阪神・淡路大震災に係る初期救急医療実態調査および3年間のフォローアップ調査に基づく災害対策の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
200001082A
報告書区分
総括
研究課題名
阪神・淡路大震災に係る初期救急医療実態調査および3年間のフォローアップ調査に基づく災害対策の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(大阪府立病院救急診療科)
研究分担者(所属機関)
  • 原口義座(国立東京災害医療センター)
  • 田中 裕(大阪大学救急医学)
  • 松岡哲也(大阪府立泉州救命救急センター)
  • 岩井敦志(大阪府立病院救急診療科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的のひとつは、阪神淡路大震災後設置された災害拠点病院のpreparednessの実態を経年的に調査するとともに、連携が必須である災害時協力病院の災害医療体制への取り組みについて把握し、問題点を明らかにすることである。もうひとつは、集団災害時に重要なトリアージカードの問題点を明らかにすることと、現場の状態や患者の容態、医療内容等をより詳細に把握するための新しい情報伝達システムを構築することである。
研究方法
平成11年度に引き続き、今年度も以下の4課題の調査・研究を行った。
(1)災害拠点病院の災害医療体制への取り組みの現状を把握する調査:全国516施設の災害拠点病院を対象に、アンケート調査を行う。主たるアンケート内容は、①災害訓練施行率、②病院災害マニュアル作成率、③災害研修の開催、受講の有無、④医療救護班の派遣実績、⑤平時の病診連携、⑥救急医療情報ネットワーク、災害時病院間ネットワークの実態等である。
(2)大規模自然災害時に連携が必須である災害拠点病院以外の地域の災害協力病院における災害医療体制への取り組みの現状を把握するための調査:平成9、10、11年度に大阪府立病院で行った災害医療研修を受講した府内災害協力病院の職員、699名を対象に、受講時、受講1年後、2年後にアンケート調査を実施する。上述のアンケート内容はすべて含むが、異なるのはライフライン等の医療施設の整備について、患者転送手段の確保状況、集団災害に対する医療資器材の準備状況、病院間連携の実状等も調査内容としたことである。さらに今年度はこの研究班でも全国の災害拠点病院を対象に、災害協力病院と同一のアンケートに病院その他の公的機関との緊急連絡体制と個人防御装備等の特殊設備に関する項目を加えて、調査を行った。
(3)標準化されたトリアージタッグの問題点を明らかにする研究
分担研究者が主催した2種類の災害研修で、実際に使用したトリアージタッグの記載状況を集計し、標準トリアージタッグの問題点を明らかにする。
(4)情報技術を用いた地域救急医療遠隔支援システムの構築
大規模地震災害を想定した広域の災害救急医療支援システムを構築する目的で、多施設間で医療用動画電送装置を用いた合同演習を行い、施設間連携の実際を整理・評価する。また、救急車画像伝送により、救命士の蘇生支援のシミュレーションを行ない、情報内容と問題点について検討する。さらに、災害時に無線による通信が可能となる装置の開発を模索する。
結果と考察
(1)全国の災害拠点病院の災害医療体制への取り組みの現状を把握する調査
2/3の災害拠点病院では災害マニュアルを策定しており、約半数が毎年災害訓練を実施している。災害医療研修への参加施設は半数に満たず、研修会を主催している施設は20%であった。災害派遣の実績は極く一部の施設のみであり、いずれの調査項目も未達成、未策定の理由は、多忙で手間がかかりすぎる、専門家の不在が大部分であった。
(2)大規模自然災害時に連携が必須である拠点病院以外の地域の災害協力病院の災害医療  体制への取り組みの現状を把握するための調査 
設問文が異なるので一概には比較できないが、200床未満の中規模病院が大半を占める大阪府の災害協力病院でも約半数が災害マニュアルを整備しており、40%の施設が災害訓練を行ったことがある。ただし、トリアージ訓練等はほとんど実施されていない。また、これら災害協力病院における災害医療に対する設備整備、人員の確保等の院内準備状況、医療救護班の派遣に関するそれぞれの職種による意識の差、二次医療圏内での病病連携の実情が明らかになった。医療機関、搬送機関、これらを結ぶ情報伝達システムの整備とともに、これらが機能するための広域協定や個々の医療機関の災害対策マニュアルの整備も重要であるが、この調査では、それ以上に地域の病院間協定や地域で実施する災害訓練の重要性が再認識される結果となった。
(3)標準化されたトリアージタッグの問題点を明らかにする研究
重症度区分の誤りは論外として、標準化されたトリアージタッグの使用上の問題点を明らかにするため、トリアージ訓練直後に回収したトリアージタッグの記載状況を詳細に分析したが、実施者及びトリアージ時刻の記入頻度はそれぞれ51%、37%で、二次トリアージでは一次トリアージよりも記載漏れの頻度がさらに増加していた。詳細は省略するが、現在のトリアージタッグの問題点として、系統的な記載項目が標準化部分と自由裁量部分に分けて記入しなければならないことが記載漏れの原因になっていること、二次トリアージ以降で重症度区分を変更する際への配慮が欠けていること、重症度判定基準に関する具体的な記入項目がないことなどが判明した。
(4)情報技術を用いた地域救急医療遠隔支援システムの構築
企業とともに開発を進めた医療用動画電送装置(TMS-6101)は、移動可能で、ISDN回線の端末が設置されているICU・手術場・対策本部などで当該機器を稼働させれば、発災時、共同行動を取るべき相手の顔や声を、相互認識でき、治療方針等も議論し得る。prehospital care や病院間の遠隔診療支援、教育など、平時においても極めて有益であるが、本機は衛星通信(TCPIP)や次世代携帯電話等、各種通信手段によっても稼働可能で、大規模災害時にも使用可能なことが実証された。
結論
災害拠点病院においても、災害医療マニュアルの未策定病院が、なお1/3存在することは多いとするか否かは別として、最も懸念されていたのは、情報伝達手段や患者搬送手段ではなく、地域の病院間協定やそれに基づく地域で実施する災害訓練であることが判明した。阪神・淡路大震災以降新たに策定された地域防災計画と対をなす個々の医療機関の災害対策マニュアルが策定され、そのマニュアルどおりに対応できるハードの整備や先端技術の応用が可能となるには、さらなる熱意を傾けて、地域の病院間協定を浸透させ、地域で繰り返し災害訓練を実施することが必要である。 災害医療体制に関する災害拠点病院の実態調査は、全国災害拠点病院の連絡協議会を立ち上げる基礎資料として、また地域内災害協力病院を対象にした調査は、地域の医療機関における集団災害時の行動基準を策定する際の基礎資料として活用するべきである。 訓練後に回収された標準トリアージタッグの検討では、記載漏れ等がどの項目でなぜ発生するかを解明した。その結果、自由裁量部を無くして項目配置をより系統的にした改良タッグを提案できた。ただし、トリアージタッグの書き方・使い方については、一層の啓蒙、教育活動が必要である。企業とともに開発を進めた医療用動画電送装置(TMS-6101)は、prehospital careや病院間の遠隔診療支援、教育など、平時においても極めて有益であるが、本機は各種通信手段により稼働可能で、大規模災害時にも使用可能なことが実証された。この医療用画像電送装置を用いた地域救急医療遠隔支援システムの構築は、独立した研究班でパイロットスタディを継続すべきと考えている。

公開日・更新日

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