HIVの病原性遺伝子Nefを標的とした抗AIDS薬開発のための基盤研究

文献情報

文献番号
200001050A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVの病原性遺伝子Nefを標的とした抗AIDS薬開発のための基盤研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松田 道行(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山下誠(三共製薬第二研究所)
  • 村上裕子(国立感染症研究所)
  • 岩本愛吉(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
32,453,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は、これまでの研究のまとめとして、Nefの生物学的機能をもっとも安定して効率よく測定する細胞株を確立し、この細胞株を用いて、これまで患者のNefの機能の差異と病態との相関を調べることを第一の目的とした。一方、Nefの大事な機能の一つであるMHC-class I分子の発現低下メカニズムについては依然不明な点が多く、またHIV-1感染症の病態との関わりについてもまだ明確にはされていない。そこでまず我々はMHC-class I分子の発現低下に重要な部位を決定し、その部位を切り口として宿主因子との相互作用について解析を行いNefタンパクとHIV-1感染症の病態との関係を明らかにすることを目的とした。最後に、これまでいろいろな抗AIDS薬が開発されてきたが、ウイルスの生存増殖に必須なウイルス分子を標的にすると、即座に耐性ウイルスが出現する。この教訓を踏まえ、ウイルスの病原性や増殖性の増強という機能をもちウイルスの生存増殖には不可欠でないNefを標的にした新しい抗AIDS薬を探すことが目的である。
研究方法
MAGNEF細胞の樹立:MAGIC5細胞は国立感染症研究所の巽博士に供与いただいた。細胞は5%ウシ胎児血清を含むダルベッコMEMで培養した。この細胞株を96ウェル細胞培養皿に、1ウェルあたり、約0.2個になるように限界希釈し、3日に一度培地交換しながら2週間継代し、複数のクローンを樹立した。以下に示す方法で野生型NL4-3ウイルスとそのNef欠損型ウイルスを感染させ、最もNef要求性の強い細胞株をMAGNEF細胞と命名し、実験に供した。Nef発現ベクター:昨年度に報告したサブタイプCの感染性DNAクローンpIndie-C1のNefにフレームシフト変異を入れ、Nefを発現しないウイルスを作成し、Indie-C1-DNefと命名した。Nef遺伝子: AIDS患者、HIV-1感染後長期未発症患者、およびAC期のHIV-1感染患者のPBMCより得たNef遺伝子を研究班員の岩本から供与を受けた。これらのDNAおよびpNL432を鋳型としてPCRでDNAを増幅し、pNL-Notおよび哺乳細胞発現ベクターpCAGGSに挿入した。ウイルスの感染性の測定:得られたウイルス液を、階段希釈した後に、96ウェル細胞培養皿上に付着させた40000個のMAGNEF細胞に感染させる。48時間後にホルマリン固定した後、X-galで染色して感染細胞数を測定した。感染細胞を計測する際には、陽性細胞数がおおよそ50個程度のウェルを選んで数え、ウイルスの感染価を決めた。この範囲がもっともウイルス希釈と感染細胞数に直線性が保たれることをあらかじめ確認してある。Nef変異体の作成: 我々はNefタンパクによるMHC-class Iの発現低下に重要であることが以前報告されたPxxモチーフが4個からなるプロリンリッチドメインに焦点を当て、この部位をより詳細に調べるためプロリンをアラニンに変える遺伝子変異を入れた。変異nef遺伝子の作製はHIV-1株の1つであるNL43プロウイルスプラスミド(pNL43.14877bp)をもとにプライマーにより変異を導入した。変異nef HIV-1のCEM-GFP細胞への感染: HIV-1感染細胞における変異Nefタンパクの機能を調べるためにNL43プロウイルスプラスミドをもとに作製したpNL43-nef(mutant)をHeLa細胞に遺伝子導入試薬FuGENE 6 (ベーリンガー)を用いてトランスフェクションによりウイルスを作製した。さらに感染細胞での観察を可能にするためCEM細胞にプロモーターであるLTRに連結したGFP遺伝子を組み込んだCEM-GFP細胞をターゲット細胞に用いた。Nefと標的蛋白の結合を阻害する薬剤のスクリーニング: 動物哺乳細胞を用いたスクリーニング系でかかったサンプルの評価をするためにもうひとつIn v
ivoの系をつくった。Kinaseも含めた全長のHckをplasmid(下流にGFPをもつIRESをもったベクター)に組み込んだ。また、Nefを単独で組み込んだplasmidをこのHckのPlasmidとともに、同じ293T細胞に一時共発現させた。Hckの自己リン酸化を検出するため、この細胞の溶解液を抗リン酸化チロシン抗体でイミノブロッティングした。また、HckやNefの蛋白量を調べるため同じフィルターを用いてそれぞれの抗体でイミノブロッティングした。この細胞にサンプルを添加し、二次スクリーニングの系として用いることにした。
結果と考察
MAGNEF細胞を用いたHIV-1感染実験: MAGNEF細胞およびコントロールとしてMAGIC5細胞およびCD4発現量の高いMAGIC5E細胞とを用いた。これらの細胞にNL4-3株およびNef欠損NL4-3株ウイルスを感染させたところ、MAGNEF細胞ではNef欠損体は野生型に比較して5%以下の感染性しか示さなかった。MAGIC5細胞およびMAGIC5E細胞ではNef欠損体は野生型の10%から20%くらいの感染力であった。サブタイプCのNef要求性: HIV-1のサブタイプCの唯一の感染性クローンであるIndie-C1のNef欠損体Indie-C1-DNefを作り感染性を比較した。その結果、サブタイプBであるNL4-3と比較すると弱いながらやはりNefが感染性増強を示していることがわかった。NefによるCD4とMHC-classIの低下: 組み換えセンダイウイルスによりTリンパ球にNefタンパクを発現させた結果、CD4分子及びMHC-class I分子とも発現の低下が確認された。しかしカポジ肉腫関連ウイルス(KSHV)のK3及びK5タンパクに比べMHC-class Iの発現低下の程度は弱かった。Nef遺伝子に変異を入れたところ、プロリンリッチドメインの4個のプロリンを全てアラニンに変えた変異ではMHC-class Iの発現低下が完全に抑制されており、さらに4個のプロリンのうち1個に変異を入れた解析から4番目のプロリンの変異が最も発現低下を抑制していることが分かった。薬剤スクリーニング: 昨年度の一次スクリーニングでかかった物質について、293T細胞にHckとNefの発現plasmidを共発現させた後に添加して20時間後、その細胞溶解液を抗リン酸化抗体でイミノブロッティングで検出する系で検討した。一次で1.0μg/mlの濃度でも阻害活性のあった13サンプルのうち、Hckのリン酸化活性を下げるものが5つ見い出された。顕著な阻害作用のあった2つの化合物について詳しく調べたところ、これらはNefがないときのHckの自己リン酸化も抑制していて、Nefとの結合による活性化上昇を抑えているのではなかった。抗Hck抗体によりHckの蛋白量を調べたところHck蛋白が減少していた。Nefの蛋白量はこのとき減少していなかった(Fig.2)。Hckと同じmRNAで発現するGFPは減少していた。このうちの3つは抗癌抗生物質アドリアマイシンの誘導体であり、アドリアマイシンもHckを減少させた。アドリアマイシンはほかのいくつかのendogenousな蛋白(MAP kinase, Jun kinase)は減少させなかったが、U937細胞のendogenousなHckの蛋白量も減少させた。このときU937細胞においてMAP kinaseは減少していなかった。一次スクリーニングに用いたHckはN末からSH3までのものでVP16と融合した蛋白であったが、この蛋白も293T細胞に発現させて調べるとアドリアマイシンでやはり減少していた。これまで行ったスクリーニングで、Hckのリン酸化活性を下げた5つの物質はすべてHckの蛋白量を減少させていた。これまでのところ、Nef-Hckの直接の結合阻害を示していると思われるものは見つからなかった。
結論
病原性遺伝子Nefの感染に及ぼす影響を感度よく調べる細胞株を樹立しMAGNEFと命名した。MAGNEF細胞を用いて、サブタイプCのHIVもまた感染性増強にNefが必要であることを初めて示した。MAGNEF細胞を用いて長期未発症者のNefの機能低下を示した。MHC-class I分子の発現低下に、プロリンリッチドメインの4個のプロリンのうち78番目のプロリンが最も重要であることが分かった。長期未発症者7名とAIDS発症者7名の感染プロウイルスnef遺伝子には、78番目プロリンの変異は1例も見られなかった。このことは、病態に関わらずプロウイルスNefタンパクの78番目のプロリンがよく保存されており
、宿主内での感染細胞の維持には MHC-class I分子の発現低下が重要であることも示唆された。哺乳動物細胞のTwo-hybrid systemを利用した一次スクリーニングでpositiveになったものを評価するために、Hck-Nefの結合阻害を確認するIn vivoの二次のスクリーニング法を確立した。この方法によって一次でpositiveにでたものからHckの蛋白量を減少させる物質が見つかった。

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