保健医療情報モデルの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001098A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療情報モデルの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 豊田建(国際医療福祉大学)
  • 岡田美保子(川崎医療福祉大学)
  • 坂本憲広(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報システム分析に用いられるオブジェクト指向モデリング手法、すなわち情報システムや社会システムを構成する構成要素(組織、期間、人、機会、システムなど:主体という)とその関係およびその間の情報の役割を整理し「モデル」として表現する手法を用いて、日本の医療と医療情報システムにおける情報の役割を分析することによって、保健医療において役割を果たす主体(行政機関、医療機関、医療提供者、患者、家族、地域社会、医療情報システムなど)の抽出とそれらの相互関係の分析とそれにもとづく情報モデルの構築を行ない、広汎かつ妥当な日本の保健医療情報モデルを構築し供することを目的とする。
研究方法
1)病院情報システム(HIS)のユースケースを仕様と操作マニュアルを素材として、個別のシステムモデル作成を主要なオーダエントリ領域について仕様書とマニュアルをベースにユースケースごとに行い、その妥当性を検討する。2)自然言語処理の手法を応用し、ユースケースからクラスやその関連を発見する手法を提案する。さらに、HL7 RIMが国内の保健福祉医療分野にどの程度適応可能であるかを検証するために、国外とはもっとも異なる分野であると考えられている保険情報の記述を行う。3)昨年度に引き続き、1)保健医療統計データ要素辞書: 保健医療統計において共通性の高い項目を標準形式で定義したもの、2)データモデル: 保健医療統計に現れる人や組織、事物、概念等と、その相互関係を表したもの、3)ドメイン用語集(解説を含む)の構築、を発展させる。4)カナダの保健医療データモデルを参照としながら、各エンティティを分析し、日本の保健医療システムにおけるエンティティの定義を行い、その相互関係を整理した。そしてカナダのモデルで使用されているエンティティと比較しながら、日本におけるエンティティの定義付けを行った。
結果と考察
1)HIS要求仕様書からオーダーエントリに関する部分だけを抜粋する12区分あった。これらの要求仕様を分類してみると、個々の機能要件を記載するもの、機能の必要性を説明するもの、操作手順の要件を記載するもの、ユーザーインタフェイスの実現方法を説明するものなどが混在していることがわかった。次に操作マニュアルからのユースケース抽出について検討した。操作はどのような行為目標のために必要であるかがその構成情報から読んでとることができ、どのような機能が用意されているかを把握することも容易であった。実際に稼動している病院情報システムからユースケースを抽出するには、1)操作マニュアルからユースケースのおおまかな構造を抽出する、2)個々のユースケース区分ごとに詳細なユースケース構造を操作マニュアルから抽出する、3)細部化されたユースケース別に要求仕様書の要求要件をマッピング(対応づけ)する、という段階的作業が必要であるが、これによりユースケースの効率的な抽出が可能であると考えられる。次に個々の病院情報システムの相違を吸収した汎用のモデルの構築を行うため、次年度では国立大学病院を8病院選び、そこでの操作マニュアルと要求要件書を同様の手法で分析し、得られたモデルの併合を行う必要である。2) ドメインモデル開発支援ツールはこの考えに基づき、属性の可能性のある名詞をユーザに提示し、ユーザがオブジェクトの属性を定義するのを支援する。動詞については、名詞との位置関係とともにユーザに提示し、ユーザはクラスと決定した名詞について、表示された動詞を元に他のクラスである名詞との関連を決定してゆく。以上のようなツールが開発され検証された。またHL7 RIMを用いて、保険情報を対象にその記述力
を検証した。保険情報の項目としては、J-MIX(標準データ項目セット)の第2章の項目を対象とした。その結果、被保険者に関する情報は、HL7 RIMのEntityおよびPersonクラスを用いて記述可能であり、保険者についてはOrganizationクラスを用いて記述可能であることが分かった。また、健康保険そのものはHealthcare_benefit_product_ policyを用いて記述可能である。3)保健医療統計データ要素辞書の開発と同時に、保健医療統計データモデルを作成した。データモデルは保健医療統計のドメインを構成する人や組織、事物、抽象的概念等をクラスとよばれる単位で表し、その相互の関係を記述するものである。クラスは属性の集まりによって記述される。クラスを記述する属性は、保健医療統計データ要素に対応する。属性の中には具体的な値を取り得るものと、それ自体、他の属性の集まりで定義されるもの(クラス)があり、後者に対応するデータ要素は、具体的な値を取らない抽象的概念を表すものとなる。保健医療統計モデルは、保健医療統計データ要素辞書と、データモデル、および用語集から成る。データモデルから見ると、モデルに現れる要素の定義を記述して集めたものがデータ要素辞書である。またデータ要素辞書開発の立場からは、データモデルによって、データ要素を再評価し、データ要素の改訂・再構築をはかることができる。さらにデータ要素辞書の利用者の立場からすると、データ要素の意味内容を理解し、文脈に基づいて適切なデータ要素を選択し、利用する上で、データモデルは有用な道具となると考えられる。4)カナダの保健医療データモデルは11年度の研究成果からもわかるように、きわめて抽象度が高く、また保健医療を高次元から捕らえているために、エンティティの定義としては、日本の保健医療システムを基本として行ったものが、カナダのものと大きな差異が認められなかった。ただし、エンティティの分類の方法について,文化的社会的な際が見られるところもあり、今後の検討課題である。
結論
病院情報システムのモデリングでは、病院情報システムのユースケース抽出には操作マニュアルをまず素材とし、それに要求仕様書をマッピングするのが効率的であった。個別モデルを階層型ユースケースの整理により構築し、発展させていくアプローチが妥当と考えられた。次に大規模なドメインモデルの構築に先立ち、開発したツールを用いて、昨年度構築したユースケースモデルの分析を行い、クラスや属性、クラス間の関連の抽出に有効であることを確認した。また、HL7 RIMを用いて、保険情報が記述可能であることを検証した。データ要素辞書、データモデルにより、データ要素の意味内容(文脈)を記述することができ、保健医療統計モデリングは、異なる組織や地域、応用の間で保健医療統計の共通性を高め、比較を可能とし、適正な統計の作成と利用の促進に貢献しうると考えられた。国際モデルとの比較では、構築された日本のモデルとカナダのモデルの間には大きな差異が認められなかった。

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