「療養上の世話」における生活支援技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200001092A
報告書区分
総括
研究課題名
「療養上の世話」における生活支援技術の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
紙屋 克子(筑波大学医科学研究科社会医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、第一に「療養上の世話」活動における日常生活支援技術を通して、在宅の療養者および要介護高齢者の自立を促進すると共に、支援技術提供者の身体的負担を軽減するための看護技術(日常生活支援技術)をNursing Biomechanicsの視点から開発する。第二に、患者の条件を克服する技術の難易度別分類に基づき、技術の習得と普及を目的とした指導マニュアルを作成する。第三に、これまでに開発された技術と従来の技術における効果の測定・評価の過程に科学的根拠の導入を計ることを目的として行われた。
研究方法
研究方法および対象=1.看護の対象者の自立を促進し、ケア提供者の身体的負担を軽減するための生活支援技術を開発した。 2.技術の難易度別分類に基づき、移乗技術・ベッドにおける上方引き上げ技術の指導マニュアルを作成した。3.開発された新しい技術、および従来の看護技術の効果について、臨床看護者4名と生活支援技術研究者2名の計6名を対象に、体幹角度計を用いて排泄介助時の便器挿入および除去技術における身体負担の程度を測定した。
研究期間 平成12年4月1日-平成13年3月31日
研究成果=病者や高齢者の自立を促進し、ケア提供者の身体的負担を軽減するための日常生活支援(看護)技術の開発、および開発された技術の効果について実証的に評価・分析を行い、以下の成果を得ることができた。
1.新しく開発された技術  1) 拘縮のある対象者の移乗技術 2) 家族ができる簡単で安全な移乗技術 3) パジャマの着用技術 4) 布団を就寝スタイルとしている対象者の長坐位を安定させる技術 5) 家庭における入浴時の事故防止、に関する5つの技術を開発した。2つの移乗技術は、病気や高齢により筋力や体力が衰えて「寝たきり」になった患者・高齢者の中には、上下肢が強く屈曲あるいは伸展したままで拘縮し、これまでに紹介されてきた看護後技術では日常ケアの提供にさえ支障や困難を来している例も多い。下肢に屈曲拘縮のある要介護者の移乗技術は、これまでに開発してきた技術に習熟した看護者を対象とした高度な技術である。介護服を活用した移乗技術は、特別なトレーニング無しで、家族でも安全に実施できる技術として開発された。布団を就寝スタイルとしている対象者の「長坐位を安定させる技術」「パジャマの着用技術」「歯磨き・整髪による上肢の機能回復を目的とする支援技術」はケア技術の提供そのものが、関節の拘縮予防、および運動麻痺のリハビリ効果も期待できるよう工夫された技術である。
2. 開発された看護技術(生活支援技術)と従来の看護技術の効果、ならびに身体負担についての比較検討
1) 姿勢計(体幹角度)による評価
姿勢モニタは連続的に作業中の姿勢を測定することが可能であり、作業における前屈・ 中腰などの姿勢により生じる腰部負担の軽減を目的として、作業姿勢の改善や腰部負担 の少ない方法を明らかにするために使用されている。(1)対象者:女性看護職4名と研究職2名の計6名(平均年齢 31.7±12.1歳, 身長157.9±  6.6㎝,体重 57.2±11.2㎏)(2)実験条件:①ベッドの高さ:67.8±4.3㎝  ②ベッド高/身長:42.9±1.7%  ③模擬患者:年齢40歳,身長170.0㎝,体重55.0㎏(3)測定の対象とした技術 【便器挿入および除去する技術】 患者を側臥位にして便器を挿入する従来の技術をA法とする。筆者の開発した腰臀部の挙上技術をB法として、体幹部の角度を測定し2法を比較した。その結果、体幹角度の最大値に関しては、便器挿入時はA法では56度、B法では47度、便器除去時にはA法では51度、B法では43度であり、便器挿入・除去時におけるA法の動作に腰部を深く屈曲する動作が見られた。体幹角度における2方法の比較では、頻度・最大角度ともB法はA法より低値であり、新しい技術は臨床現場で用いられてきた従来法に比べ、腰部に負担となる体幹を深く屈曲させる動作が少ないという傾向が示された。
結果と考察
考察=1)技術開発のコンセプト
これまで、病者や高齢者が介護を必要として在宅療養生活を送る場合、対象者の自立と介護負担の軽減を目的に、ほとんどの人がベッドの導入を勧められてきた。しかし、厚生省の推計では今後も「寝たきり」高齢者の増加が見込まれており、看護・介護者の腰痛発生率も依然として高い現状から判断すると、ベッドは当初期待された効果を十分には果たしていない。しかし、布団での就寝スタイルを前提とした自立のための看護技術の開発は、この20年間ほとんど行われていない。今年度開発した布団における「長坐位の安定」技術は特別の道具を必要とせず、「パジャマの着用」「歯磨き・整髪」に関する技術は、日常生活ケアの提供そのものが機能回復効果を期待できるように工夫されている。在宅における療養生活が健康時と同じ生活習慣で継続できれば、高齢者のストレスも少なく安心を与えることができるであろう。布団における身体負担の少ない介護技術の開発は、在宅療養生活スタイルの選択肢を広げ、高齢者のQOLの向上に貢献できると思われる。
2)在宅療養における安全の確保
在宅療養を安全に送るためには、生命に危機が及ぶことのないよう十分な配慮と指導が必要である。入浴に限らず、看護者の専門的知識を活用して、在宅療養に潜む危険を回避する視点と取り組みが重要である。また、家族は専門職と異なり、対象者の条件によってはケアの提供が困難なことも生ずる。技術の習得では解決できない条件や制約があるときは、補助具を活用する発想から介護服を考案し、移乗技術を安全に行えるようにした。
3) 技術の習得と普及を計る方策について
技術習得は繰り返しによって獲得する身体学習であるから、簡単な技術から複雑な技術 へと段階を追った学習方法が効果的であり、指導マニュアルの作成が不可欠である。対 象者の条件や制約を克服するために技術を難易度別に分類し、安全・確実な習得と普及 のための「移乗」「ベッドでの引き上げ」技術の指導マニュアルを作成した。今後は、普及のための体制づくりが課題となろう。
4) 日常生活支援技術の効果測定と評価について
生活支援技術は、提供を受ける者と提供する者の快適さや安楽さといった主観評価も重 要である。しかし技術の普及と改良のためには客観的な評価指標が必要なことは言うま でもない。今年度は、排泄介助の技術を対象に姿勢計を用いて体幹角度を測定し、これ を客観的指標として身体負担の程度を比較検討した。この技術は過去に生理学的指標と しての筋電図、客観的指標として圧力分布測定システムを用いて比較検討してきたが、 身体負担の評価指標として多用される体幹角度においても、新しく開発された技術が従 来の技術よりも負担が少ないことが示唆された。このことからNursing Biomechanicsの 考えに基づく生活支援技術は、介助者の身体負担の軽減に有効な技術と評価できる。し かし技術は、介護者の経験や習熟度によって負担の度合いが変わることも知られており 、 それぞれの技術に適した測定方法と測定機器の性能・制約を考慮して指標の選択を慎重 に行う必要がある。
結論
1)NursingBiomechanicsの研究手法に基づき、1.看護の対象者の自立を促進し、ケア提供者の身体的負担を軽減するための生活支援技術を開発した。2.技術の難易度別分類に基づき、移乗技術・ベッドにおける上方引き上げ技術の指導マニュアルを作成した。3.開発された新しい技術、および従来の看護技術の効果について、臨床看護者4名と生活支援技術研究者2名の計6名を対象に、体幹角度計を用いて排泄介助時の便器挿入および除去技術における身体負担の程度を測定した結果、従来の技術に比較して新しく開発された技術の方が負担が少ないことが示唆された。

公開日・更新日

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