤、③投与時期・時刻・回数の違う複数薬剤、④薬剤科からの払い出しの形態の違う複数薬剤が存在することと、⑤薬剤の保管場所が異なることの5要因が明らかになった。これらに対して、継続して患者を受け持つ看護方式や保管の工夫や、薬剤科からの払い出し形態の改善が必要と思われた。
2)急性期病院における転倒・転落の発生構造は、自力行動による転倒・転落(3/4)と看護者の介入のあるそれ(1/4)に分けられた。前者は行動目的や内容、患者の意識レベルによって発生状況に差があるため患者と行動・状況要因の両者への、また、後者は看護プロセスやシステム上の発生要因への対応が必要と思われた。
3)医療機器の開発段階でのユーザビリティテストの実施は機器のエラー防止に貢献すると思われるが、実施にあたり問題点として、熟練者・経験者、初心者のテスト参加者を集める仕組み、テスト課題の検討、熟練者の発話思考の困難さの補足、圧力条件の設定などの課題が明らかになった。
4)縦の糸と横の糸という2次元での注射混注作業分析の結果、個人の作業プランニングの形は作業構造や情報メディアによって影響を受けて変化し、作業者のやりやすい形が変化することもエラーの発生要因であることがわかった。エラー防止のための作業空間や作業構造のデザインに対する示唆として、徹底した患者単位の処理の流れ、事故防止のための空間デザインとして準備室に必要な最低面積基準の確保が必要と思われた。
5)2人の看護者の混注作業動態の比較から、作業中の移動・位置決め・停滞という作業技術以外の点で差が生じていることがわかった.作業開始時および作業中のスペースのレイアウトの改善や作業工程の改善は事故防止に貢献すると思われた。
6)早朝は多種多様な業務が複雑に絡み合って遂行されている実態が明らかになり、この業務の多様性と複雑性、少人数での遂行状況が時間切迫を感じさせる背景となっていた。こうした状況への適応として、業務の同時進行や意図的な中断が活用されており、これがエラー発生の一要因と考えられた。
7)薬剤師はこれまで患者情報のない薬剤部内で調剤、薬品管理、製剤などの業務に終始してきた。薬剤師が積極的に病棟へ赴き、患者の薬物療法を理解した調剤、病棟内・部署の薬剤管理など、役割分担及び責任を明確にすることで医療過誤防止への効果が期待される。
8)新卒看護婦(士)は危険な注射薬の知識、輸血・人工呼吸器の知識・技術の習得が不十分であった。本調査項目各群での就職時の習得者割合は平均9~31%と低値で、ほとんどが臨床の看護経験を経て習得されていた。就職時の習得者の割合は約58%の項目で専門教育歴によって有意な差がみられた
9)卒直後の院内集合教育は87%の施設で実施されているものの、その内容は概論的で、事故防止上必要な技術や危険な薬剤、医療機器操作教育については、各配置先で実施している施設が多く、集合教育の限界が示唆された。
10)卒前卒後の事故防止システムの構築にとって、有効な事故防止教育ツールの開発は極めて重要な課題である。教育効果を高めるのは、能動的、双方向性、リアリティがキーワードで、今日のPC環境の採用が必須である。本研究で試作した輸液ポンプ操作に関する教育ソフトCD‐ROMは、医療機器操作教育にも有用と思われた。
結論
内服与薬と転倒転落の事例分析から発生要因を明らかにした。さらに注射エラーの4要因に対し、現場観察と調査研究を行い、エラー発生構造や対応の方法論の示唆を得た。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)