HIV-1 vpr遺伝子を用いたHIV感染細胞のアポトーシスによる排除技術の開発

文献情報

文献番号
200001047A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1 vpr遺伝子を用いたHIV感染細胞のアポトーシスによる排除技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
森田 裕(チッソ株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 間 陽子(理化学研究所)
  • 蒲田政和(理化学研究所)
  • 緒方一博(神奈川科学技術アカデミー)
  • 渡邊俊樹(東京大学医科学研究所)
  • 渡来 仁(大阪府立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
3剤併用療法によっても除去できない潜伏HIVを排除する事が強く望まれる。そこで、著しいアポトーシス活性を有する vpr遺伝子C末端欠失変異体を用いて、HIV感染細胞を直接的に破壊するための技術開発を本事業の目的とする。targetingの特異性を高めるため、vprをHIV-1 LTRの下流に連結後、更に抗-HIVgp120抗体結合リポソームに封入する。本技術は感染細胞を"アポトーシス"で排除することにより、最終的にウイルスを排除しようとするものである。従って、無症候キャリアーのHIV感染細胞を選択的にかつ効率良く排除することによって、無症候キャリアーの早期治療を可能にできると期待される。
また、Vprはアポトーシス以外にもウイルスの転写活性化能或いは細胞に分化、G2期arrest、多倍体化を誘導することから、アポトーシス以外の機能を失活した変異体の作出が望まれる。そこで、Vprの多様な機能の発現機構を解明するため、Vprの3次元構造の解析、相互作用する細胞内因子の同定と、これらとの相互作用を介して制御されるシグナル伝達経路の全容を解明する。
研究方法
1)Vprと変異体の機能解析---HIV-1感染性DNAクローンpNL432のvpr遺伝子の欠失及び点変異体を作製し、発現ベクターに挿入後、electroporation法にて各種細胞に導入した。抗-Flag抗体及びCy3標識抗-マウスIgG抗体で免疫蛍光染色後に、細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。細胞増殖に及ぼす効果を、[3H]thymidineの細胞内への取り込み量の測定とcolony形成法により、細胞周期をFlow cytometry法により解析した。またアポトーシス細胞の検出を、Annexin Vを用いた蛍光染色及びCaspase-3 活性を測定することにより行った。
2)yeast two-hybrid法---野生型Vprとその6種類の変異体をbaitとして用いたyeast two-hybrid法により、human CD4+T-cell或いはHeLa cDNA libraryをスクリーニングした。
3) pull-down法--- GST組換え型ヒトImp α1、マウスImp α2 及びマウスImp β1をE. coli BL21(DE3)株で発現させ、glutathione(GSH)-Sepharose beadsにて回収した。野性型及び各種変異型Vpr、あるいはVprの2つのa-helix domainを各々連結したキメラGFPをin vitro translationを用いて調製した
4)Vprの大量精製---vpr遺伝子断片にFlag配列を連結後、大腸菌発現用ベクターpET-16b、pET-23d(+)及びpET-29a(+)、或いは酵母発現用ベクターpPICZaに挿入した。Vpr蛋白発現のため、大腸菌発現用ベクターをNova Blue(DE3)株に、Sac Iによって直鎖状にした酵母発現用ベクターをKM71(Muts)株に導入した。Vprの発現誘導を大腸菌では1 mM IPTGで、 酵母では3%メタノールで行った。得られた組換え型Vprを各種細胞株に添加後、細胞増殖に及ぼす効果を[3H]thymidineの取り込みで解析した。
5)vpr遺伝子断片を発現ベクターpHIV-LTRbsrに連結後、様々な細胞株に Tat発現ベクターと共導入し、アポトーシス誘導活性を調べた。
6)種々の陽性荷電リポソームを作製し遺伝子導入効率を比較した。また、モノクローナル抗体を結合させた遺伝子封入陽性荷電リポソームの、in vitro及びin vivoにおける細胞への遺伝子導入効率を調べるため、モデル細胞として牛白血病細胞株(KU-17)を、ベクターとしてジフテリア毒素遺伝子発現ベクター (pLTR-DT) を用いた。targetingのため、pLTR-DT封入TMAGリポソームには牛白血病細胞を認識するモノクローナル抗体をSPDPにより結合させた。In vitro、in vivoにおける遺伝子導入効率は、KU-17細胞の増殖抑制率により算出した。
結果と考察
HIV感染細胞を破壊するための道具として、HIV-1アクセサリー遺伝子の一つであるvprの欠失変異体を選択した。しかし、vpr遺伝子産物はアポトーシス以外にも様々な機能を発揮する。そこで、Vprの細胞に及ぼす効果を知るため、HIV-1感染性DNAクローンpNL432由来のvpr遺伝子断片の欠失および点変異体をHeLa細胞に導入した。その結果、Vprによって誘導される3つの細胞増殖抑制機構を見出した:1) G2期arrest 、2) G2期arrestとは異なる細胞増殖抑制、および 3) Vpr発現細胞の培養上清を介する細胞増殖抑制 。さらに、VprのC末端に存在するarginine rich regionを欠失した変異体C81は、G2期arrest能を消失しているが、強いアポトーシス能を発揮することを見出し、また、野生型のVprも弱いながら、G2期arrestとは別の経路を介してアポトーシスを誘導できることを世界に先駆けて明らかにした。また、C81はG1期arrestを介してアポトーシスを誘導する結果として細胞の増殖を抑制すること、このアポトーシス誘導には、N末端から81番目までの領域が必要であることを明らかにした。
アポトーシス誘導に必要な、VprのN末端から81番目までをコードするvpr遺伝子断片 (C81) を、発現ベクターpHIV-LTRbsrに挿入した。このベクターと Tat発現ベクターをHeLa細胞に共導入したところ、Tat蛋白によりC81の発現が誘導され、細胞はアポトーシスすることが確認できた。次に、vpr変異遺伝子をHIV感染細胞だけに選択的に発現させるために、この発現ベクターを抗-HIVgp120抗体結合リポソームし、HIV-1感染細胞に特異的に導入したところ、アポトーシス誘導能がみとめられた。更に、種々のHIV-1感染細胞に導入し、発現、アポトーシス誘導能等解析中である。更に、in vivo の遺伝子治療に応用するため、ベクターを封入するリポソームを検討した。その結果、陽性荷電リポソーム(TMAG)が有効であること、更に、モノクローナル抗体結合リポソームは抗体非結合リポソームに比べ、in vitro、in vivo において標的細胞に対し高い遺伝子導入効率を有する事が明らにした。
さらに、Vprの3次元構造の解析するため、細胞増殖抑制活性を保持したVprを大量に産生する酵母株を得ることに成功した。さらに、Vprと相互作用する細胞内因子の同定を試みた。まず、yeast two-hybrid法によって、UNG、HHR23Aを含む5種類の既知と6種類の未知の蛋白質をコードする遺伝子の同定に成功した。HHR23AはC末端側UBA domainを介してVprとの結合すること、この結合にはVprの二つのα-helix domain内の33位のHis、67位のLeu及び74位のIleの各アミノ酸が重要であることを証明した。次に、in vitro translationで作製したVprを用いてpull-down 法を行った結果、GST融合型Importin α及びβはVprの2つ目のα-helix domainと相互作用している事が示された。
本研究において我々は、Vpr蛋白によって誘導される異なる2つの細胞増殖抑制機構の存在を明らかにした。即ち、G2期arrestおよびアポトーシスである。更に、Vprのleucine zipper様domain中の4つのLeu/Ile残基をProに置換した点変異体の解析から、VprのG2期arrestとアポトーシスとは、異なる経路を通じて発揮されることが明らかとなった。Vprとアポトーシスとの関連性については、G2期arrestの後にアポトーシスが誘導される可能性、細胞内のごく低濃度のVprがアポトーシスの抑制に関与するといった知見、更に精製Vprを培養液中に添加するとアポトーシスが誘導される等の報告がなされている。従って、今回明らかになったC末端欠失変異体によってアポトーシスが誘導されるという事実は、全長のVprを細胞内で発現させた時にはG2期arrestに隠れて解析できなかった機能が実は発揮されている可能性を示す重要な成果である。
結論
1)Vprによって誘導される異なる2つの細胞増殖抑制機構(G2期arrestおよびアポトーシス)の存在を明らかにした。
2)アポトーシス誘導にはVprのN末端から81番目が必須であった。
3)この領域をコードするvpr遺伝子断片を発現ベクターpHIV-LTRbsrに挿入し、Tat蛋白により発現誘導可能な系を確立した。ベクター封入用のリポソームとして、陽性荷電リポソームが、更に、モノクローナル抗体結合リポソームがin vitro、in vivoにおいて標的細胞に対し高い遺伝子導入効率を有していた。
4)VprがHHR23AのUBA domainおよび塩基性NLSのレセプターであるImp α及びβと相互作用することを明らかにした。
5)大量かつ細胞増殖抑制活性を保持したVprを産生する酵母株を得ることに成功した。

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