へき地・離島医療システム作りに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001081A
報告書区分
総括
研究課題名
へき地・離島医療システム作りに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小濱 啓次(川崎医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 滝口雅博(弘前大学医学部附属病院)
  • 吉新通康((社)地域医療振興協会)
  • 鈴川正之(自治医科大学)
  • 米倉正大(国立長崎中央病院)
  • 大田宣弘(島根県立中央病院)
  • 小濱啓次(川崎医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
へき地・離島における医療の改善を図るためには、医療上のへき地度を基準化し、医師の供給システム、医師の研修システム、患者の搬送システム、人的ネットワークの構築などについて、具体案を作成する必要がある。医療上のへき地度に関しては、調査項目を医療に関与した因子にした算定表を作成し、その妥当性を評価する。医師の供給に関しては、地域医療支援センターや都道府県をこえた医師プールの方策を具体化する。医師の研修システムに関しては、へき地・離島医療に必要な知識・経験を基本にへき地・離島に勤務するための卒後研修カリキュラムを作成する。患者搬送システムに関しては、都道府県域に配置されている消防・防災ヘリコプターを救急患者の搬送にいかに運用していくか、また平成13年度より導入されるドクターヘリをいかに運用するか、更には離島においては、自衛隊だけでなく、消防・防災ヘリやドクターヘリの導入にあたり、3者の相互利用をめざしたシステムの具体策を検討する。人的ネットワークに関しては医師連携や医療の連携のあり方について検討する。また、へき地・離島における医療機関や医療支援機構のあり方や評価方法についても検討する。以上のような本研究においては、これらの新しいシステムを構築することを目的とし、今後のへき地・離島における医療の改善を図るものである。
研究方法
研究にあたっては、下記の通り研究課題を分担する。分担研究者滝口雅博は「へき地・離島における医療のへき地度に関する研究」を、分担研究者吉新通康は「へき地・離島における医療従事者の確保に関する研究」を、分担研究者鈴川正之は「へき地・離島に勤務する医師のあり方に関する研究」を、分担研究者米倉正大は「へき地・離島における医療機関のあり方と評価に関する研究」を、分担研究者大田宣弘は「へき地・離島における医療の連携に関する研究」を、分担研究者小濱啓次は「へき地・離島の医療支援機構のあり方と評価に関する研究」を各々分担する。医療のへき地度に関する研究については、試作したへき地度数より、多種多様のへき地・離島を比較検討し、医療のへき地度の妥当性を評価する。医療従事者の確保に関する研究については、おのおの都道府県の衛生指数を参考にして適正で効率的な、へき地・離島への医師の需給策を検討する。また、医師供給システムとして医師プールの方策(大学病院、中小病院、自治体病院、都道府県を越えた財団等の活用)を検討し、いかにへき地・離島への医師を派遣し、定着させるかの具体案を作成する。他の医療従事者についても検討する。医師のあり方に関する研究については、へき地・離島医療を行う上で必要な研修内容を検討し、研修カリキュラムを作成する。医療機関のあり方と評価に関する研究については、へき地診療所、中核病院、支援病院の役割と評価方法を見直し、へき地・離島における人的ネットワークを含めたあり方について具体案を作成する。医療の連携に関する研究については、医療と保健、福祉との連携のあり方について検討する。医療支援機構のあり方と評価に関する研究については、どのようなことが支援機構に求められているかを検討する。すなわち、現地調査および都道府県の地域保健医療計画を参考にし、実際的な面よりへき地・離島における医療の問題点と改善策を追求し、よりよいへき地・離島医療のあり方について検討する。
結果と考察
へき地・離島における医療の改善を合目的に行うための指標を客観的に評価する目的で「医療
のへき地度」のスコア化を試みた。このスコアは主観的に「医療のへき地」と考えられた地域でのスコアが高く、特に離島において高値を示したが、本スコアの妥当性をよりよくしていくためには、記載方法や現地における記載者の選定を検討していく必要があった。へき地・離島医療の確保と質の向上のためには、医療資源のより効率的な活用を目指したへき地医療情報ネットワークの確立が必要である。このことによって、医師間の交流支援、代診支援、診療支援、生涯教育支援などが可能となり、かつへき地・離島医療の評価法にも役立ち、へき地保健医療対策に血脈を吹き込むものと思われる。へき地・離島に勤務する医師の研修のあり方については、卒前教育、卒後研修カリキュラムの作成、研修を行う病院の設定が重要である。特に卒後研修カリキュラムはへき地支援病院等の研修病院で使用することを念頭においた研修カリキュラム表の作成が現実的である。このような卒後研修カリキュラム表を作成するとともに、評価基準を設けて研修医、研修病院の評価判定をも行えるようにした。これらのことによって、より充実した医師研修効果が得られ、研修病院も適切に評価されることになる。次に、全国に先駆けて地域医療支援システムを構築している長崎県と島根県の現状をまとめる。長崎県における離島医療支援体制に関しては理想に近いシステムが出来上がっているにもかかわらず、いまだに多くの課題を抱えている。すなわち、養成医の不足、医師の離島義務終了後の将来、短期間医師の応援体制、救急医療体制の充実などである。これらは各々離島での医療レベルをどこに置くかで変化する。いずれにしても、医師数、経済効率、搬送システムをみながら、各々地域に応じた総合的なコンセンサスを得ることが必要である。島根県で実施している地域医療支援システムでは、特に、人材確保対策、医師支援対策、医療機能支援対策などが独自のものである。しかし、この県においても保険・医療・福祉の包括的提供体制を推進しながらも、人員・設備・施設の整備・供給には限界がある。また、救急医療、高度特殊医療においては最後の砦となる総合病院への搬送を行わなくてはならず、へき地・離島医療においては、このあたりに経済的な問題も含めて、多くの困難性があるといわれている。
結論
現地調査の結果、現状のへき地・離島医療においては、二次医療圏単位のへき地医療体制に限界のあるところもあり、今後、都道府県等の地域が一体となった対応が必要と思われた。また、体制ができている地域においては、今後“質"の面からの改善が必要と思われた。このためには、救命救急センター等を持つ総合病院を核に、教育体制、医師供給体制、搬送体制等を総括した支援体制が必要である。平成13年度から都道府県単位に構築される予定のへき地医療支持機構のこれからの役割が期待される。

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