HIVによる免疫機能不全のための基盤技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200001048A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVによる免疫機能不全のための基盤技術の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
金子 有太郎(味の素株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 瓜生敏之(帝京科学大学)
  • 関川巌(順天堂大学)
  • 八木田秀雄(順天堂大学)
  • 垣生園子(東海大学)
  • 山本直樹(東京医科歯科大学)
  • 森本幾夫(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
21,635,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
8-1 デンドリマー型エイズワクチンの合成:これまで合成されたエイズワクチンは、RNA遺伝子を持つためにアミノ酸配列に変異を起し易いHIVに対応できなかった。本研究では、抗原性の強い部分タンパク質やアミノ酸に変異を起した変異部分タンパク質を抗原に使う事ができる、変異対応型のエイズワクチンを化学合成しようとする。各種のウイルスに対してこれまで開発された有効なワクチンは、抗原部位を表面に持つ形態保持型のタンパク質ビリオンであると考えられる。タンパク質内部では、機能部位はへリックスやβ-シートの形態をとり、通常、両末端は固定されている。この条件を満足させるために、抗原として使うペプチドシーケンスを環状化合物にして固定した、リジンデンドリマー型ワクチンを分子設計した。抗原ペプチドとしてgp120のV3ループのシーケンスを選んだ。リジンデンドリマーの持つであろう毒性を発見させないため、およびペプチドを結合させる時に温和な条件で進むように、糖鎖をリジンに結合させた。そして、環状ペプチドをセロビオースリジンデンドリマーに結合させる反応を調べた。
8-2 抗HIV-1作用を有する疾患(HIV-2感染症、SLE)でのHIV-1抵抗性機序の解析:HIV-2は、HIV-1に比べその感染力が弱く、感染後も後天性免疫不全症(Acquired immunodeficiency syndrome; AIDS)を発症することが少なく、HIV-1にも感染しにくい。また、代表的な自己免疫疾患であるSLE患者も、HIV-1に感染しにくいことが知られている。本研究では、HIV-2感染やSLEでの低い病原性や抗HIV作用につき検討を加えた。これらの結果は、HIV-1の有効なワクチン作成に貢献するものと考えられる。
研究方法
9-1 デンドリマー型エイズワクチンの合成
9-1-1 リジンデンドリマー第3世代の合成:アラニルリジンメチルエステルの1つのアミノ基にDi-Boc-lysineを結合させてリジンデンドリマー第1世代を作った。Di-Boc基をCF3COOHで外して復元したリジンのアミノ基にDi-Boc-lysinを結合させてリジンデンドリマー第2世代を得た。同様にして、Di-Boc化リジンデドリマー第3世代を作った。アミノ基フリーのリジンデンドリマー第3世代は、次の反応の直前に作って使用した。
9-1-2 セロビオース誘導体の合成:Perbenzylated cellobiose (PC)及びMethyl cellobioside(MC)の2種類のセロビオース誘導体を合成した。いずれの誘導体も2種類のセロビオースを出発原料としてそれぞれ8種類(PC)、9段階の(MC)の反応で作った。
Perbenzylated 4'-(2-catboxyethyl) Methyl 4'-(2-carboxyethyl)-
-cellobiose(PC) 2,3,6,2',3,'6' hexabenzyl cellobioside(MC)
9-1-3 セロビオースリジンデンドリマーの合成:セロビオース誘導体(PC)とリジンデンドリマー第3世代をBOP試薬とジイソプロピルエチルアミンを使って結合させて、パーベンジル化セロビオース-リジンデンドリマー第3世代を調製した。脱ベンジル化はPd(OH)2触媒を使って行い、セロビオースリジンデンドリマーを得た。
9-1-4 環状ペプチド抗原の分子設計と調製:V3ループを環状化させた環状V3抗原を合成した。
環状V3ペプチド
9-1-5 エイズワクチンの合成:水酸化パラジウムを用いて、脱ベンジル化したセロビオースリジンデンドリマーと環状V3ペプチド抗原とをBH3・pyridine鎖体を用いて還元アミノ化反応で結合させた。
9-2 抗HIV-1作用を有する疾患(HIV-2感染症、SLE)でのHIV-1抵抗性機序の解析:細胞培養と染色:健常者ヒト末梢血は、Ficol-Paque法にて分離し、CD4およびCD8陽性T細胞の分離・精製は、immunoabsorption columnにて行った。細胞(1×106 cells/well)は、10%FCS添加RPMI-1640培養を用い、37度、5%CO2インキュベーターで、バキュロウイルスを用い作製されたリコンビナントHIV外被糖蛋白、HIV-1gp120あるいはHIV-2gp105と共に24時間培養した。細胞は、FITCにてラベルされた抗gp120抗体、抗gp105抗体にて染色しFACStarにて解析した。一部の実験では、抗原の結合部位を決定するために、CD8αやβに対する抗体を用いた。
ケモカイン・サイトカイン産生:上記細胞培養後の培養上清中の各種ケモカイン・サイトカイン活性はELISA法にて測定された。
PQ-PCR法:リンパ球からのメッセンジャーRNA(mRNA)はQIAam RNA Blood Mini Kitにて精製しcDNAは、First Strand Standard cDNA Synthesis Kitにて作成した。HERV clone4-1の量的測定はreal time quantitatine (RQ)-PCR法にて行われ、このためにTaq Man fluorogenic systemを用いた。
結果と考察
10-1 デンドリマー型エイズワクチンの合成:HIV-1抗原ペプチドV3ループを導入できるセロビオースリジンデンドリマーの合成に成功し、この反応の再現性を確認した。さらに、導入するV3ループを環状化した環状化V3ループペプチドをセロビオースリジンデンドリマーと結合させる反応が進むことを確認した。反応生成物質については現在解析中である。反応生成物のワクチンとしての活性については、合成法の確立に時間がかかり、試験に至っていないが、セロビオースリジンデンドリマーがHIV-1由来の種々の抗原ペプチドを結合させうる新しい合成ワクチンの基材として今後の検討に値する物質であると考えられた。
10-2 抗HIV-1作用を有する疾患(HIV-2感染症、SLE)でのHIV-1抵抗性機序の解析: HIV-2感染者に抗HIV-1作用が認められる理由については既に報告済である。すなわちHIV-2由来のgp105の生理活性、とくにCD8陽性細胞と結合して、抗HIV作用をもつβ-ケモカイン類と多量に産生してHIV-1のCD4陽性細胞への結合を阻止する事が要因のひとつと考えられた。
SLE患者についてはHIVと相同性を持つ可能性の高いHERV clone4-1遺伝子のSLE患者での転写・翻訳及び、抗体産生につき検討した。その結果、SLE患者ではHERV clone4-1gag遺伝子の転写が健常者や慢性関節リウマチ(RA)患者に比べて著しく亢進していた。また一部のSLE患者のリンパ球からはclone4-1のgag遺伝子産物が同定され、約50%のSLE患者ではこれに対する血清抗体が認められたが、健常者やRA患者ではこうしたことはなかった。同様の現象は、SLE患者においては、clone4-1のenvについても認められた。すなわち、SLE患者の抗HIV作用は、HERVに対する抗体が構造的類似性患者を持つHIV構成蛋白と交差反応を示し、その感染を阻止している可能性を示唆している。
以上より、SLE患者での抗HIV作用を有する抗HERV抗体の抗原認識部位の詳細部位を明らかにすることが有効なHIVワクチン形成に役立つ可能性があり、またHIV感染に抑制的に作用するケモカイン・サイトカイン産生を促すようなワクチンの開発の重要性などを示唆している。加えて、HIVワクチン形成を困難としている理由の一つに、健常者でも量的に少ないとはいえHERV遺伝子の転写が認められ、このことが類似構造を持つHIVを異物として認識することを困難としていることも考えられ今後検討すべき課題と思われる。
結論
11-1 デンドリマー型エイズワクチンの合成:HIV抗原ペプチドを導入できるセロビオースリジンデンドリマーの合成、およびHIV抗原ペプチドとして環状化V3ループペプチドの合成が可能であった。セロビオースリジンデンドリマーと環状化V3ループペプチドとの結合反応は進行し、反応生成物が得られた。その物性を解析中である。
11-2 抗HIV-1作用を有する疾患(HIV-2感染症、SLE)でのHIV-1抵抗性機序の解析:SLEでの抗HIV-1作用は、HIV-1に構造的類似性をもつ、HERVの転写・翻訳の促進とそれに伴う抗体産生による可能性が高いと考えられ、HIV-2患者の抵抗性(βケモカイン産生によると考えられる)と考え合わせ、有効なワクチンを作る上で重要な情報を得た。

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