遺伝子発現制御機能を持つ亜鉛サイクレン錯体による抗エイズ薬の研究

文献情報

文献番号
200001043A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子発現制御機能を持つ亜鉛サイクレン錯体による抗エイズ薬の研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山本 直彦(名古屋大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 塩谷光彦(東京大学大学院理科系研究科)
  • 浅尾哲次(大鵬薬品工業株式会社)
  • 森下高行(愛知県衛生研究所)
  • 金田次弘(国立名古屋病院)
  • 大竹徹(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
核酸分子を選択的に認識する金属錯体および金属配位能をもつ新規人工ヌクレオシド誘導体と、エイズウイルス増殖抑制作用との構造活性相関を調べ、より有効な抗エイズ薬を開発することを目的とする。核酸分子を選択的に認識する化合物はHIVの増殖過程において従来の薬剤にない新規の段階で作用する事が期待される。
研究方法
亜鉛サイクレン錯体および人工ヌクレオチドを有機合成し、構造解析、溶液内平衡を分析し、pH的定性法によりこれら合成物とチミンあるいはウラシル塩基の核酸分子との総合作用の程度を評価した。 (1) 抗HIV活性の評価:MTT法により、EC50(50% Effective Concentration;50%ウイルス増殖抑制濃度)およびCC50(50% Cytotoxic Concentraion;50%細胞増殖抑制濃度)を測定した。すなわち、新規合成された化合物を96 well microplate上にtriplicateで5段階希釈し、2x10 /ml に調整したMT-4 細胞にMockあるいは100 x CCID50/mlのHIV-1(IIIB)を感染し、5日間培養後、MTT;3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-dipheyltetrazolium bromideを加え、生細胞がこのMTTを取り込み、発色した度合をELISAで測定した。上記アッセイで抗HIV活性のみられた化合物についてさらに、他のウイルス株(RF, NL432)やマクロファージ好性分離株(Ba-L)、AZT耐性分離株(A018C、A012D)、HIV感染患者からの多剤耐性臨床分離株(KK-36-5、KK-81-3) に対する活性を測定した。(2)逆転写酵素(RT)に及ぼす影響:非放射性RT活性測定法(旭化成)を応用し、RT反応におよぼす薬剤の影響を測定した。(3)巨細胞形成に及ぼす影響:HIV-1(LAI株)に持続感染しているMOLT-4細胞と非感染のMOLT-4細胞を混合培養し、巨細胞形成に対する薬剤の影響を調べた。4)MAGIC-5A細胞におけるT-tropic(T細胞好性)およびM-tropic(マクロファージ好性)ウイルスの影響:CCR5遺伝子をCD4陽性HeLa細胞に導入したMAGIC-5A細胞を用いた。2種のT-tropic HIV-1株(LAI、NL432)および5種のM-tropic HIV-1株(Ba-L、JR-FL、KK-20、KK-23、KK-27)を薬剤存在下でMAGIC-5A細胞へ感染させ、b-galactosidaseを発現し青色を呈する細胞数を指標に抗ウイルス活性を測定した。(5)細胞のセカンドレセプターに及ぼす影響:細胞表面のCD4、CXCR4、CCR5分子とそれぞれに対するモノクロナル抗体の結合に及ぼす薬剤の影響をフローサイトメーターを用いて調べた。すなわち、CD4のHIV結合部位に対する抗体(抗Leu3a)とMT-4細胞、4種の抗CXCR4抗体(12G5, 44708.111, 44716.111, 44717.111)とMOLT-4細胞、 4種の抗CCR5抗体(2D7/CCR5, CCR5-529, 3A9, 45531.111)とMAGI-CCR5細胞。(6)HIV-1のエンベロープ蛋白に及ぼす影響:HIV-1のgp120のV3領域に対するモノクロナル抗体(0.5b)とgp120を細胞表面に表出しているHIV-1(LAI)に持続感染しているMOLT-4細胞との反応に及ぼす影響をフローサイトメーターを用いて調べた。
結果と考察
研究成果= (1) 抗HIV活性:3種類の芳香族ペンダント型亜鉛サイクレン錯体に高い抗HIV活性が見られた。すなわちHiro-02; EC50 :0.8μg/ml, CC50 :635.3μg/ml, Selectivity Index :794.1倍, Hiro-03; EC50 :3.2μg/ml, CC50 :>1000μg/ml, Selectivity Index: >312.5倍, Hiro-10; EC50 :2.1μg/ml, CC50 :315.3μg/ml, Selectivity Index :150倍であった(2)HIV-1の逆転写酵素活性に及ぼす影響:3種のHiro化合物はRT反応の抑制作用は示さなかった。(3)巨細胞形成抑制能 3種類の化合物は共に、デキストラン硫酸(DS8000)とほぼ同等にHIV-1によ
る巨細胞形成を抑制した。(4)MAGIC-5A細胞におけるT-tropicおよびM-tropicHIVの影響:3種のHiro化合物はbicyclam(AMD3100)と同様、2種のT-tropic HIV-1株の増殖を抑制したが、5種の M-tropic HIV-1株の増殖には影響を及ぼさなかった。CCR5を抑制するTAK-779は5種のM-tropic HIV-1株のみ増殖を抑制し、AZTはT-tropicおよびM-tropic全てのウイルスに対して効果を示した。(5)セカンドレセプターとそれらに対するモノクロナル抗体に及ぼす影響:Hiro化合物は抗CXCR4モノクローナル抗体の結合を抑制しなかった(Table 3)。また抗CCR5モノクローナル抗体の細胞への結合はHiro化合物によりいくつかの抗体の結合が阻止された。すなわち、Hiro-02はCCR5-529と3A9を、Hiro-03は3A9を、またHiro-10はCCR5-529と45531.111をそれぞれ強く抑制した。CCR5のアンタゴニストであるTAK-779はHiro-10と同じくCCR5-529と45531.111の結合を強く抑制した。Hiro化合物は細胞表面のCD4分子に対するモノクローナル抗体(抗Leu3a)のMT-4細胞との結合を抑制しなかった。(6)HIV-1のエンベロープ蛋白に及ぼす影響:Hiro化合物はHIV-1のgp120のV3領域に対するモノクロナル抗体(0.5b)と、gp120を細胞表面に表出しているHIV-1(LAI)に持続感染しているMOLT-4細胞との反応に影響を及ぼさなかった。
考察=抗HIV作用との構造活性相関の解析から、亜鉛サイクレン錯体による抗HIV効果の増強には、錯体の多核化が重要な役割を持っていること明らかとなったため、。新規設計、合成の際、亜鉛サイクレン錯体の多量化を行うにあたって、前年度のように、ベンゼン環だけでなく、二環性あるいはそれ以上の大きなサイズの芳香族化合物をスペーサーとして用いたところ、3種類の芳香族ペンダント型亜鉛サイクレン錯体(Hiro-02, 03, 10)に高い抗HIV活性がみられた。この化合物はT-tropicの HIVに対してのみ活性を示したにもかかわらず、T-tropic HIVの感染に関わっているとされるCXCR4分子に対するモノクロナール抗体、4種類について、その阻害作用を検討したところ、いずれも影響はみられなかった。その後、この化合物に対する耐性HIV株を分離したので、現在、その耐性ウイルスの遺伝子を解析中であるが、新しい作用メカニズムによる増殖抑制の可能性も否定できない。また、より臨床に近い状態での効果をみるために、臨床分離株や臨床耐性株の迅速かつ高効率な分離法を見い出し、現在それらに対する効果を検討中である。さらに、これら新規化合物の臨床応用に向けて、リード化合物を設定し、小動物を用いた前臨床試験を予定している。今後は、(1)ウイルス侵入阻害作用を有する多核亜鉛サイクレン錯体の再分子設計(・芳香環スペーサーや芳香族ペンダントを用いる多核亜鉛サイクレン錯体の構築、・亜鉛サイクレン錯体を側鎖にもつペプチドを用いる多核亜鉛サイクレン錯体の構築)(2)亜鉛サイクレン錯体の細胞内および細胞核内移行(・亜鉛キャリア錯体を用いるサイクレン化合物の細胞内移入、・ペプチドキャリアを用いる亜鉛サイクレン錯体の核内移行)(3)他の金属イオンの効果(4)逆転写酵素をターゲットとする新規人工核酸ユニットの開発などにより、より有効な抗エイズ薬を見出すことができると期待される。
結論
亜鉛サイクレン錯体の抗HIV活性の増強には、錯体の多核化が重要な役割を持っていることが判明した。そのうち、特に3種類の芳香族ペンダント型亜鉛サイクレン錯体(Hiro-02, 03, 10)に高い抗HIV活性がみられた。 現在、リード化合物を設定し、これら新規化合物の臨床応用に向けて、小動物を用いた前臨床試験を計画している。

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