エイズ治療薬開発のための評価スクリーニング系の開発

文献情報

文献番号
200001049A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ治療薬開発のための評価スクリーニング系の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
永井 美之(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川篤彦(東京大学農学部)
  • 森一泰(国立感染症研究所)
  • 岩倉洋一郎(東京大学医科学研究所)
  • 金田安史(大阪大学医学系研究科)
  • 京泉 誠之(放射線影響研究所)
  • 千葉丈(東京理科大学基礎工学部)
  • 安藤秀二(富山県衛生研究所)
  • 浅野敏彦(国立感染症研究所)
  • 松田 潤一郎(国立感染症研究所)
  • 篠原 克明(国立感染症研究所)
  • 田中(庄司)明子(国立感染症研究所)
  • 本多 三男(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
85,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染者は増加し続けておりエイズ予防治療法の開発は科学のみでなく社会的にも求められている緊急課題の一つである。そのためには、試験管内のテストと臨床試験の中間を繋ぐ動物モデルを用いる試験が不可欠であるが、この部分の欠落が治療薬開発の大きなネックの一つとなっており、特に我が国では欧米と比べその点の研究開発が遅れている。本研究の目的は小動物、サルを用いて、エイズ治療薬の開発の基盤となるエイズモデル動物を開発することのみでなく、それらを用いた評価スクリーニング系の開発を行うことである。その科学的な問題点として、適切なHIV/AIDS動物モデルとくにエイズ治療薬開発のための評価スクリーリング系の開発が求められており、時期を得た研究課題としてプロジェクトが進められている。本研究では、まづ国立感染症研究所内にエイズ研究センター、動物管理室、獣医科学部、安全性研究部等との共同研究でSCIDマウスのコロニーを作製.維持する。さらに、SCID/huマウスやSCID/PBMCマウス等のヒト組織移植免疫不全マウスを作製し、HIV感染のモデルとしての利点と限界を明らかにすることによりエイズ治療薬のスクリーニングやワクチンの開発に応用する。さらに、小動物モデルの改良をめざして、ウイルス感染レセプターのトランスゲニックマウスを作製し、マウス感染HIVモデルの系を追及する。またエイズ治療薬開発のための評価スクリーリング系として応用可能なエイズサルモデルの開発が重要となってきているので、カニクイサルおよび赤毛サルへのSHIVキメラウイルスの感染モデルスクリーニング系を確立する。また、抗エイズ物質の開発には発症系サルモデルが極めて有用であり、実用化が可能と考えられるので発症系SHIVを用いたエイズモデルを開発する。さらにエイズ予防治療薬のための次世代の評価スクリーニング系として期待される基礎的研究についても検討する。具体的にはサル、マウス以外モルモットやネコを用いた評価スクリーニング系の開発研究、さらに標的遺伝子のターゲテイングに関する研究、標的遺伝子を効率よく細胞内に導入するためのマイクロスファ(HVJリポソーム)の臨床への開発応用研究、さらにはサルの遺伝子操作を目的としたサルES細胞確立のための研究などを含めた研究の確立を目的とする。
研究方法
(1) サルを用いたHIV/AIDS評価スクリーニング系の開発:1)SIVmac239/HIV-1 HXBc2キメラウイルスをカニクイザルにて生体内継代することにより、強病原性のウイルスストックSHIV-C2/1 を得た。さらにその分子クローン SHIV-C2/1 KS661を作製した。2)サルにおける免疫環境の同定を確立するためにINFγ、IL-2, IL-12, IL-4, IL-6, MIP1, RANTES, SDF1のメッセージを半定量的に解析できるサイトカイン測定法を確立した。3)Env 糖鎖を欠くウイルスのサルにおける感染性、免疫応答を検討した。4) 糖鎖改変モデルとして、シアル酸転移酵素遺伝子導入マウスを作出した。
(2) 抗HIV候補物質のスクリーニングとしての小動物モデル(マウス、モルモット、ネコ)の作出と応用:1)NOD Scidマウスを用いてヒトPBMCあるいは胎児・胸腺、肝臓組織の移植を効率良くできるマウスの系を確立した。2)ヒトのHIV感染症のウイルスコピーを再現できるNOD scid PBLマウスHIV感染系を作製し、HIV感染における液性免疫及び細胞性免疫の意義を追究した。3ヒトCD4+メモリーT細胞サブセットの同定とヒトメモリー機能を長期維持するSCID-huマウス作製の試みた。4)小動物によるエイズ治療薬の評価スクリーニング系を開発するために、CyclinTおよびHIV遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製し、5)ネコのFIV感染系において血中ウイルス量を測定、解析した。6)モルモットのTh1/Th2免疫応答を解析する系を検討した。
(3) HIV/AIDS動物モデル確立のための基盤技術の開発:1)精製したレトロウイルスインテグラーゼを用いて外来DNAを効率良く細胞のゲノムに組み込む方法を開発した。2)DDSとしてのHVJ-liposome法の安全性試験のために、合成核酸E2Fデコイ含有のHVJ-liposomeをカニクイザルに静脈投与し、安全性を検討した。
結果と考察
(1) サルを用いたHIV/AIDS評価スクリーニング系の開発:HIV/AIDSが増加し続けており、そのコントロールのためにはHIV/AIDS動物モデルの開発研究が重要な課題になっている。その中でもマウスを用いたスクリーニング系の開発と、サルを用いたこうエイズ物質の評価が開発研究の必須となっており、そのためのサルモデル、マウスモデルの開発が行われている。サルモデルの課題はHIVウイルスの感染によるスクリーニング系としての病態の再現が難しいことから正確なエイズ動物モデルが完成していない現状である。したがって病態を再現できるさるモデルとしてサルヒトキメラウイルスの開発が行われ、それを用いたエイズサルモデルの再現と、病態解析、さらにそれらの成果に基づいたHIV候補物質の開発が現在得られるサルモデルとして捉えられている。一方HIV感染サルモデルに関しては病態発現を考慮する必要の無い実験系の場合はチンパンジーやヒヒが用いられる系があるが、経済的な面でスクリーニング系としての確立が極めて難しい現状である。したがって本研究班ではHIV感染と病態発現を解析しうるサルモデルとしてi)病原性キメラウイルスの開発とその解析、ii)SHIVウイルスを用いたスクリーニング系の開発と病態解析を行い、そのいずれもスクリーニング系として国立感染症研究所筑波医学実験霊長類センターで確立することができた。さらに安定したサルの系を作るためには遺伝子的な背景が明らかになった、あるいは遺伝子的背景を揃えた動物の供給が今後の課題となるのでサルのES細胞の確立を試みた。
(2) 抗HIV候補物質のスクリーニングとしての小動物モデル(マウス、モルモット、ネコ)の作出と応用:マウスを代表とする小動物エイズモデルの開発は、HIV感染に関連した遺伝子をマウスに発現させることによるマウス細胞への感染を目的としたHIV感染マウスモデルの開発と、他の小動物評価スクリーニング系の開発の必要性から免疫不全マウスの確立とその動物を用いたヒトリンパ組織の移植によるScidマウスの確立が行われ、そのヒト末梢血細胞、胎児胸腺、肝組織移植ScidマウスHIV感染系の確立を試みた。HIV感染の際の細胞侵入機構の解析からネコを使ってエイズモデルの有用性が明らかになった。ネコを用いてのエイズウイルスの多様性とエイズ治療薬開発のための評価スクリーニング系の開発が行われた。
(3) HIV/AIDS動物モデル確立のための基盤技術の開発:新しい評価スクリーニング系の開発のために標的遺伝子の細胞内導入との確立とその臨床応用研究を行った。
結論
エイズ治療薬開発のための評価スクリーニング系をサル、マウスを中心に行い、安全で安定したサル及び小動物のモデル系を確立することができた。このモデルの有用性はサルにおいてはキメラウイルスの感染あるいはSHIVの感染防御の評価系として用いられ、HIV候補ワクチンの開発研究でその有用性が明らかにされつつある。さらにマウスモデルについてはNOD Scidマウスの株化が完成し、安定してヒト組織の移植が可能となったことはHIV感染モデル系として安定して確立することができた。さらにマウスへのHIV関連トランスジェニックマウスを作製し、HIV候補物質の評価系として使用可能であると示唆される。ネコエイズウイルスの感染機構の解析の進歩からHIVモデル系としての有用性が明らかになりウイルス感染のコレセプターを標的にしたウイルス感染阻害剤の開発等に用いられ、その有用性が明らかにされた。また、モルモットを用いた免疫誘導のウイルスの解析や候補物質の安全性安定性の解析にその有用性が示された。HIV/AIDS動物モデル確立のための基盤技術においては今後の次世代の遺伝子改変動物モデルの開発のためのサルのES細胞の系の樹立や遺伝子導入法の開発と臨床が行われている。

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