HIV日本人株及び東南アジア株に対するワクチンの開発とAIDS予防法に関する研究

文献情報

文献番号
200001046A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV日本人株及び東南アジア株に対するワクチンの開発とAIDS予防法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 本多三男(国立感染症研究所)
  • 武部 豊(国立感染症研究所)
  • 小島朝人(国立感染症研究所)
  • 水落利明(国立感染症研究所)
  • 網 康至(国立感染症研究所)
  • 速水正憲(京都大学ウイルス研究所)
  • 小笠原一誠(滋賀医科大学)
  • 岡本 尚(名古屋大学医学部)
  • 滝口雅文(熊本大学医学部)
  • 小林信之(長崎大学薬学部)
  • 八木田秀雄(順天堂大学医学部)
  • 白井俊一(順天堂大学医学部)
  • 熊谷善博(日本医科大学医学部)
  • 志田壽利(北海道大学免疫化学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AIDS予防対策として、HIV感染様式の解析を基本として多段階でのウイルス感染阻止法、ウイルス増殖抑制療法等、種々の方法がとられようとしている。東南アジアから中国を含めた国々におけるHIV感染率の急激な上昇を考えると、経済的、社会的背景から、可能であれば、予防対策としてはHIVに対するワクチンの開発が最も有効な手段となり得る。本研究は、HIV日本人株、東南アジア株を主要な標的として、HIVワクチンを開発することを目的として行われた。
研究方法
ワクチン使用の標的地域を日本、東南アジアにおき、疫学調査にもとづく変異性を考慮しつつ、多種の候補ワクチンをとりあげ、その有効性、安全性に関する検討、抗原性増強法の検討、有効性、安全性評価法の改良等を以下のごとく実施した。
(1)疫学的解析と標的抗原に関する研究
日本、東南アジア地域に流行するHIV株の分離とその遺伝子解析、分子疫学的検討、分離ウイルスの免疫学的特性に関する検討、集団、個人内での変異状況の検討、感染患者の臨床経過を考慮した目的とする標的抗原の意義及び抗原性を高めるための検討についての解析を行った。
(2)候補ワクチンの開発と改良
リコンビナントBCGワクチン、ワクシニアウイルスをベクターとしたワクチン、インフルエンザウイルスをベクターとしたワクチン、抗体超過変部へのHIV抗原を分子移植したワクチン、HIV-1全ゲノムプラスミドを用いたDNAワクチンを候補ワクチンとして作製し、有効性、安全性に関する検討、ベクター及び大量生産法の改良に関する検討を行った。
(3)抗原性増強法及び有効性、安全性評価法に関する研究
ワクチン効果を高めるためのリンパ球機能分子のワクチンとの併用効果、HLA分子の関与等の免疫学的調節法の検討、霊長類を用いた有効性、安全性評価法の改良、HIVワクチン接種に伴う宿主の免疫学的変化をとらえる試験法の検討を行った。
結果と考察
日本、東南アジアを中心に流行しているHIV-1(サブタイプB,E)を標的としたワクチンの開発を目的とし、ワクチン開発のために必要な標的抗原、疫学的研究、免疫機能増強法に関する研究、評価のためのモデル動物の改良に関する研究を行った。
HIVワクチンの世界の動向をみると、病原性ウイルスの感染コントロールの方向に進み、内容としては、ウイルス増殖の調節に関する調節蛋白を標的とし、これに細胞性免疫や液性免疫を誘導するワクチンを併用することによる病原性ウイルスの増殖阻止に向かっている。班員の研究もこのことを意識して、今までの研究方法を再考する中で実施されている。標的抗原については、gagを粒子化抗原とする試み、抗原変異への対応を考慮したライブラリーワクチン化、抗体超可変部へのHIVコンポーネントの多価移植等の研究が行われ、envだけでなく、gagを使用したワクチンの開発への応用が試みられた。又、ヒトでのCTL誘導をより明確にするため、日本、東南アジア人に高い頻度で存在するHLAクラスI抗原が提示するHIVのCTLエピトープの研究が本格的になった。本年度から本格的にHIV増殖に関わる調節蛋白(Tat)を標的抗原とするワクチン開発をスタートさせmutant Tatをワクシニアベクター、BCGベクターに組み込むことに成功し、その効果をサルを用いた検討に入った。gagを組み込んだワクチンとの併用が、今後期待の持てるワクチンとして、希望を持たせる結果となった。HIV-1全ゲノムプラスミドを用いたDNAワクチンにも改良が加えられ、接種回数を減らす試みに成功し、インフルエンザウイルスをベクターとするワクチンも、方法論に改良を加え、サルを用いた感染防御能への検討に進んだ。
世界のワクチン開発はCTL誘導の重要性を意識したgagと標的抗原とするワクチンと、変異への対応を意識したtat, nef等を標的抗原としたワクチンの方向に進んでいる。
本年度の研究では、これら傾向を考慮したワクチン開発が試みられ、さらに多種ワクチンの併用およびHIVの感染ルートを考慮した感作法の検討もスタートさせた。
現在まで開発試行したワクチンには、多くの問題点も残っているが、これら新しい方向の中から、病原性ウイルスに対する臨床試行の可能なHIVワクチンを開発していきたい。
結論
病原性のあるHIVを対象とする防御ワクチンの開発には、臨床ウイルス株の感染を正確に模倣できる動物モデル評価系の開発、正確な有効性を客観的に評価できる評価系、方法の開発、HIV感作ルートを考慮した感作法の開発、必要に応じた多種ワクチンの併用が求められる。本研究班では、これらの点を意識しつつ、HIVワクチン開発に必要な疫学的検討、標的抗原の分析と免疫原性の強化、免疫学的増強法を主とする免疫学的背景、評価動物モデル系の開発、改良について研究を進めてきた。
BCG、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルスをベクターとして使用するワクチンも、envを標的抗原とする方向からgag又はtat, nefを標的抗原とする方向に向かい、HIV全ゲノムプラスミドを用いたDNAワクチンにも、安全性と有効性増強に配慮したワクチンの改良が行われ、多くの進歩がみられた。しかしながら、疫学的検討、HIV感染者での免疫異常状態にみられるごとく、完成は容易ではない。
世界的なHIVワクチン開発の傾向は、日本の状況と同じ歴史をたどり、現在では、gagを主とするCTL誘導能のあるワクチン、tatを主とするHIV増殖に関連する蛋白を標的としたワクチン開発へと進んでいる。本研究班の方向も、同様の方向に進んでおり、今まで経験した多くの知識が生かされようとしている。これら研究方向に、多種ワクチン併用、免疫ルートの改良、有効なアジュバントの使用を加え、臨床試行型のHIVワクチンを開発していきたい。方向性はかなり固まってきたと考えれれるので、ウイルス学、免疫学の専門家等、多くの御協力をいただき、継続させていただける様、お願いしたい。

公開日・更新日

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