老人保健施設における良質な療養上の世話の効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001093A
報告書区分
総括
研究課題名
老人保健施設における良質な療養上の世話の効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
川島 みどり(特定医療法人財団健和会臨床看護学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 陣田泰子(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
  • 河口てる子(日本赤十字看護大学)
  • 宮崎和加子(健和会訪問看護ステーション統括本部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人保健施設における良質な療養上の世話が利用者の自立を促し、在宅療養へ結びつくことを明らかにする。また、高齢者中心のケアモデルの開発を試みる。
研究方法
参加観察・介入・行動分析インタビュー法等によりデータ収集する質的・帰納的デザインを用いた。対象の施設は、東京都内の開設5年目の都市型老人保健施X、と、開設8ヶ月目の都市郊外型老人保健施設Yに働く看護・介護職者ならびにX施設の利用者らである。
結果と考察
1. 老人保健施設における「療養上の世話」の質の改善に向けて研究者グループが対象施設に入り、看護管理者とともに実践的研究を行った。勤務形態や人員配置、ケア提供方式の変更等で、職員の責任と自覚が生まれ、多職種による事例検討を定期的に行うことで、ケアの効果を意識化でき、重度の痴呆高齢者の症状改善や日常生活行の前向きな変化をもたらす実践例などが報告された。こうした変化の様相を具体的なケアを通して見るために、研究的介入前後に観察したデータの比較によりケアの質を分析した。介入後では、明らかに介入前よりも良質なケアの実施が見られた一方、老人保健施設における利用者の健康管理面での看護職者に期待される知識・技術面での能力が明らかとなった。
2. 在宅介護を受けている痴呆性高齢者がショートスティ利用のため短期間施設ケアを受けた場合に、在宅と施設ケアではどのような質と量の差があるか、またその費用的背景から、今後の老人保健施設におけるケアのあり方を考えた。在宅では、一定の経済力の裏づけがあって初めて、家族の望む在宅ケアが実現している現状が明らかとなり、一方老人保健施設においては、痴呆の程度から必須の「見守り時間」が、実際のケア時間の9割を占めているにも関わらず、その分の経済評価がなく、良質な療養上の世話の実現を阻む一因となっている。
3. 老人保健施設において前年度に実施した面接調査に基づき研修プログラムを作成・実施して3ヶ月後の評価を行った。対象施設は入所定員120名の郊外型老人保健施設。対象者は看護・介護スタッフ57名中、評価研究協力者21名である。研修により、良質なケアに対する意識面での変化はあるものの、実践には直接つながっていなかった。良質なケアの実践内容に関して看護職者のほうが厳しい評価を行っていたことが注目された。
4. 昨年観察して得られたデータについて、行動分析インタビューを用いて、高齢者中心のケアに影響を及ぼす要因のなかで重要因子であると考えられるケア提供者と利用者相互の関係の特性を明らかにするために行った。全エピソード507から中心的意味272を、さらに、46の構造的意味を得た後に、ドナベディアンの「質の3側面」によれば、過程要素がもっとも多く抽出され、構造と結果は少なかった。これは実践の評価が少なく、ケア提供の手応えが得られにくいことを表している。また、本研究の主題でもある<高齢者中心のケアモデル>については、さきの46の構造的意味をさらに抽象化した結果、12の分類に整理できた。すなわち、「施設の特徴」「ケアの効果を上げるシステム」「日常生活行動アセスメント」「利用者への関わり方の決定と工夫」「ケアの検討」「家族との連携」「医療ニーズに応える」「日常生活に変化を起こす」「看護職者の専門性と他職種との効果的な協働」「質を高めていくために必要なこと」「利用者の健康レベルの変化」「記録」である。これが、高齢者中心のケアモデルの重要な質の側面と考えられる。 上記の結果をふまえて、老人保健施設におけるケア評価指標案を作成した。すなわち、老人保健施設における看護職者と介護職者の協働は、良質な療養上の世話を実践する上で欠かせない前提であるが、看護職者のリーダーシップはとりわけ重要であり、この際、高齢者中心のケアモデルに添って、良質な療養上の世話を実践する能力が基本であるといってよい。ところが、このリーダーシップがとりきれないところに現在の多くの老人保健施設における看護職者の弱点がある。そこで、本年度研究で修正した9つの良質な療養上の世話の構成要素をもとに、具体的な観察事象から読みとれた良質なケアのありようと検討課題に、上記高齢者中心のケアモデルに影響する12の要素を重ねて、老人保健施設における看護の評価指標案の基礎資料とした。さらにこれを使用可能な評価指標にするために、ある老人保健施設に働くエキスパート看護婦の日々の思考パターンと行動を記述してもらい、それらを重ねて老人保健施設における看護の評価指標案を作成した。評価方法や配点等については今後さらに検討を要すると思われる。
結論
1.老人保健施設におけるケアの質の改善に向けて、対象施設の看護職管理者と共に方策を立案計画し、研究グループ介入前後のケアの質の相違を評価する実践研究の結果、①老人保健施設のケア提供体制の見直し(職員の勤務形態と人員配置の変更)と多職種による事例検討会の開催など、現場の職員と研究グループとのやりとりを通して、現場に望ましい変化が起きた。一方、未解決の検討課題を残していることも明らかとなった。②また、参加観察を通して介入前後のケアの質を評価した結果、良質な療養上の世話の構成要素「人間らしさ・日常性」「継続性・チームワーク」「自立促進」「安全性」「医療情報の活用」「リーダーシップの発揮」「システム化」「個人の生活史の活用」「家族との調整・家族間の調整」を抽出した。
2.在宅介護を受けている痴呆高齢者の、在宅とショートスティ時における施設ケアの比較から、施設における「見守り」のケアへの費用的評価のないことが明らかとなり、これは、施設における療養上の世話の質に影響する。
3. 研修プログラム実施により、看護・介護職者とも良質なケアに対する意識面での変化はあるものの、実践には直接つながっていなかった。良質なケアの実践内容に関して看護職者のほうが厳しい評価を行っていたことが注目された。
4. 老人保健施設におけるケアの実態観察から得られた507エピソードをもとに、最終的に「高齢者中心のケアモデル」に影響する12の質的要素を抽出した。
上記の研究の成果をもとに、老人保健施設におけるケアの質の評価基準案を作成した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-