HIV-1の細胞進入機構の解析による抗エイズウイルス薬の開発

文献情報

文献番号
200001044A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1の細胞進入機構の解析による抗エイズウイルス薬の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 達夫(北里研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 星野洪郎(群馬大学)
  • 桜井 弘(京都薬科大学)
  • 鈴木康夫(静岡県立大学)
  • 池田 潔(静岡県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
19,472,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CD4分子は、HIV/ SIVの感染におけるレセプターとして同定された。更にG protein-coupled receptor (GPCR) に属するいくつかの分子が、HIV/SIVの感染のコレセプターとして働くことが報告された。本研究では、HIV/SIVの細胞への侵入過程に関与する新しいコレセプターを同定し、更にコレセプター関連ペプチドの感染への影響を検討する。まずGPR1のコレセプターに注目し、メサンギウム細胞など新しい細胞のコレセプターとしてくか検討する。脳由来細胞で発現しているGPCRを検出し、HIV/SIV感染で機能するか検討する。APJのリガンドであるアペリン関連のペプチドがHIV感染を阻害できるか検討する。また、HIV-1感染を抑制する合成ペプチドおよびその関連化合物を見い出すことを目的とする。HIV-2株ではCD4を発現していない細胞に感染できる株が報告されている。色々なHIV/SIV株についてその感染におけるCD4とコレセプターの必要性を検討する。HIV-1感染感受性の異なる培養細胞株について、細胞膜表面に存在する複合糖質糖鎖について、感染感受性との関連が示唆された糖脂質の解析を行なう。亜鉛を含む金属錯体が抗HIV作用を示すことが観察されたので、HIVプロテアーゼ阻害活性をもつことが報告されているp-クマル酸などのポリマーを配位子とした亜鉛錯体を合成する。カフェイン酸の誘導体であるカフェイン酸フェネチルエステルがインテグラーゼ阻害作用を示すので構造活性相関にもとづいたカフェイン酸類縁体の抗HIV活性を検討する。
研究方法
細胞: ヒトグリオーマ由来NP-2細胞にヒトCD4およびHIV/SIVのコレセプター遺伝子を導入し、それらを発現した細胞株を用いた。ヒトT細胞株由来MT-2 細胞、バーキットリンパ腫由来Raji/CD4 細胞、ヒトT細胞株由来C8166細胞、ヒトT細胞由来MOLT-4細胞、U937細胞、ヒト赤芽球系細胞由来K562/CD4細胞を用いた。HIV/SIV株: GUN-1wt dual-tropic HIV-1株、GUN-1のvariant株、T-tropicウイルスの代表的な株としてはIIIB株、M-tropic株としてはBaLを用いた。HIV-2株としては、CBL-20、CBL-21、CBL-23、GH-1、ROD、SBL6669、SIV株としてはagm、mac、mndを用いた。Lipid Yの精製:K562/CD4細胞の中性糖脂質画分と酸性糖脂質を分取し、中性糖脂質画分をHPTLCにスポットし、連続展開した。目的物質 (Lipid Y) に相当するバンドを掻き取り、Lipid Yを抽出した。各細胞株 (C8166, MOLT-4, K562/CD4) の中性糖脂質画分をTLC上にスポットした後、展開した。TLCプレートを抗paragloboside (PG) モノクローナル抗体反応させ、スポットを検出した。薬剤の調整:バナジウム錯体、アミノ酸誘導体-亜鉛錯体、亜鉛-フマル酸関連錯体は、すでに報告されている合成法に従って合成した。カフェイン酸類縁体であるポリフェノール化合物についてはそれぞれの天然物から抽出・精製して用いた 。オリゴペプチドの合成:酸性アミノ酸の組み合わせとして(DYD)n(n=1-3)とCPFとの結合物とその硫酸化体の合成を行った。さらにスペーサーとしてグリシンを介したDYDGDYD硫酸化体、DYDGYDY硫酸化体の合成も行った。CCR5の第1細胞外ループをターゲツトとして、さらにAla-Ala-Alaの配列を非天然型アミノ酸であるスペーサーに置換したミミツクペプタイドを合成をした。
結果と考察
(1)HIV-1は、人種により高率に腎症を起こしうるので、腎のメサンギウム細胞のHIV/SIV感受性を検討した。メサンギウム細胞はCD4とGPR1発現しており、GPR1をコレセプターとして利用できるウイルスに感受性であることを明らかにした。(2)オーファンレセプターRDC1が脳由来細胞に発現しており、HIV-1、HIV-2およびSIV (H
IV/SIV) の新しいコレセプターとして作用することを明らかにした。(3)APJのリガンドであるアペリンのC末のペプチドに抗ウイルス作用を認めた。(4)CCR5、CCR3、CCR8、CXCR4、GPR1、APJについてCD4に依存しないコレセプターとして作用できるか検討した。CD4に依存しないコレセプターとしては、一部のHIV-2株とSIV株が、CCR5あるいはCXCR4のどちらか一方のみを利用できた。細胞表面にCD4がない細胞の感染で、CCR5およびCXCR4の両方を同時に利用できるウイルス株はなかった。(5)感染宿主細胞表面に存在する複合糖質糖鎖のHIV感染における役割を解析するため、HIV-1感染感受性の異なる6種類の培養細胞株について、その糖鎖組成の化学分析を行なった。糖脂質(Lipid Y)が低感受性細胞株K562/CD4に強く発現していることが明らかになった。Lipid Yは、paraglobosideと呼ばれる糖脂質と同様の糖鎖構造を有することが明らかとなった。(6)亜鉛と、HIV増殖抑制作用がある p-クマル酸もしくはフェルラ酸との錯体を合成し、抗HIV活性をin vitroで評価した。また、抗酸化能を有することが知られているカフェイン酸の類縁体の抗HIV活性をin vitroで評価した。バナジウム錯体のVO(3MPA)2,、 数種類のアミノ酸誘導体-亜鉛錯体、クマル酸関連の新規亜鉛錯体、インテグラーゼ阻害作用を示す可能性が考えられる抗酸化性ポリフェノール化合物caffeic acid、 rabdosiin、fukinolic acidに抗HIV活性が認められた。(7) CCR5を介するHIV-1の感染の抑制物質を見い出すため、108種類のオリゴペプチドについてHIV-1抑制効果を検討した。NP-2/CD4/CCR5細胞にGUN1wt株を感染させ合胞体の形成で判定する系を確立し検討した。余り強い抗HIV活性を持つものは見いだせなかったが、数種類のオリゴペプチドが合胞体形成を抑制した。(6)コレセプター関連のオリゴペプチドで酸性アミノ酸の組み合わせを多く持つアミノ酸配列に比較的強い活性が認められた。また第1ループのミミックペプチドであるSKG-51に有意な活性が見られた。
結論
(1)CD4 とGPR1がメサンギウム細胞に発現しており、HIV/SIVに感受性であることを示した。オーファンレセプターRDC1が脳由来細胞に発現しており、HIV/SIVのあたらしいコレセプターであることを明らかにした。Apelin由来のペプチドがNP-2/CD4/APJ細胞へのHIV/SIV感染を阻害した。PromiscuousなHIV-2およびSIV株は、CCR5あるいはCXCR4を発現していれば細胞表面にCD4を発現していない細胞にもしばしば感染できることを明らかにした。コレセプターの内CCR5およびCXCR4のみがCD4非依存性コレセプターとして機能した。(2)CCR5を介するHIVの感染を阻害する薬剤のスクリーニングを簡便に行う系を開発した。10数種類のオリゴペプチドに弱い抗HIV-1作用を認めた。これらのペプチドをリード化合物とし、更に活性の強い化合物を合成したい。(3)CD4およびCXCR4を発現している各種細胞株(C8166, MT-2, Raji/CD4, MOLT-4, U937, K562/CD4)にHIV-1に対する感受性の相違が認められ、糖脂質(Lipid Y)が低感受性細胞株K562/CD4に強く発現していることが明らかになった。この糖脂質は、paraglobosideと同様の糖鎖構造を有することが明らかとなった。PGの宿主指向性(トロピズム)の多様性への関与、さらにはHIV感染に対する制御機構を明らかにしていく予定である。(4)バナジウム錯体、亜鉛錯体を中心に抗HIV活性を検討した。バナジウム錯体のVO(3MPA)2, 数種類のアミノ酸誘導体-亜鉛錯体、クマル酸関連の新規亜鉛錯体、インテグラーゼ阻害作用を示す可能性が考えられる抗酸化性ポリフェノール化合物に抗HIV活性が認められた。(5)酸性アミノ酸の組み合わせを多く持つアミノ酸配列に比較的強い活性が認められた。さらに抗HIV-1活性の増強のためには (DYD)nとCPF結合物の硫酸化体の合成およびスペーサによる結合距離の検討が必要である。またCCR5の第1ループのミミックペプチドに有意な活性が見られた。

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