在宅医療システムの実用化と経済効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001070A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療システムの実用化と経済効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 勝之(国立小児病院・小児医療センター病態生理研究室室長)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木康之(国立小児病院・麻酔集中治療科医長(遠隔医療担当))
  • 滝澤博(セコム開発センター・ソフト開発グループマネージャー)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅医療の推進は医療経済効率、生活の質、医療の質への一般の要求を満たす手段として期待されている。しかし患者が分散すること自体は、効率の面から考えると必ずしも利点とはならない可能性を有する。本研究では、テレビ電話を中心にした遠隔医療の実用化と、在宅医療にもたらす医療効率を患者側、医療供給側から総合的に検討するものである。在宅医療システムの実用化の要となる、テレビ電話の医療用への改良開発の研究を基に、在宅医療での、医師患者間のコミュニケーション、信頼関係の確立、安全性の確立、生活の質に寄与する可能性を検討するとともに、在宅医療現場での対象をこれまでの研究の小児以外にも拡大し、不必要な通院・入院、往診、並びに医療機器の保守管理面での経済効率に寄与する可能性を検討する。
研究方法
最終年度である本年度は、昨年度までに医療研究用として改良開発を行ったISDN回線を用いるアイシンコスモス製テレビ電話(AIC EYE)システムを用いて、大阪府立羽曳野病院と日本医科大学付属病院の協力を得て、フィールド評価を約4ヶ月間にわたり実施した。対象は、主にⅡ型呼吸不全の治療の為に非侵襲的人工呼吸器を使用している在宅療養患者(以下、患者と略)7名及び患者の主たる介護者(以下、家族と略)6名である。運用方法は患者ごとに、曜日と時間を設定し、主治医が定期的に(1回/週)テレビ電話をかけた。患者には毎日、治療日誌を記録してもらい、主治医との交信時に内容の報告を依頼した。1)医療の質に関わる項目として、コンプライアンスデータ、病態に関わる観察項目を各患者で情報を取得して蓄積するとともに、その他遠隔医療指導時のチェック項目を策定しその内容に沿った確認・記録を行うことで、導入効果上の医療の質評価データを蓄積した。2)患者の生活の質として、健康関連クオリティ・オブ・ライフ(health related quality of life以下QOLと略)をMOS Short-Form 36-Item Health Survey(以下SF-36と略)により、テレビ電話利用群患者7名と非利用群患者19名ついて調査した。また、医療者側とのコミュニケーションがもたらす安心感や機器の使用感についてはビジュアルアナログスケールアンケート方式により、患者7名とその家族6名及び主治医3名から意見聴取を行った。3)経済効率を定量的に確認するために、患者7名について、テレビ電話の導入前後4ヶ月間の外来受信、往診、訪問看護、入退院、緊急連絡及び医療機器業者の出張回数の記録を基に、治療日誌記載内容と併せ時間的指標による比較を試みた。
結果と考察
1)患者のコンプライアンス情報として取得したのは、基礎情報として、体温、体重、酸素飽和度、脈拍及び酸素流量。症状として、意識状態、息切れ、むくみ、せき、痰(性状・色・変化)、頭痛・頭重感、睡眠、服薬状況及び食事の状況。非侵襲的人工呼吸療法に関しては、療法の理解度、使用状況(時間/日)、機器との同調性及びマスク装着(空気漏れ・開口・鼻閉・発赤・痛み・装着感)の確認であった。定期的な交信とこれらの情報から、主治医は患者の顔色や表情の変化とも併せ、必要な指導を行うことができた。改良開発を行ったテレビ電話は音声の明瞭さや可搬性に優れており、患者の顔色や全身状態の確認、さらに人工呼吸器の状況把握に充分な性能を発揮した。また、器械備品の交換やマスクフィッティングにおいても、接写機能を付加したカメラよって、説明に費やす時間の削減と、患者の器械に対する不安感を払拭することができた。2)患者のQOL調査をSF-36を用いて
行った結果、8つの下位尺度のうち日常役割機能(精神)(role-emotional:RE)においてテレビ電話利用群のQOLが非利用群のそれよりも有意に高い傾向が認められた(p<0.05)。これにより、テレビ電話によって医療者側とのコミュニケーションが密な環境下においては、心理的な理由(気分が落ち込んだり、不安を感じたりすること)から仕事や普段の活動を患者自らが抑制してしまうといった事態の回避にテレビ電話システムが有効に寄与しうることが示唆された。安心感や機器の使用感に関するアンケートの結果、患者及び患者家族の両方に共通して高く支持された回答は「テレビ電話があると病院と繋がっているという安心感がある」や、「緊急時にテレビ電話が必要だと思う」であった。また、患者自身よりも、家族の方にテレビ電話の有用性をより高く支持する声が多く、テレビ電話があることによって介護や治療機器の取扱いに対する精神的負担が軽減されていることが示唆された。3)医療機器業者による保守出張回数とその内容をみると、治療機器の保守出張回数がテレビ電話導入前の延べ合計10回から、導入後は2回へと減少した。さらに導入前の出張のうち5回と、導入後の2回の内容はいずれもテレビ電話での対応が充分可能なトラブル内容であったことが医療機器業者からのヒアリングにより判った。時間的指標によれば、医療機器業者の1回の出張に約4時間が所要されると仮定すると、合計約32時間の時間的節約に繋がったと言える。また、導入後の出張2回がいずれも、テレビ電話が医療機器業者側に設置されていたならばテレビ電話で対応可能な内容であったことは、医療機器業者側にもテレビ電話を設置することによって、医療機器の保守出張の90%は節減可能と推察した本研究1年目の検討結果と符合するものであった。本研究において策定した病態に関わる観察項目と、遠隔医療指導時のチェック項目に沿って、医療観察用に改良開発したテレビ電話を使用することにより、主治医は患者の病態を充分に把握することができ、結果として、患者・主治医双方の時間的経済効率の向上を図ることができた。すなわち、将来的にテレビ電話システムが従来の定期的な通院(一般的に1回/月)の代替手段として機能し、患者には必要最小限の通院のみで足る可能性を示すことができたと言える。今後、システムに求められる技術上の課題としては、交信開始時における回線接続の円滑化や、高齢者に配慮した操作性の簡便化であり、また同時に患者や家族のプライバシーへ配慮した機能の充実などが挙げられる。また、システムの運用上求められる形態としては、24時間連絡可能な人的配置や運用システムが必要条件として挙げられる。特に、医療機器業者の出張回数の削減効果や、マスクフィッティングへの対応例などからも示唆されるように、テレビ電話を用いた、患者と主治医及び治療機器業者を含めた総合的ネットワークの構築が併せて必要であると言えよう。
結論
数少ない呼吸管理の専門家を効率よく配置し、慢性呼吸不全患者に対する在宅医療を推進してゆくためには、テレビ電話による在宅医療支援システムの構築が有効かつ切望されていることが今回の検討により実証された。しかし、システムの導入から実施においては、ISDNの回線工事費用や運用開始後の通信費など、医療機関と在宅療養を希望する患者への経済的負担が伴う。今後、通信費などの低価格化や回線の敷設期間の短縮と同時に、テレビ電話や周辺機器に対する初期投資費用の公的負担が認められれば、遠隔医療技術の普及はさらに加速されるものと期待している。我が国の在宅人工呼吸患者の推移は年々増加しているが、中でも非侵襲的人工呼吸は近年注目され、著しく患者数が増加している。本研究はこれまでの研究成果を基に、非侵的襲的人工呼吸患者へ対象を拡大した試みであり、医療経済効率面や医療の質、生活の質(QOL)といった側面からテレビ電話利用の有用性を実証した成果として、今後の我が国の在宅医療に及ぼす影響が大きいと考えられる。

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