化学物質等による集団災害時の救助体制確立に関する研究

文献情報

文献番号
200001077A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質等による集団災害時の救助体制確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 侃(日本中毒情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大橋教良(つくば中毒110)
  • 小栗顕二(前香川医科大学)
  • 木下順弘(熊本大学)
  • 屋敷幹雄(広島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学災害は環境中に化学物質が放出され多数の被災者が発生する事態で、1)目に見えぬ化学物質が拡散することで被害が広範囲、大規模になりやすい。2)火災や爆発、大型交通事故に伴うことが多く、化学物質による中毒以外に熱傷や外傷を合併する。3)環境へ深刻な影響をもたらす可能性がある。という特徴を持つ。わが国において的確な化学災害対策をたてるためには、・どの程度の規模の化学災害がどの程度の頻度で発生しているかの実態把握、・未知の原因物質による場合の同定や分析方法の確立、・毒物の拡散防止や救助者の二次災害防止などの救助体制の整備が重要である。以上のことを踏まえ、4人の分担研究者に・・・の課題をそれぞれ分担させて研究を行うことを目的とした。
研究方法
分担研究者大橋教良は、化学災害の発生頻度と、規模、原因、負傷者数、救助体制の問題点などについて、近年わが国および世界各国で発生した災害の実態調査を行った。分担研究者小栗顕二は、原因不明の物質による災害が発生した場合の物質の同定方法について、現状把握と問題点を調査した。分担研究者屋敷幹雄は化学災害の対象物質の簡易な分析同定方法の確立を行った。分担研究者木下順弘は、実際に災害が発生した場合に対応する救助者としての消防・救急の体制と負傷者を治療する救命救急センター等の医療機関の体制を調査しマニュアル化した。これらの結果を総合的に踏まえた上で、化学災害における的確な防災体制を提唱する。
結果と考察
・分担研究者大橋教良は、化学災害の発生頻度は、いくつかのデータベースや資料を下に調査した結果を次のようにまとめた。まず国内の事故発生状況として、危険物規制箇所は全国で総計556647カ所であり、危険物規制箇所における事故の発生は、全国では541件で、施設数における事故発生率は、平均0.097%(約1000カ所に1件の割合)であり、前年よりも増加する傾向であった。 事故の形態は火災が181件、漏えい事故が266件と報告されていた。死傷者は火災によるもの死者4、負傷者56、漏えいによるもの死者1、負傷者31名であった。さらに、危険物施設外での事故も48件発生していた。さらに、平成10年7月に和歌山で発生したヒ素入りカレー事件をきっかけに、模倣犯罪が多発した。これらはすべて被災者が数名程度であったが、毒物を混入するという犯罪行為であり、発生源の関係者の協力が全く得られないため物質の同定が極めて困難であった。また、1991年1月より2000年12月までの10年間で世界各国で被害者数合計100名以上の化学物質が関与した事件(事故)は少なくとも69件報告されていた。その内訳は、事業所における化学物質の漏出、異常反応、爆発など産業事故25件、化学物質搬送中の事故11件、パイプラインの事故5件、食品への化学物質の混入17件、その他11件である。発生国の分布からは、産業事故や搬送中の事故は化学工業や大量輸送手段の発達した先進工業国ばかりでなく、むしろ工業化の波に乗りつつある発展途上国で多く見られるが、発展途上国は「急速な都市化と人口の過密化」「住宅と工場の混在化」といった共通した問題点を持っていた。原因物質は多岐にわたるため、一施設で全ての化学物質に対して精通することは不可能で、今後とも中毒情報センターでの毒物情報の管理、情報提供は非常に重要であるとしている。・化学物質が関与した事故(事件)は、原因物質の特定が極めて重要であるが、分析には少なくとも3時間以上が必要となる。この時間経過は、致死量に近い毒物を摂取した場合には、救命できるチャンスを限られたものにしてしまう。さらに短時間で分析する方法を開発検討するか、簡易スクリーニング方法を確立するしかない。したがって、分担研究者屋敷は、これまで原因となった化学物質を100種類リストアップし、大部分の物質について定性的同定法を明らかにした。定性法に加え、複数の分析方法による確認試験により原因物質の同定を行うことが必要であるとの見解も追加した。
分担研究者小栗は、事故発生の際、重症者が搬入される可能性が最も高いと考えられる救命救急センターの状況を調査した。平成11年には、高度救命救急センターにガスクロマトグラフ、高速液体クロマトグラフ、蛍光X線分析装置が配備された。したがって、いずれの救命救急センターも、多くの物質について分析が可能であるはずである。しかしながら、実状は機械を操作できる分析者の確保がままならず、また分析の経験も未熟であり、現状では直ちに信頼に足る結果を出すことは困難であろうと結論した。
・救助体制について、分担研究者木下順弘は、消防機関は火災や爆発に関する知識と経験は豊富であるが、化学災害での毒物漏えいやテロ行為による毒性気体の行使については、いまだ十分な経験がない。したがって、これまでも未経験故に救助者の二次汚染を繰り返してきた。この反省に基づき以下のような点に配慮するべきであるとした。
・救助者の安全装備
化学災害では、救助者はいわゆるホットゾーンにおいては、耐化学物質素材の防護衣、防護手袋、防護ブーツを装着し、空気呼吸器を一体化したレベルAの装備で活動を展開する必要がある。また、除染や二次トリアージでも必要に応じ防毒マスクと吸収缶より呼吸するレベルCの装備が必要である。ホットゾーン付近では汚染域と安全域を確認するため毒ガス検知装置を携帯する。
・事故現場での戦略
事故現場より風上の方向に向かって3ゾーンを設定する。現場周辺をホットゾーン、その外側をウオ-ムゾーン(除染ゾーン)、さらにその外側をコールドゾーン(救助ゾーン)に設定する。ホットゾーンではフル装備の救助者が救助にあたり、一次トリアージを行って除染ゾーン入り口まで運ぶ。次に衣服を脱がせ、洗浄により除染する。除染後新しい衣類を着せ、二次トリアージを行い、緊急治療群(赤タッグ)より優先してストレッチャーに乗せ、救助ゾーンに運び込み現場での応急処置を受けさせ、その後救急車に乗せるようにする。
・治療上の留意点
毒物に関する特徴を以下の4点について考えること。1.毒性、中毒症状。2.発症までの潜伏時間。3.作用の持続時間。4.毒物の伝播性(患者から救助者への有害作用があるか)。
次に救助現場では、呼吸毒性について対応する必要がある。気道閉塞、換気障害、中枢性呼吸麻痺、呼吸筋麻痺、肺胞障害などが考えられこれに対応する必要がある。
・蘇生方法の注意
一次救命処置において、気道の確保をしても口対口の人工呼吸は行ってはならない。除染前の心臓マッサージも安全服を装備した救助者が行う。二次救命処置は基本的には除染後に行う。
・救急医療機関の対応
一般的に事故現場での除染は不可能か少なくとも不十分であるとして、救急患者搬入口にシャワーを用意して患者を洗浄(二次除染)してから処置室に入れること。また、処置室内の換気を十分に行い、閉め切った状態やエアコンを作動させての治療は危険であると認識すること。毒物治療にあたっては、原因物質の特定に努め、臨床症状その他異常検査値より中毒物質検索データベースCD-ROMなどを活用する。原因物質が明らかな場合は中毒情報センターなどの専門施設へ連絡し、治療法等の情報を集める。後の詳細な分析のため、患者から得られた胃内容、血液、尿などを冷凍保存する。
以上の内容をマニュアル化した。
結論
本研究から現状では化学災害が発生した場合に、原因物質同定から救助、治療を行う上で、様々な問題点が存在することが明らかとなった。このような研究の結果と結論は、適宜学会等で発表するのみでなく、インターネット上で公開したり、研究報告書として取りまとめ、関係機関に配布する予定である。

公開日・更新日

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