文献情報
文献番号
200001074A
報告書区分
総括
研究課題名
画像観察CRTモニターの医学的安全基準設定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
石垣 武男(名古屋大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 河野通雄(兵庫県立成人病センター)
- 中田 肇(産業医科大学)
- 吉田祥二(高知医科大学)
- 松本満臣(東京都立保健科学大学)
- 稲邑清也(大阪大学医学部保健学科)
- 宮坂和男(北海道大学医学部)
- 西谷弘(徳島大学)
- 池添潤平(愛媛大学医学部)
- 小寺吉衞(名古屋大学医学部保健学科)
- 安藤裕(慶應義塾大学医学部)
- 村田喜代史(滋賀医科大学)
- 尾辻秀章(大阪府済生会吹田病院)
- 池田充(名古屋大学)
- 楠本昌彦(国立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
モニタの輝度がどこまで下がったら淡い肺結節の検出が出来なくなるかについて臨床的に明らかにする読影試験を行った。
研究方法
1.輝度劣化を模したモニタ画像による検討(実験1)
5種類の擬似結節画像を11名の健常者の胸部X線画像に加算する形で埋め込み、その輝度劣化を11種類に変えて(輝度劣化はシミュレーションによるもの)臨床経験が3~15年の13名の放射線科医がそれぞれのモニタ画像毎に肺野の結節の位置を所定の用紙に記入した。用いたモニタは21インチで、2028 x 2560, 8bits、最高輝度は512cd/m2(RS 252, Konica Ltd, Tokyo)である。部屋の照度は120 luxである。
2.モニタ輝度を実際に変化させた場合の検討(実験2).実験1と同じ手法にて5例の正常CR胸部写真にさらに多数の模擬結節をコンピュータ上で埋め込んだ。用いたモニタは2048 x 2560, 8 bit(Konica RS-252)と1568 x 1152, 8bits (Fuji HI-C 655)で最高輝度はそれぞれ512、350cd/m2である。放射線科専門医(経験年数15~38年)8名が4人づつ2グループに別れてそれぞれのモニタを用いて実験を行った。実験の手順はゆっくりと輝度を下げていき、淡い結節が識別出来なくなる輝度を確認するものである。同時に輝度劣化時の階調処理による効果も検討した。
5種類の擬似結節画像を11名の健常者の胸部X線画像に加算する形で埋め込み、その輝度劣化を11種類に変えて(輝度劣化はシミュレーションによるもの)臨床経験が3~15年の13名の放射線科医がそれぞれのモニタ画像毎に肺野の結節の位置を所定の用紙に記入した。用いたモニタは21インチで、2028 x 2560, 8bits、最高輝度は512cd/m2(RS 252, Konica Ltd, Tokyo)である。部屋の照度は120 luxである。
2.モニタ輝度を実際に変化させた場合の検討(実験2).実験1と同じ手法にて5例の正常CR胸部写真にさらに多数の模擬結節をコンピュータ上で埋め込んだ。用いたモニタは2048 x 2560, 8 bit(Konica RS-252)と1568 x 1152, 8bits (Fuji HI-C 655)で最高輝度はそれぞれ512、350cd/m2である。放射線科専門医(経験年数15~38年)8名が4人づつ2グループに別れてそれぞれのモニタを用いて実験を行った。実験の手順はゆっくりと輝度を下げていき、淡い結節が識別出来なくなる輝度を確認するものである。同時に輝度劣化時の階調処理による効果も検討した。
結果と考察
1)実験1:モニタの輝度が最大輝度の66.7%以下になると結節の検出率は有意に低下した。各輝度シミュレーション画像において結節の検出率が有意に低下した観測者数の割合でみると、最大輝度がデフォルト状態の輝度の66.7%より低い画像では読影者全員が有意に結節の検出率の低下を示した。観測者の半数が結節の検出率が有意の低下を示す所をモニタの輝度の劣化の許容限界とすると、今回の実験結果からはこの許容限界は最大輝度が通常の80%の所にあると推定された。
2)実験2:輝度を下げていく過程で最初に識別出来なくなる結節は1~2個で、非常に淡い低コントラストのものであった。5例の写真毎でみると淡い結節が最初に識別出来なくなる輝度には差がみられ、最高輝度(デフォルト状態)の0.49~0.82のレベルであった。これらの結節は階調処理により再び識別できるようになり、さらに輝度を下げても最高輝度の0.1前後まで識別できた。しかし、デフォルト状態から輝度を下げていき、最初にいずれかの結節が識別出来なくなった輝度レベルで階調処理を加え再び結節が識別できるようになっても、その画像は胸部写真としての画質という点からは臨床に用いても差し支えないとは言いがたく、概して読影の対象としては不充分な画質であった。
3)CRTモニタの輝度劣化の視覚的測定のためのテスト画像
これまでの成果を基にCRTモニタの精度管理を日常の診療業務で欠かさず行なうための2種類のテスト画像を作成した。実験1の5例の正常CR胸部写真に多数の模擬結節をコンピュータ上で埋め込んだ画像を用いて結節の識別能とモニタ輝度に関しての検討を行ったが、そのうちの2症例が輝度劣化のテスト画像として代表的と判断された。段階的テストチャートについてはこれまでの結果を基に簡便なコントラストチャートを5種類作成した。各チャートは16段階のブロックから成り、各ブロックは中央の正方形の標的と周囲の背景から成る。標的サイズは90, 78, 72, 66, 60ピクセルでありそのコントラストは5, 3, 2, 1.5, 1%である。標的は背景より明るい。背景のピクセル値は5, 10, 15, 20, 25, 30, 40, 50, 60, 70, 75, 80, 85, 90, 95, 100%で0~4095のピクセル域に対応する。このうち標的サイズが最大のものが最も最適であった。
CRT診断では画質、操作性、モニタの輝度、周囲の環境が診断能に影響をあたえる(1-5)。モニタの画質に関しては存在診断に限定すれば1000本系のモニタでも遜色ないことはすでに報告し(1)、日本医学放射線学会のガイドラインとして公表した(付録)。モニタを観察する際の周囲の環境については部屋の照明により診断能に差が出ることはROC解析から明らかになっている。しかし、モニタの輝度と部屋の照明との関連性は明らかにされていなかった。本研究班による平成11~12年度の研究でモニタの輝度が暗く、かつ部屋の照明が明るいほど診断能が下がるという事実が客観的に明らかとなった。
CRTモニタは経年劣化が避けられない。劣化で最も問題となるのは輝度である。臨床現場でモニタを使用する場合にはある程度輝度が下がったら交換する必要が生じる。劣化の程度は工学的に知ることができる。しかしながら、輝度が劣化すると診断にどのように影響するのか、どこまで劣化したら臨床的に限界なのかという見解はまったく明らかにされていない。本研究ではこの点を明らかににしたものである。実験1と2では結節が識別できなくなる輝度の劣化レベルに差があり、実験2ではデフォルト状態の輝度の半分のレベルが最低の限界であった。この違いは実験1では輝度が暗い状態から明るくしていく順、実験2では明るい輝度から暗くしていく順であったことが大きな要因と思われる。輝度を下げていく過程ではそれまで見えていた結節の学習効果もあり、結節が識別できなくなる輝度のレベルが下がったことも一因であろう。 輝度が劣化しても画像処理で救済できる可能性はある。本研究においても、階調処理を加えれば標的とする結節は輝度が劣化しても識別できたものの、胸部単純写真という観点からは臨床に用いるには不充分なものとなり階調処理により輝度劣化を補償することは避けるべきと考える。ここで提案したコントラストチャートをモニタ導入時にチェックし、内部標的の識別が可能なブロックの限界を確認しておく。日常的なコントラストチャートのチェックでこの限界が変わるようであればモニタ輝度の劣化もしくは観察環境が不適切であることを示すことになる
2)実験2:輝度を下げていく過程で最初に識別出来なくなる結節は1~2個で、非常に淡い低コントラストのものであった。5例の写真毎でみると淡い結節が最初に識別出来なくなる輝度には差がみられ、最高輝度(デフォルト状態)の0.49~0.82のレベルであった。これらの結節は階調処理により再び識別できるようになり、さらに輝度を下げても最高輝度の0.1前後まで識別できた。しかし、デフォルト状態から輝度を下げていき、最初にいずれかの結節が識別出来なくなった輝度レベルで階調処理を加え再び結節が識別できるようになっても、その画像は胸部写真としての画質という点からは臨床に用いても差し支えないとは言いがたく、概して読影の対象としては不充分な画質であった。
3)CRTモニタの輝度劣化の視覚的測定のためのテスト画像
これまでの成果を基にCRTモニタの精度管理を日常の診療業務で欠かさず行なうための2種類のテスト画像を作成した。実験1の5例の正常CR胸部写真に多数の模擬結節をコンピュータ上で埋め込んだ画像を用いて結節の識別能とモニタ輝度に関しての検討を行ったが、そのうちの2症例が輝度劣化のテスト画像として代表的と判断された。段階的テストチャートについてはこれまでの結果を基に簡便なコントラストチャートを5種類作成した。各チャートは16段階のブロックから成り、各ブロックは中央の正方形の標的と周囲の背景から成る。標的サイズは90, 78, 72, 66, 60ピクセルでありそのコントラストは5, 3, 2, 1.5, 1%である。標的は背景より明るい。背景のピクセル値は5, 10, 15, 20, 25, 30, 40, 50, 60, 70, 75, 80, 85, 90, 95, 100%で0~4095のピクセル域に対応する。このうち標的サイズが最大のものが最も最適であった。
CRT診断では画質、操作性、モニタの輝度、周囲の環境が診断能に影響をあたえる(1-5)。モニタの画質に関しては存在診断に限定すれば1000本系のモニタでも遜色ないことはすでに報告し(1)、日本医学放射線学会のガイドラインとして公表した(付録)。モニタを観察する際の周囲の環境については部屋の照明により診断能に差が出ることはROC解析から明らかになっている。しかし、モニタの輝度と部屋の照明との関連性は明らかにされていなかった。本研究班による平成11~12年度の研究でモニタの輝度が暗く、かつ部屋の照明が明るいほど診断能が下がるという事実が客観的に明らかとなった。
CRTモニタは経年劣化が避けられない。劣化で最も問題となるのは輝度である。臨床現場でモニタを使用する場合にはある程度輝度が下がったら交換する必要が生じる。劣化の程度は工学的に知ることができる。しかしながら、輝度が劣化すると診断にどのように影響するのか、どこまで劣化したら臨床的に限界なのかという見解はまったく明らかにされていない。本研究ではこの点を明らかににしたものである。実験1と2では結節が識別できなくなる輝度の劣化レベルに差があり、実験2ではデフォルト状態の輝度の半分のレベルが最低の限界であった。この違いは実験1では輝度が暗い状態から明るくしていく順、実験2では明るい輝度から暗くしていく順であったことが大きな要因と思われる。輝度を下げていく過程ではそれまで見えていた結節の学習効果もあり、結節が識別できなくなる輝度のレベルが下がったことも一因であろう。 輝度が劣化しても画像処理で救済できる可能性はある。本研究においても、階調処理を加えれば標的とする結節は輝度が劣化しても識別できたものの、胸部単純写真という観点からは臨床に用いるには不充分なものとなり階調処理により輝度劣化を補償することは避けるべきと考える。ここで提案したコントラストチャートをモニタ導入時にチェックし、内部標的の識別が可能なブロックの限界を確認しておく。日常的なコントラストチャートのチェックでこの限界が変わるようであればモニタ輝度の劣化もしくは観察環境が不適切であることを示すことになる
結論
疑似結節を有する胸部写真を対象に輝度の劣化と結節の識別能を検討した結果、モニタのデフォルト状態での輝度に比べて0.5~0.8の輝度劣化があると淡い低コントラストの結節が識別できなくなることが明らかとなった。さらにこれまでの研究成果を参照に5種類のテストチャートを作成し、検討した結果最大径の標的を有するコントラストチャートがモニタ輝度劣化の視覚的判定基準のための標準テストチャート画像に適すると判断された。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-