診療・経済評価を目的とした病名統合システムの構築(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001096A
報告書区分
総括
研究課題名
診療・経済評価を目的とした病名統合システムの構築(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
楠岡 英雄(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
  • 是恒之宏(国立大阪病院)
  • 大江洋介(国立大阪病院)
  • 武田裕(大阪大学医学部附属病院)
  • 松村泰志(大阪大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
診療行為の有効性、経済性、効率などを比較するためには、疾病の種類、病因、重症度、進行期などの揃った母集団を構成し、その分布を検討する必要がある。一方、主要因子が均一である疾病を有する患者集団の抽出には、病名による検索が最も効率的と考えられる。しかしながら、現状では、主要因子が明らかに異なるにも関わらず同一病名が用いられたり、逆に、診療評価の観点上からは同一に扱うべき病態が細かく分類されていたりしている。また、現在、全国的に施行が考えられている病名システムも、医療評価の観点からは作成されておらず、上記の欠点を有している。本研究は、診療行為の評価に使用し得る病名システムを設計・構築し、かつ、このような病名システムが診療行為の評価にもたらす意義を明らかにする事を目的としている。
研究方法
本研究は、(1)病名システムの構築、(2)病名検索のためのエンジン作製、(3)医療現場での試用による評価、の3段階を経て、目的を達成させる予定である。第1段階の病名システムの構築では、どのような病名が診療評価に適しているかを見いだすための手法(病名形成法)の開発と、それを用いた病名集の編纂を行う。診療評価に適した病名は、選択した病名における治療成績、入院日数、診療コストなどを指標として分布を分別し、単一分布を形成する病名が見つかるまでこれを繰り返す、などのデルファイ法的手法の応用により収集する。目的とする病名集は、MEDIS-DC標準病名集に基づき国立大阪病院にて作製した当院のICD-10準拠病名集に、上記病名形成法を加え、編纂する。第2段階は、編纂した病名集に収載されている病名を検索し、最適な病名を見いだすための検索エンジンの作製である。第3段階では、本研究により作製した病名システムが、診療行為の評価に役立つかを、病名システム構築後の診療行為に適用し、評価する。同時に、退院時サマリなどを介して、病名毎の診療コストの計算や、対効果比などをもとめ、医療行為の評価を行う手法を確立する。
結果と考察
平成12年度(第2年度)では、前年度に作製したデータベースに基づき、種々の疾患領域において病名群の形成を試みた。また、当院に新たに導入された病院情報システムの機能を用い、病名群形成のためのデータベースを形成するためのシステムの開発を行った。退院時データベースによる病名群形成については、昨年度において作製した、退院患者の病名データベースを用い、病名群の形成を行った。昨年度においては、国立病院等が共同にて医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)に提出している退院時サマリの昭和61年3月以降分と、当院医事課システムにて作成した平成8年1月以降の退院時記録を統合したデータベースを作成している。この中で、医事課データとMEDIS-DC用データの双方を結合して検索を行うことから、検索対象は平成8年(1996年)から平成10年(1998年)のデータに絞った。なお、年による傾向を見るため、一部利用可能な平成11年(1999年)医事課データを使用した部分もある。検索の対象としたデータ件数は、医事課作製の退院時患者データベースのみでは34424件、MEDIS-DC提出用退院時サマリから作製したデータベースでは17819件、この両者を結合し、同一患者の同一入院データであることが確認できたケースについて抽出し形成した共通データのデータベースにおいては、3211件であった。本研究で採用している、在院日数などを指標とした群分けを十分な効率を保ちつつ行うためには、一つの病名に対しある程度のデータ数が存在する必要がある。そこで、データベー
ス中の病名頻度の検討を行った。その結果、在院日数の分布による解析の対象にしうる病名は極めて限られることが明らかとなった。また、その対象とすべき病名は、診療科における上位5位以内にあり、かつ、解析に十分な件数のある病名に限ってよいと考えられた。そこで、診療科別にこのような基準を満たす病名を検討し、33病名を選び出した。また、在院日数の分布に基づく病名群の形成は、最近のある特定の年における、一つのデータベースに基づいて行っても妥当と考えられた。したがって、1998年の医事課データベースを中心に解析し、以下の結果を得た。1)在院日数が比較的均一な分布を示し、これを切り分ける特定の要因を見いだせなかったもの:○総合内科:慢性腎不全、インスリン依存性糖尿病、○消化器科:横行結腸ポリープ、○外科:乳癌、横行結腸ポリープ、○婦人科:子宮粘膜下筋腫、悪性卵巣腫瘍、子宮内膜癌、○眼科:白内障、網膜剥離、黄斑円孔、○耳鼻咽喉科:声帯ポリープ、慢性扁桃炎、○小児科:低出産体重児、高ビリルビン血症2)在院日数の分布に2つ以上のピークを認めるが、その決定要因が判別できなかったもの:○消化器科:肝硬変症、非B非C活動性慢性肝炎、○外科:胆嚢結石症、○整形外科:変形性股関節症、○眼科:緑内障、増殖性糖尿病性網膜症、裂孔原性網膜剥離3)在院日数の分布を切り分ける要因が推定できたもの:○総合内科:脳梗塞症(糖尿病、家族制高脂血症の合併の有無)、○消化器科:肝細胞癌(経皮的経カテーテル的腫瘍塞栓術の有無)、○循環器科:狭心症(心筋梗塞症の合併の有無)、陳旧性心筋梗塞(経皮的冠血管再建術(PTCA)の有無)、急性心筋梗塞(経皮的冠血管再建術(PTCA)の有無)、○外科:胃癌(胃切除術の有無)、直腸癌(根治手術の有無)、S字状結腸癌(肝転移の有無)、○整形外科:変形性股関節症(人工関節手術の有無)、○婦人科:子宮頚癌(手術の有無)、○泌尿器科:前立腺肥大症(手術の有無)、前立腺癌(遠隔転移の有無)。当院の病院情報システムは、平成11年11月にシステムを更新し、平成12年4月以降、システム機能を追加している。この追加されたシステムに、病名、検査結果、処方などについての情報を一括して管理する「長期診療支援システム」がある。平成12年5月以降は、病名など、本研究で必要なデータが病院情報システム中に形成されたため、本研究も長期診療支援システムを用いてデータベースを形成することとした。今年度においては、長期診療支援システムを利用して、病院情報システムからデータを取り出し、病名群形成のためのデータベースを構築するためのプログラムを開発し、これを「疾病別情報検索エンジン」と名付けた。また、「疾病別情報検索エンジン」システムは、病院情報システムに使用している病名マスタに登載された病名を使用している。この病名マスタは、平成12年5月に病院情報システムに病名記載機能が追加された際に当院において作製されたものである。今回の検討により、退院時記録に基づく在院日数の分布を用い、病名を病態などの状況に応じ群分けし、新たな病名群を形成することは、比較的多数の疾患に対して適用できることが明らかとなった。しかし、この手法は、ある程度のデータ件数を有する主要な疾患にしか適用できないことも明らかとなったが、この点は実用上、問題にならないと考えられる。また、在院日数分布では明らかに2つ以上の群の混在を群の混在を疑わせるが、その要因が決定できない病名もあった。これは、データベースの中に決定要因がデータとして含まれていなかったためと考えられ、今後、より多数の項目をデータとして採用する必要が明らかとなった。在院日数の分布を決定づける要因としては、外科系では手術の有無がそのほとんどであった。また、内科系であっても、循環器科におけるPTCAのように、同様の性格が認められた。これは、病名群が入院目的によりある程度分化できる可能性を示唆した。在院日数分布は時間と共に大きく変化するものであり、また、その分別の要因も時間と共に変化する可能性が考えられる。この意味で、病名群の形成は、一定期間毎に繰り返し行う必要があると
考えられた。一方、平成13年2月度より退院時サマリも病院情報システムに入力されるようになり、患者基本情報、移動給食情報より、退院患者に関するデータ抽出が可能となったので、そのためのツールを作成している。さらに患者ID、入退院期間、病名等をキーとして、医事情報、退院サマリ情報を元とした両者の結合データベースを作製するツールを開発している。このデータを用い、任意のキー設定によるデータ検索・抽出後、統計処理解析を行い、その中で各疾病別の各種統計を生成するための基礎的データを抽出することが可能となっている。
結論
今年度における検討により、今回使用した病名群形成の手法の限界が明らかにされた。しかし、この限界は実用上、問題ないと考えられる。また、病院情報システムより直接データベースを形成するシステムが開発されたことにより、今後とも、本手法に基づく解析が継続的に可能になったと考えられる。

公開日・更新日

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